20 馬車での過ごし方
先陣隊がすでに大きなパラソルと丸いテーブルと五人が座れる椅子を用意していた。
「いつもはここで敷物の上で食べるのですがレライの指示でこのようにしました。さすがにバーリドア王国王宮メイド長ですね」
ヨンバルディがべた褒めする。
「お褒めに預かり光栄にございます」
「まあ。わたくしにもこのお椅子をご用意くださったの」
少し座面の左右が長めの楕円の椅子には背もたれがなくその椅子が三脚用意されていた。
今日は外出ということでいつもよりはスカートのボリュームが抑えられているとはいえパニエはリアフィアが二枚、男性のウエストであるドリーティアとバラティナは一枚入れている。スカートにボリュームのあるドレスを着ていると背もたれのある椅子では休めない。
「長旅となりますのでリアフィア様のお体にもご無理のないようにいたしたく」
「ありがとうございます。レライ」
リアフィアが美しく微笑みメイドのエスコートで椅子についた。
ドリーティアとバラティナもそれぞれそのままエスコートされて席についた。
ヨンバルディとシアゼの椅子には背もたれがあり二人はそれに座る。
メイドたちが昼食を並べていく。
「ん? シアゼ君は男性なのに背もたれを使わないのかい?」
「俺はこのような体型で今回はドリーティア様とご同行できません。ですので、お付き合いできる時くらいはドリーティア様とバラティナ様のご苦労を共有したいと思っています」
「ゼッド……」
ドリーティアは感激で思わず本名を呟いた。
「シアゼさんっ! ありがとうございます。共に頑張りましょう!」
すかさずバラティナがフォローしそれに気がついたドリーティアはコホンと咳をして誤魔化した。
「そうですか。淑女が背もたれに仰け反っている姿は想像だけでも美しくありませんからな。それなら僕もお付き合いさせてもらいましょう」
ヨンバルディが背を正す。
「ヨンバルディ様。お疲れになってしまいませんか?」
リアフィアはヨンバルディと遠い親戚設定なので殿下ではなく様付けの方が自然だろうということになった。
「我らは馬車内でゆっくりできますから大丈夫です。男二人の旅もなかなか快適です。僕がバーリドア国語をシアゼ君がオミナード国語を喋り互いに間違いを指摘し合っているのです」
「それは素晴らしいレッスンになりそうでございますわね」
ドリーティアもシアゼのやる気に感心した。
「お二人はどう過ごされているのですか?」
シアゼが心配そうに見た。
「私たちは扇を練習しておりますことよ」
「扇ですか?」
「私たちはまだお見せできるほどではございません。リアフィア様。手本を見せていただけますか?」
ドリーティアはリアフィアが扇を腰に差したことは確認済みだ。
優雅に自然に扇を取り出すリアフィア。片手で半分ほど開き口へもっていく。
「「おーー!!」」
ドリーティアとバラティナは感嘆の声を漏らしたがヨンバルディとシアゼは首を傾げた。普段女性たちがやっている普通の仕草なので何がすごいのがわからない。
「レライ。お二人に扇を貸してやって、あげてくださる?」
リアフィアたちはドリーティアとバラティナが言葉を練習していることにすぐに気が付き直しや間違いを指摘はしない。ダメならレライが指摘するはずなのでレライに任せている。
レライから扇を受け取ったヨンバルディとシアゼはドリーティアたちのように広げようとする。
「ストップ!」
ドリーティアが思わず声を上げた。
「リアフィアさん、両手開けを見せてくださいませ」
ドリーティアに言われてリアフィアは素早く美しく扇を開けてみせた。
『私たちが習っていたのは確か中骨が十五本程度だ。リアの扇は三十はありそうだから中骨も細く更に繊細な力加減が必要だろう』
『おお! あの早さで最後の中骨三本を残している! 流石だぁ!』
ドリーティアとバラティナはリアフィアの優秀さに感動してばかりである。




