29 サバラルの惚気
『嫌味が通じないとは怖いもの知らずだな』
シアゼのはしゃいだ様子にドリーティアとバラティナは目を細めて嫌味を重ねる。
「それはよかったですわね」
「ルルーシア様とお揃いでよかったですね」
「そういうバラティナ嬢だってバーバラ殿と同じ色でないか」
「バーバラの髪はもう少し青み掛かっていて長くてふわふわで柔らかくていい匂いがして青薔薇の妖精であるバーバラにとてつもなく似合っていて他に追従を許さないほどに可愛らしいのです! それをツインテールにしてごらんなさい。もう外に出したくないほど愛らしいのですよ。
さらにはパーティーでのアップヘアも似合うのです。細い首筋に絶妙に配された青い後れ毛のなんと妖艶なことか。男共が振り返ってしまい困っています。だが、僕も見たいし。
もう僕たちだけのパーティーを毎日やろうかな……。
バーバラ。何しているのかなぁ?」
男言葉になって勢いよく婚約者を褒めちぎったと思いきや一転してさみしげに窓の外を見たバラティナにメイドも含めて一同はポカンと口を開けるが冷静なレライは呆れて促す咳払いをした。
「こほん」
「まあ、その、あれですわ。そのくらいの色ならば同じと言ってもいいのではないかしら?」
慌てたドリーティアが首を傾げればサラサラな白銀髪がハラリと流れドリーティアは自分のかつらの髪を一房掬う。
「私の髪色はリアフィアに全く似ていないわ」
「一緒にいるのですから必要ありませんよっ!!」
「共におるではありませんかっ!」
二人の言葉にたじろぐドリーティア。このやり取りもすでに数度目でありバラティナもシアゼも本気怒り半分で口調も荒くなるがドリーティアはその点は気にしていない。
三人のやり取りをヨンバルディは肩で笑いながら聞き入っていた。
『コツン』
階段を降りるヒールの甲高い音がした。ドリーティアたちの履いている安定性のある極太三センチヒールではとてもじゃないが出せない音である。
男たちが本能で振り返るのだがもちろんその中には女装男子も含まれる。
「……」
「ふぁ」
「これは見事な」
「なんと可愛らしい」
ドリーティアは何も言えないが自然に足は階段に向かっていた。自分もドレスなので階段を上ってまでは迎えに行けないが手を伸ばしてリアフィアが来るのを待った。リアフィアが残り三段というところでメイドスージーがエスコートの手をドリーティアに譲る。
ドリーティアのエスコートで階段を降りるリアフィアは驚いた表情をドリーティアに見せた。
「ドリー様。エスコートが変わりましたか?」
「え? ああ。そうだな」
ドリーティアは僅かにヨンバルディに視線をむけたがすぐにリアフィアに戻した。
「自分がエスコートを受けてみて直した方がよいところをいくつも見つけたのだ」
ドレスに慣れないドリーティアはヨンバルディのエスコートでは何度か転びそうになった。特に階段は前のめりになり手を引っ込めて転ぶことを阻止したほどだ。
ヨンバルディはこれまでドレスを着慣れてハイヒールを履き慣れた女性をエスコートしていたため気が付かなかったことがたくさんあり、ヨンバルディとドリーティアは二人でその研究をしながら歩いていたのだった。
『僕たちもこの数日よくお話をいたしましたしね』
ヨンバルディのこの言葉はエスコートについての話と指導だったのだ。
「階段のエスコートは男が思うよりゆっくりとそして時々止めることがポイントだ」
「素晴らしいですわ。とても安心してお預けできますわ」
王子としての教育を受けたドリーティアもヨンバルディも決してエスコートが下手ではなかった。それでもなお女性の立場に立って見ると荒々しい時があったことは否めない。




