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18 淑女言葉

「はいっ! では早速始めます。ここからは殿方口調は使用禁止です」


「そこまでするのか?!」


 イードルは先程から気分の起伏がいつにも増して激しい。レライの手の上で転がされているようだ。


「その口調をお改めください。

口調というのは咄嗟の際に出てしまうものです。殿方口調が出てしまうことを少しでも軽減するため普段から淑女口調でまいります。

オミナード国語の淑女言葉をお使いになってくださいませ」


「……わかった」


「殿下、いえ、ドリーティア様」


「わ、わ、わかりましたわ」


 最初の一言であるがゆえイードルは顔を赤くした。


「私もわかりましたわっ!」


 サバラルがフォローしたことにイードルは驚きそしてサバラルに笑顔を向けた。


「では」


 レライがカバンを開く。


「こちらをお持ちくださいませ。こちらはお二人の婚約者様からお借りしてきたものでございます」


 二人が受け取ったのは親骨に見事な彫刻が施され見るからに繊細なレースでできている扇であった。

 レライは自分の分も取り出す。


「はい。ではわたくしの真似をして扇を広げてみましょう」


「扇を広げるくらいできよ……できるのではありませんか?」


 イードル! ぎりぎり言葉はセーフ!


「そうでございますか? ではまずは」


 レライがどう見ても安そうな扇を二人に渡して美しい扇を回収する。


「なぜですか?」


 サバラルはバーバラの扇を往生際悪く目で追うがレライは何の躊躇もなくしまい込む。


「ご婚約者様からお借りした扇を万が一にでも破損させてしまいますとお二人の心中が大変お乱れになると思われますので、まずはこちらで練習いたしましょう」


「そうか、ではなく、それは良いお考えですね」


「ありがとうございます。早速広げてみてください」


「「はい」」


 二人は扇を左右の手で広げようと試みた。


「ん? あれ? これは固定されているみたいなことですか?」


 サバラルのへなちょこな女性言葉であるが言葉慣れの最中なので細かいことは指摘しないレライ。慣れない女性言葉をオミナード国語で話すので難しいのだ。指摘しすぎて喋らなくなってしまうことは避けたい。


「バラティナさんの扇もですわ、か? 私の扇も開きません」


『バキッ!!』


「あ………………」


 イードルの手の中には親骨の折れた扇が屍を晒していた。

 サバラルは慌てて手を止める。


「まあ! リアフィア様の扇でなくて本当によぉございましたわねぇ」


 レライがヒョイッとイードルから扇を取り上げそれをプラプラと眼の前で揺らす。もちろん嫌味であるのでイードルが顔を顰めた。


「ドリーティア様。お顔の訓練からやり直しますか?」


 イードルは両頬を自分の両手で覆いグッグッと上下させ手を離すとにっこりと笑う。


「ご心配をおかけして申し訳ございません。もう大丈夫ですわ」


「それはよぉございました」


 またカバンから安い扇を取り出しイードルに渡す。いったいいくつの扇を用意してあるのかとびっくりしてしまう。


「扇は上に持ち上げるのではなく横に広げるのです」


 レライは見やすいように二人の眼の前で持ち左手で下の親骨を抑えると右手で上の親骨をゆっくりと広げていく。


「そちらなのですかっ!」


 二人は親骨を上に上げて広げようとしていた。イードルの扇は骨組みを連結させている要の部分でボキリと折れたのだ。


「ではやってみてください」


「でも母上は片手でやっていましたが?」


 サバラルは両手でゆっくりと広げていきながら母親の姿を思い出した。


「もちろんその技術はゆくゆくは必要です。まずは両手でどの程度の力で広がるのかを体に覚えさせることが大切でございます」


 二人は頷きジッと扇を見ながら慎重に広げていく。


「ここの中骨が重なっておりますよ」


 レライはイードルの扇の一部開いていない部分を指摘する。


「下にある左手は扇面の部分をあまり触らないように」


 サバラルの左手元を扇でトントンと叩く。


「扇は開ききらず二、三本残すと美しいです」


 それから二人は扇を開いたり閉じたりを何度も何度も繰り返していった。

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