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25 淑女の帽子

 馬車寄せに集まった面々はバラティナの暗い顔に驚いた。


「バラティナ様。え、が、お」


 チルシェが口元に手を当ててバラティナの耳近くで声をかける。

 バラティナは慌てて笑顔を貼り付けた。ドレスの罰から笑顔を作ることは随分と勉強し練習してきたので知っている者にしかわからない程度にぎこちない。


 バラティナは何かに気がついてリアフィアに近付いて手を前で組む。


「リアフィア様。私、お言葉の練習が足りないようでしたですの。お気が付きになりましたらご指摘くださいますととても嬉しいことですの」


「ふふ。わかりましたわ。バラティナ様は努力家でいらっしゃいますのね。

先程のお言葉ですと『嬉しいことですの』ではなく『嬉しいですわ』がよいと思いますわ」


「教えていただけて嬉しいですわ」


「お上手です」


「リア。私も!」


「かしこまりました。気が付きましたらそのつどご指摘させていただきますわね」


「僕もよく耳にしているオミナード国語の女性言葉だから指摘していこう」


 リアフィアもヨンバルディも快諾した。

 昨日と同じように馬車に乗り込んだ。


 ドリーティアとバラティナとレライの馬車では淑女レッスンが行われている。


 ランチを馬車内で済ませて三時前に目的の街へ到着した。

 ドリーティアたちの馬車が止まると扉が開きメイドが一人乗ってきた。手に何やら持っている。


「本日はお帽子をつけていただきます」


 メイドが持っている帽子は前にツバが広く装飾も派手だ。

 だが、一番の注目場所はベールである。鼻の下まで隠れるような長さで透け感の少なめなベールがついていた。


「そのようなベールで前が見えますの?」


「ですが、母上や姉上が王都でショッピングをするときはこのような帽子でしたわ。街中で被っているご婦人方はよく見かけますから彼女たちは貴族の方なのでしょう」


 バラティナは公爵令息なので時折母親や姉とともに王都でショッピングをしたり、少ない護衛と出かけたりもしている。


 だがドリーティアは一人っ子王子であるので自由に王都で遊ぶことなどできるわけがない。お忍びといいながら半径五十メートル以内はガチガチに包囲されていて全く忍んでないし、そもそも馬車で通り過ぎるだけなことがほとんどである。もちろん母親王妃陛下とのショッピングなど経験はない。


「遠くから見たものとこうして手にとってみるとでは違うものなのですね。

視察へ赴くとよくそう感じていたものですけれど、貴婦人の帽子ひとつもそうであったとは。私はまだまだ視野が狭かったようですわ」


 ドリーティアが真剣な眼差しで帽子を見ていた。


「これからたくさんのことをお知りになるお時間はございます」


 ドリーティアが顔を上げると情に満ちたレライがそこにいた。


「そうですわね」


 ドリーティアも目を細めバラティナはホッと胸を下ろした。


「そろそろ皆様がお待ちです」


 メイドがバラティナの頭に帽子を被せレライはドリーティアに被せる。


「お二人とも神秘的な雰囲気でステキです」


「「ありがとう」」


 そう言われると不思議なもので二人は神秘的な雰囲気でお礼を述べた。


 メイドとレライが先に馬車を降りる。そこにはすでにシアゼがおりバラティナに手を差し伸べる。

 足元を見たバラティナは一気に神秘的な雰囲気を霧散させた。


「こわ……。

メガネが邪魔ですわぁ。でも外したら尚更見えませんし」


 いつものドレスのようにスカートにボリュームはないので足元が見えるはずだが足元を見てしまうと帽子のせいで前方が全く見えず一歩が踏み出せない。


「バラティナ嬢。大丈夫だ。足元だけ見ていればいい」


 シアゼのアドバイスに納得して足元以外の物を全てシアゼに任せてステップを降りた。


「ふぅー」


 降りきったバラティナは大きく呼吸をする。

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