24 サバラルの誤算
レライもバラティナの説得に首肯する。
「バラティナ様はあのようなはしたない行為をなさらないとお約束できますか?」
「できます」
バラティナは拳を握りしめて眼力を強めた。
「わかりました。では今夜はドリーティア様だけにいたしましょう」
「「「「かしこまりました!」」」」
「リアぁ」
「ドリー様。浅慮なご行為はお気をつけてくださいませね。脱毛程度で済んでよかったですわ」
「ウゥー」
ドリーティアはドレスの罰を受け反省した際にリアフィアにお願いをしていた。
『気がついていると思うが私はどうも浅慮なところがあるようだ。君の話はしっかりと聞いていくから、これからも忌憚ない意見と指摘を頼む』
そこまでお願いしてある本物の婚約者リアフィアに言われれば納得せざるをえないドリーティアはしょぼんと首を垂れた。
そうして朝食を済ませその場で食後のお茶をした。
「今夜は王家の別荘へ参ります。その別荘がある王家直轄領にほどほどに大きな街がありますのでそちらに寄る予定です」
「まあ! それは楽しみですわ。帰りにはたくさんのお土産を購入したいと思っておりますの。ヨンバルディ様のご説明を聞きながら見て回れるなんてとても嬉しいですわ」
リアフィアが喜色めく。
「もちろんオミナード王国の特産品も並んでおりますのでご紹介させてもらいますよ。
というわけで街歩きをいたしますので本日のお支度はそのように」
ヨンバルディはレライに視線を送りドリーティアとバラティナが疑問を浮かべた。
「うふふ。お二人共よろしかったですわね。本日はパニエは無しだそうですわ」
「本当かい?!」
「よかったぁ!」
二人も嬉しくなったがチラチラとレライの様子を見ていた。レライが目を瞑り小さく頷くと改めて歓喜していた。
「本日はワンピースを着ていただきます。お靴もヒールの無いものになります。
御御足が見えやすくなりますのでお気をつけくださいませ」
「わかりましたわっ!」
「はいっ!」
二人の喜びようにレライも思わず表情を和らげた。
部屋に戻り着替えをする。
バラティナは鏡の前でくるくると左右に腰を捻りスカートが遊ぶ様子を楽しんでいた。
「これは軽くて素晴らしいですことね。立ち座りもすんなりとできますですわ!」
「気は緩めないでくださいませね」
あまりにはしゃぐバラティナにバーリドア王国から伴っているメイドのチルシェが冷めた目で釘を刺す。
「わかっていますですわ。だからこうして女性言葉を使っていることではありますわ」
「そうですね。お言葉は随分と慣れていらっしゃいましたね。しかし、語尾などは少し違うところもありますからそろそろ指摘するようにいたしますね」
「そうなの?!」
「まさか完璧なおつもりでしたか?」
「…………」
「その自分なら完璧だとか完璧にできると勘違いなさるクセはお直しになられた方がよろしいと存じます」
バラティナは瞠目した。
「料理をなさったこともないのに自分なら資料さえあれば完璧にできると勘違いして、バーバラ様に小麦粉の丸焼きをご提供なさってしまいましたことをお忘れになりましたか?」
忘れるわけがないのでブンブンと横に首を振る。家族も使用人も食してくれないようなものをバーバラはバラティナが作ったという理由だけで口にしてくれた。
「笑顔の練習や歩行の練習で筋肉痛になったことをお忘れになりましたか?
実は他家から婚約破棄をしてバーバラ様を自由にせよという催促であったたくさんのお手紙をご自分への招待状だと勘違いしていたことをお忘れになりましたか?」
バラティナは立っている状態で肩を落とす。
「今日も今日とでドリーティア様のようにお美しいお姿勢でなかったことをお忘れになりましたか?」
もう立っていられず顔を覆って蹲る。
「人に指摘され直していく謙虚さを身に着けましょうね」
小さくぷるぷると首を縦に振った。




