9 ヨンバルディの続編
晩餐の後は応接室でお茶をすることになった。
ヨンバルディとイードルが向かい合うように一人掛けに座り二人掛けの一つにフェリアがもう一つにサバラルとゼッドが腰を下ろす。
メイドがお茶を出すと全員下がり執事と側近二人がヨンバルディの後ろに付いた。そしてイードルの後ろにはなぜかレライがシャンと背筋を伸ばして立っていた
取り留めのない話をする。
不意にヨンバルディが言語をオミナード語に変えた。
「皆さんはオミナード語もできると聞いております。どうですか?」
「専門用語などでなければ問題ありませんよ」
イードルの答えに四人も頷いた。
「さすがバーリドア王国王妃陛下のご推薦の方々だ。ではそろそろ作戦会議といたしましょう」
四人が首を傾げた。それを見たヨンバルディはびっくりしてイードルの後ろにいるレライに視線を向ける。
「お話をお進めいただいて問題ございません」
「そ……うか。で、では、フェリア嬢が僕の恋人役になってくださるということでよろしいのかな」
「よろしいわけがないっ!!
それに貴殿には婚約者がいたはずだが?!」
イードルが立ち上がる。後ろから肩を下に押されて眉を寄せたまま座った。力強く押されたわけでもないのに従わなければならない威圧を感じるのは不思議なことだ。
目をパチパチとさせるヨンバルディに落ち着き払ったレライは説明する。
「第三者からのお話で誤解が生じるよりもヨンバルディ王子殿下からお聞きになる方がよろしいとバーリドア王国王妃陛下はお考えでございます」
「ああ。それは確認不足ですまない。では僕から説明させていただこう。
イードル殿下の仰るように僕には婚約者がおります。公爵家のご令嬢で同年齢。同じ学園に通っております。
それで、ここからが本題ですが実はそのご令嬢と婚約の破棄を希望しております」
「はあ?」
「えっ?」
「はっ?」
「ッッッ!」
四人が驚いていて口を挟めない間にヨンバルディはその理由を説明した。
「というわけで、フェリア嬢と仲睦まじい様子を見せれば何かしらの反応があるはず。それを逆手に取って婚約破棄としたいのです」
説明を一通り終えたヨンバルディは四人の反応を待った。三人の男たちはずっと険しい顔をしているが淑女たるフェリアは最初こそ驚いたもののすぐに扇を広げ相手に心情を読ませない表情を作っていた。
フェリアが納得しようとしているか断る理由を探しているのかはたまた困っているのかワクワクしているか、全くわからないヨンバルディは事細かく説明せねばならなくなっていた。
勝ち負けで言うとここでフェリアの淑女勝利である。
「フェリア嬢。いかがかな?」
フェリアの様子にシビレを切らしたヨンバルディが声をかけた。これもフェリアの作戦だ。フェリアの方からやる気のありそうなことも断りそうなことも言わないし顔にも出さない。相手から伺いを立てるような言動をもぎ取ることが勝利の鍵だ。
「いくつかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ああ! 何でも聞いてくださいっ!」
やっとフェリアが声を出したことに前のめりのヨンバルディ。どんな条件でも呑みそうだ。
「最終的にわたくしの身分を明かしすべては作戦であったと公表していただかなければなりません」
「どこか遠くの皆に知られていない国の姫君ではダメですか?」
「わたくしどもは隣国なのです。わたくしは将来王妃となります。外交でこちらに赴くことも、こちらの国の外交官と会うこともありましょう。その時に醜聞となるようでは協力できませんわ。
あくまでもヨンバルディ王子殿下に協力するための演技でわたくしの本来のパートナーであるイードル王太子殿下も付き添い協力していたという形である必要があります」
フェリアは相手が王子であっても自国バーリドア王国の名が穢れぬよう毅然と対応した。その様子にレライが心で満足気に頷いていたことなど誰も知る由もない。




