27 市場見学
「貸し切りにしてあるから心配はいらない。我が国の鉱石の加工技術を見てほしいんだ」
ヨンバルディが安心させるように笑う。店内に入ると広い店にも関わらず男性一人しかいなかった。
「知っている者は少ない方がいいからね。今日は店主だけなんだよ。店主は王子宮メイドの兄だから信頼できる」
淑女見習い三人は帽子を取り店内を見て回った。リアフィアは殊更たくさんの質問をして喜び興奮している雰囲気であったため店主はほぼリアフィアと一緒にまわった。シアゼとバラティナにはヨンバルディが説明している。
ドリーティアはリアフィアの側にいてリアフィアが特に気に入ったような感じがする数点をチェックしていた。
「ドリー様。帰国の途につきましたらこちらへ寄りましょうね」
興奮したリアフィアが目をキラキラさせている。
「ああ。……ではなく、ええ。是非そういたしましょう」
リアフィアにはついつい男らしくしてしまいてくなるドリーティアだがリアフィアの向こうにはレライの目があるので自ら訂正した。
再び帽子を被り店を出る。
「あちらが市場なのですって! 行ってみましょう!」
リアフィアがドリーティアの手を取り少し引く。
「リリリリ! リアさんっ! てててて! 手!」
リアフィアとドリーティアは子供同士のように手を繋いでいる。
「女の子同士で腕を組むのは不自然ですわ。それともお隣がわたくしでは不安ですか?」
「そそそそうじゃないけど」
ダンス以外で手を握ることは時々しかないし街中を手を繋いで歩くなど初めてである。
「わたくしのベールは薄めですし側にはメイドも騎士様もいらっしゃいますし前方には誘導の騎士様がいらっしゃいますから迷子にもなりませんので大丈夫ですよ」
「ううううん」
ドキドキが止まらないドリーティアはどもりも止まらない。
そのどもりを不安からだと思ったリアフィアの声はしょんぼりとした。
「ルディ殿下がよろしければ交代いたしますわ」
「違うっ!」
被せるほどに強く否定するドリーティアは男言葉になっている。
「あ、ごめんなさい。違うのよ。私はその……とても嬉しくてたまらないの。ありがとう。リア」
「はいっ! 市場の物は目線より下に陳列してあるものが多いのでベールをしていても楽しめますよ。いろいろと見てまわりましょうね」
「ええ。楽しみだわ」
市場に入ると護衛騎士たちのおかげで一行のまわりは開けていく。店主はそのままなので店主に聞いたりいくつか買い物をしたりと街中視察を楽しんだ。
「帰りはここでオミナード王国のお菓子をたくさん買いましょう! 美味しそうで目移りしてしまいますわね」
「そうしましょうね」
幸せな気分で離宮に入ったドリーティアであったが夜の悲劇は容赦なくやってきて離宮にドリーティアの悲鳴ともうめきとも怒号とも取れるような声がした。自分が充てがわれた部屋で眉を寄せ心配気に声のする方を振り向いたのはリアフィアとシアゼだけで、メイドや執事に至るまでスルー機能が作動していた。
翌朝、シアゼと顔を合わせたドリーティアは情けない顔を見せる。
「シアゼさん。貴方はあの期間にこれを受けていたのですよね?」
「ドリーティア様。その通りです。二ヶ月の間に数度受けました」
シアゼはドレスの罰の際にワックス脱毛を体験させられている。
シアゼがその時の痛みを思い出しブルリと慄えてもう二度とやりたくないとばかりに脇を閉め両手で腕を抱え込んだ。
「早く……早く問題を解決させなければならないわ。こんなこと何度も耐えられない。
淑女とは何と我慢強い人たちなのでしょう……」
シアゼとバラティナが同意しリアフィアは苦笑いをする。
「そうなのですねぇ」
『そもそも君のせいだろう?!!』
ヨンバルディの間の抜けた感嘆の声にドリーティアはうらめしそうに睨んだ。
それから宿に二泊した後、その日の夜は伯爵家の別館を借りることになっていた。
だが、お昼すぎに到着したのは古びた宿であった。王族が使うような宿ではない。
「ここが伯爵家の別宅なのですか?」
誰もが疑うような建物である。




