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13 王太子妃にしたいのなら

 断っておくが、フェリアもレライも何も相談し合っていない。ただ王妃陛下との交流で王妃陛下が望むことを予想して、そうなるような言動を自然にしてしまうだけである。

 そしてフェリアのその様子にレライは心の中で歓喜する。


「イードル様」


「はいっ!」


「わたくしを王太子妃に、ゆくゆくは王妃になさりたいのでしたらここ隣国で淑女のお手本になってくださいませ」


「わかった」


 イードルの速攻の答えにサバラルが頭を抱えゼッドが肩を叩いて慰めた。


「よ、容姿はともかく声で男だとわかってしまうのではないですか?」


 そう言うサバラルの声は少々高めでハスキーボイスの女性と言われても納得できる。だが、確かにイードルの声は成人男性のそれに近い。


「我が国では五年前に流行り病が蔓延しました。死亡者は少なかったのですが、多くの者が喉を傷めまして食事ができずに衰弱したのです。その後遺症で声色の低い女性も少なからずおります。

後遺症だと言えば尚更ご落胤だと誤解してくれるでしょう」


 ヨンバルディは用意していた答えのようにスラスラと説明する。


「我々の服を用意するのにどれくらいかかる?」


 覚悟を決めたイードルがレライに向けた顔は王子であった。


「ご用意はできておりますのでご心配には及びません」


 王妃陛下の図らいであの時のドレスがすでに馬車に用意されている。どデカイハイヒールもしかり。

 

「はへ??」


 覚悟を決めきれていないサバラルがかえるが潰されたような悲鳴をあげる。


「サバラル。もう足掻くな」


 イードルに諭されたサバラルはガクリと肩を落とした後小さく頷いた。


「我らの身分を隠すとなると名も変えねばならぬな」


「間違えた時に誤魔化せるよう皆さんの愛称が含まれたものがいいでしょうね。

イードル殿下はドリーティア、フェリアさんはリアフィアではどうですか?」


「愛称!!?」


 イードルは顔を赤くし背を伸ばしフェリアは頬を染めて扇で顔を隠した。


「え? あれ? お二人は婚約してすでに五年とお聞きしておりましたので」


 ヨンバルディは二人の様子に慌てるが慌てないのはさすがのレライである。


「不甲斐ない殿下で申し訳ございません」


「私なのかっ!?」


「もちろんです。愛称を求めるのは求愛の常識です。それもできぬほどヘタレではございませんか?

サバラル様はすでに愛称で呼び合っております」


 イードルとフェリアとゼッドがバッとサバラルを見た。サバラルはレライの情報網に驚愕してレライを見たがレライがにっこりとして首肯した。


「え、え、え? あ。ええ。僕はラルと呼ばれています」

「バーバラ嬢のことは?」


 食い気味にイードルが尋ねる。


「それはナイショです。まだバーバラも恥ずかしがっておりますし」


 そういうサバラルが恥ずかしがって顔を赤めた。正直なところサバラルはまだバーバラには弟扱いされていてそれ故に許された愛称と言えたがそれを言うことは更に恥ずかしいので言えるわけがない。


 イードルがレライから嫌味を受けている間ゼッドは体を折り曲げて床に向かって独り言を呟いていた。


「シア? ルル? んー、どちらも捨て難い。

ん? 俺は? 俺の名前は愛称呼びなどできないのではないのか?」


 帰国したらすぐにでも婚約者ルルーシアに愛称呼びを頼もうと思ったゼッドは頭を掻きむしる。


 代々騎士団に所属するゼッドの家では部下からも呼びやすいようにと短い名前になっている。確かに戦場で「ゼディファンテストリアシャスト様!」と言っている時間に矢にあたってしまってはもったいない。部下が上司を短い愛称で呼ぶ姿を見たら不敬だと怒るような実質が伴わないプライドだけの騎士モドキ貴族はまだまだいるのでそれらへの対策のために短い文字数の名前であるのだ。


「では、サバラルはラルーシャでよいな?」


「嫌ですっ! ラルはバーバラだけのものですっ! バラティナにしてください」


「おっおっ俺はシアゼでっ!」


 掻きむしっていた手をそのままにゼッドが立ち上がり皆の注目に気がついて真顔に戻って何もなかったようなフリをして座った。

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