22 淑女の気遣い
「先程の指示はリアフィア様をお手本になさったのですか?」
レライはもちろんドリーティアの部屋に同行している。ドリーティアはレライのエスコートでソファに向かい腰掛けるがドレスなので浅めに座った。
「そうだ。……ではなく。
そうですわ。これまでは相手への牽制や苦言のためにメイドへの言葉を使うことはございましたがそれだけではないとリアの言葉で気が付きましたの。
メイドに手間を取らせない一言は積み重なれば物質的にも時間的にも節約になりますし、メイドにはこちらが気にかけているという好印象を与えるでしょう」
「そのお考えは男性らしいなとは思いますが、まあ、いいでしょう」
「え? 違うのか?」
「リアフィア様は素直にメイドへの気遣いができるお優しい方なのだと思いますよ」
「それはわかっているっ! リアは本当に素晴らしい女性だっ!」
ドリーティアが男性言葉に戻ってしまったがリアフィアを褒めたいためだとわかっているのでレライはスルーする。
ノックの音がしたのでドリーティアが頷きレライが扉を開ける。
「御御足用のお湯をお持ちいたしました。失礼いたします」
ヒールの無い靴とはいえ細身の靴であったドリーティアはそれは拒否しない。レライに手を借り一旦立ち上がるとスカートを膝上ほどまで上げてから座り直す。こうするとおしりにあったパニエが上にくるので深く座れるのだ。
メイドが跪きドリーティアの足を洗い始めた。即座に目を閉じて弛緩する。
「ふぅ。マッサージだけは女性を羨ましいと思うな」
「ん!」
「思いますわ」
レライの指摘で直すドリーティアはいくらリラックスしていてもリアフィアの惚気でなければ男言葉は許されないと理解した。
足を洗いながら足の裏や指を程よく刺激してくれるテクニックは流石である。
しばらくしてタオルでキレイに拭かれその足は別のタオルの上に置かれる。
「それではそろそろお食事ですので食堂へご案内いたします」
一人のメイドはワゴンにお湯を乗せ部屋の隅へ立ち、もう一人のメイドが手で扉を示した。ドリーティアはレライに引かれるようにエスコートされて立ち上がる。
「ではこちらを」
レライの指示でドリーティアの前に出されたのはどデカいハイヒールだった。マッサージというご褒美に浮かれていた気分は一気に落ち悲しく笑いながらそれを履いた。
「お戻りになられましたら浴室でリラックスマッサージをいたしますので頑張ってくださいませ」
ドリーティアが部屋を出る時悲しげな視線を受けた壁際のメイドは手を胸の前で握りしめドリーティアを励ました。
ドリーティアは素直にコクリと頷き食堂へ向かった。
「お久しぶりのハイヒールですが随分と姿勢がよろしいですわ」
「日々歩くにも椅子に座るにも姿勢に気をつけていますの。そのお陰だと思いますわ」
「それは素晴らしいお考えです」
「淑女の皆様が日々やっていらっしゃることですもの。特別なことではありませんわ」
「皆様が特別でなくとも日々努力なさっていることに気がついただけでも素晴らしいです」
レライが優しげに笑うのでドリーティアは少しばかりは仰け反ったが足元がおぼつかないので本当に少しだけだった。
食堂に入るとすでに全員が揃っていた。ドリーティアの優雅な歩きに皆が驚いていたが特にバラティナは同じくドレスを纏う男として違いを見せつけられ唖然とする。
「ドリー様。常日頃の姿勢が結果になっておりますわね」
「リアとお茶会が増えればもっとよくなるわよ」
冗談を言いながら引かれた椅子に座る仕草もあの事件の時とは比べ物にならないほど優雅である。
「どういうことですか?」
差をつけられたバラティナが理由を聞かたがる。




