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2/2

―2―

数日前に私は見知らぬところで、傘を差している立ち方からしてイケメンそうな美人さんに出会った。

「雨でもないのに、傘を差しているよー?」と子供はその人を指差した。すると、母親らしき女性は子供の腕を下ろして言う。

「あの方はとっても偉い人で、女王陛下に逆らった悪い人だから、駄目よ」と。「わるい人なの?」と子供が聞き返す。どうやら、母親の言っていることが理解出来ない様だ。そんな子供に母親は、

「そう。悪い人なのよ」

とだけ言うと「えー?」と首を傾げる子供の手を強引に引っ張って、親子は去って行った。親子が去った後に残されたその人は、まるで絵画の様に綺麗だった。

「……」(女王? ……悪い人……には見えないけど)

なんて、その傘の人物をじっと見ていたら、その人が一瞬、傘を傾けた所で目が合った。

「……」

「え、何?」

目が合ったと思ったら、その人は無言で此方に歩いてくる。傘に隠れてはいるけれど、歩く振動でその隙間から見える、人形の様に白い肌と整った顔。ファンタジーの軍人キャラが着るような服装に暗めの色の傘と言う組み合わせが何とも言えず、少し怖い。無言の美人は怖いと言うのがよく分かる。後ずされば、その分だけ距離を詰められるので観念する事にした。恐らく、走ればその分追い掛けて来るのだろう。私との距離が縮まると、その人は傘を閉じた。感じた通りの顔が良い男性で、魅入ってしまう。それもつかの間、

「えー……っと、何か、ご用ですか……?」

近寄って来ても無言のまま、まるで値踏みをするかのように見て来るので、耐え切れなくなって声を掛ける。すると、

「失礼。今度のアリスはどんな人なのかと思って。思った以上に、冷静ですね。君」

「え……えぇ……?」

「……重ねて失礼。僕は、君を迎えに来たんだよ。アリス」

「迎え?」

謝罪を口にしては居るけれど、とりあえず形式だけというのは理解した。私としても何が何だか分かっていないので、形だけとは言え謝罪を受け入れる程余裕がない。

「そう。ようこそアリス。赤の女王が治める遊技場へ。僕は、ルディ。君を迎えに行くように、隊長から言付かった。案内するよ。隊長の所へ」

そう微笑んだ青年・ルディは、傘を持ったてはそのままに、空いた手を胸に当てて軽くお辞儀をした。優雅で、何処かの王子様かと思うくらい。だけど、

「ちょ……ちょっと、待って下さい!」

「? 何か?」

「何か? じゃないです!」

紳士的で格好良いなと思っていたのに、挨拶を終わらせたらすぐに「行くよ」と一言言うだけで踵を返してしまう。此方の都合などお構いなし。黙って付いて来いと言わんばかりに足早に進んでいくので、思わず、

「全然意味が分からない!」

と勢い良く言ってみたものの、振り返った美人の顔が怖くて、小さく「……です……」と口にしていた。威圧感がある。顔に「面倒くさいな」と書いてあった。

「……あぁ、そうか。すまない。僕達の中では、もう何十回と同じ事を繰り返しているから、略式化してしまっていたけど、君は初めてだったね他のアリス達は黙って付いて来たけど?」(……面倒だな。アリスにはあまり関わりたくないのに)

「無理です!」

「……随分と明確な意思表示だね。……その愚直ともとれる素直さに免じて、一つだけ、質問に答えてあげても良いよ。その後は黙って付いて来て。良いね?」

「良くない」と言いたい所だが、ルディと名乗った青年が心底面倒臭そうに思っている様にも焦っている様にも見えたので、素直に頷いた。状況が読み込めないが、従わなければどんな目にあわされるか分からない。

「えっと……」

何となく、「此処は何処ですか」と訪ねれば、「さっき言ったでしょう。赤の女王が治める遊技場だと」と言われる気がした。何か別の質問を考えなければ。

「何処に行くんですか」と聞いても同じ事だろう。「隊長の所へ案内する」と言っていたので、そう言われて御終い。凄くそんな気がする。

「……」

急がなければならないのに、立ち止まる。思案が長ければ長い程、この場所の滞在時間が長くなると言うのに、不思議と苛立ちは感じない。感じないが、

「……」(……このアリスも他と同じですぐ殺される。隊長の命令でなかったら、彼女を傷付ける可能性しかない異分子なんて、見捨てて行けるのに……)

悩む素振りを見せるこの少女。確かに迎えに来た少女に間違いないのに、さっきから可笑しい。何時も通りの『異世界の少女アリス』ならゲームマスターであるウサギから何らかの形でゲームについての説明がされていて、理解している状態にあった。けれど、この少女は、何か違う。

「……アリスって、何ですか? 私はアリスなんて名前じゃありません。じゃぁ何? と聞かれても、答えられる名前が見付からないのも事実ですけど」

「……」

「?」

「……」(驚いたな……)

自分が『アリス』である事も、理解していないらしい。けれど、自分の名前も分からないらしい。自分の名前が分からないのは当然か。この世界では、少女のような存在には皆『アリス』と名付けられる。今まで出会ったアリスは、その瞬間から『アリス』である事を受け入れていたのに。

「……」(あのウサギ、今度会ったら問いただしてあげましょう)

きっと、同じ事の繰り返しに飽きてしまったのだろう。忘れやすく飽きやすい。なんと、人間ひとよりも人間ひとらしい生命体だろうか。

ふと、思う。そう言えば、パレードが開催されていないなと。

ゲームをリセットする上で必要だと言われていたあのパレードは、アリスと隊長を引き合わせる目印のようなものだった。今は開催されていないどころか、最初のアリスの出現と同じこの村に現れて。しかも、普段は居ない筈の女王の兵も居る。

何だ、この状況。少し可笑しいと思えば、その違和感は留まるところを知らずに溢れて来る。

「どうしたんですか? 答えてくれないと、一緒には行ってあげませんよ?!」

「……。アリスとは、この国の救世主になる予定の名前で、今は君の事ですよ」

「救世主?」

「そう。アリスはゲームマスターである白いウサギに導かれ、此処とは違う世界……異世界からこの国に現る。そして女王を倒せる唯一の女性として、女王と戦い、国を救う。この国に伝わる伝承です」

「女王と戦う? 女王って?」

ウサギは本当に何も伝えていないのだろうか。質問は一つまでと言ったのに、当たり前のように次から次へと出て来る疑問符に、つい答えてしまいそうになる。どうしたと言うのか。他とは違う反応に、少し話をしただけで興味が湧いて来た。興味と言っても、彼女が殺されるまでどのくらい持つのだろうと言う興味だが。

何故此処に女王の兵が居るのかは分かりかねるが、此方に気が付く様子も無いので、まだ良いか。

「アリス」

「はい?」

呼ばれたので返事をしてから、「どうして返事をしたのだろう?」と疑問に思う。私は『アリス』なんて名前じゃないのに。でも、聞き馴染みはある。それでも、矢張り私の名前ではない。私は救世主とか大層な存在でもない。

「僕は君の質問に答えた。なら、君は僕に応えるべきだと思うのだけど、どうだろう」

「確かに。そうでした」

「なら、暫く黙って付いて来てね」

「分かりました。でも、どのくらい?」

「……もう、黙って付いて来て」

「あ、ごめんなさい。分かりました」

本当に分かっているのか。と疑いの目を向けられはするが、大丈夫。黙れと言われたら黙るよ。だって、言う事聞かなかったときはお仕置きされるからね。ごはん抜きとかなら耐えられるけど、叩かれたりするのは痛くて嫌だったな。

村の外れから、森の中へ。流石にもうその傘は開かないらしい。それなら、何の為に差していたんだろう。あの子供が言っていた様に雨は降っていないし、日傘と言う程日差しが強い訳では無いのだから。母親の「偉い人で悪い人」がヒントになるのだろうか。

「うわ……」と思わず口に出してしまう程、森の中は幻想的だった。まるで、童話の中の風景みたいに、きらきらと木漏れ日を反射する鏡らしきものが幾つも浮いていて、触ろうとしたら止められた。

これは色々な場所に繋がっているから、迷子になるよ。流石に、迷子探しはごめんだな」

「例えば?」

「そうだね。この国の領土内、同じ鏡の有る場所なら、何処でも」

答えになっていないような気もするけど、もう十分迷子の様なものだから、これ以上迷うのは楽しそうな気もした。何だかんだ、私は好奇心と言うのが旺盛らしい。初めて行く場所はわくわくもする。空想のような世界に憧れていたと言うのもあって、今も少しテンションが上がっている。

早歩きだったルディさんは、歩きにくいと言う訳では無いだろうけど、森に入ると少し速度を落とした。正直、付いて行くのに精いっぱいでだったから周りの景色を見るどころでは無いし、疲れた。

そこに座って。と、ルディさんは羽織っていたコートを木の根において、エスコートする。こういう事するのって紳士と言うんだろうね。私の周りには居なかったタイプだけど、不思議と頬が紅潮する事も、胸が高まる事も無かった。

「アリス」

「何ですか?」

たった数回、道中『アリス』と呼ばれただけなのに、抵抗も無くなってきた。私の名前は最初からアリスだったのではないかとも思えてもきたから不思議な事極まりない。

「さて、」

落ち着いて彼の顔を見る。

「……」(……凄く、綺麗……)

ルディさんは、その物腰通りのイケメンだった。イケメンを通り越して、見惚れてしまうくらいの美人。男性に美しいという表現があっているのかはわからないけど。

「話の続きをしよう。『異世界の少女アリス』は本来、白い時計を持ったウサギが連れて来る存在の筈なんだけど、君は、……その様子だと、ウサギには会わなかったようだね」

「ウサギ……?」

ウサギと言えば小学生の頃、学校でウサギを飼っていた。四年生から六年生の児童が、飼育係を決めて世話をしていたのは覚えている。けれど、それ以外でウサギは見ていない。

正確には、ペットショップとかでウサギは見るが、白いウサギは、学校で世話をしていた子が今のところ最初で最後。その白ウサギも、私が六年生の時に年下の飼育当番が病気にかかっていて隔離されていたそのウサギに「餌をあげ忘れた」と言う理由で死んでしまった。そんな事を聞かれている訳では無いだろうけど、何となく思い出した。

ウサギって白いイメージがあるけれど、こんなに白色のウサギばかり見ないなんて事が有るのだろうか。言われれば不思議に思う。

「はい。見てないです」

「なら、どうやって此処に来たの?」

「どうって……気が付いたら居ました」

周りの音は何となく聞こえていた。けれど、視界だけははっきりとしていなくて、ぼーっと立っている感覚。目は開いているのに、寝ている。夢を見ている感じがした。

暫くそんな状態で、はっきりと聞こえたのは、子供の声。「雨じゃないのに、傘を差している」だった。真っ先に目に飛び込んで来たのは、傘を差しているルディさんの姿だった。

寧ろ、周りがぼやけて霞の様で、ルディさん以外を視認できていないような、そんな感じ。ルディさんは呆れたように溜息を吐くと、「本当にウサギは仕事を放棄した様だ」と呟いた。

「ウサギの仕事って、何ですか?」

「ウサギが仕事をするんですか?」と聞けば、

「そうだね。……隊長の所に行く前に、ある程度の知識は持ってもらった方が良いな……」

と言いながら進む。休憩はもう終わりらしい。もう少し休ませて欲しいけど、我が儘は言えない。

「此処は、血塗られた女王が治める国。この国で以前、女王に対する不満から反乱が起きた。その反乱で此処とは異なる世界……先程、異世界と表現させてもらった場所から来たと言う少女が、不死身と言われる女王陛下に死に近い体験をさせた。その名前少女のがアリス。誰にも出来ないことをやってのけた『アリス』は国を救う正義の名前になるのに相応しい。彼女の後に異世界から来る少女は皆『異世界の少女アリス』と呼ばれるわけなのだけれど。

……失礼、話しを戻そう。結論を言ってしまえば、反乱は失敗。女王の夫と『救国の乙女』と呼ばれ先導した『異世界の少女アリス』の死によって、戦いは終わった。一方、『救国の乙女アリス』との闘いで、生死の感覚に興奮した女王は、『救国の乙女アリス』と同じく異世界に住む少女を国に呼び寄せては自分と『異世界の少女アリス』との間で殺し合いのゲームを作った。女王にとっては、暇つぶしの余興であり、食事になるのだが、此方としては迷惑極まりない。女王はこの国において絶対的な規律でね。まして、彼女は建国の女神の生まれ変わりだと言う者も居る。実際にその通りだから、好き勝手出来てしまうんだ。彼女の作ったルールは単純。『異世界の少女アリス』は女王を殺す。最初はこれだけだった。詳しいルールは後で隊長に聞いてね。僕があまり言い過ぎると、彼は機嫌を損ねてしまうから。君はこれから、『異世界の少女アリス』となって、我らと共に、女王と戦い、彼女を殺してもらう」

「…………」

「……アリス?」

その時は、何処かで聞いたような話だなとぼんやり思うくらいだった。いまいち実感が湧かない。けれど、混乱もしなければすんなりルディさんの話を理解出来る。

つまり、私は女王と戦えば良い。なんと単純な話。テストで百点を取る為に勉強しろと言われるのと同じ。喧嘩もした事無いけど。戦うと言うからには、

「……つまり、私は勝てば良いの?」

「その通り。理解が早いね。とても助かるよ。寧ろ勝ってもらわなければ困る」

「えへへ」

褒められた。

「補足をすると、初期のルールでは、女王は『異世界の少女アリス』にしか殺せない。けれどアリス。君は、女王と王族から殺される可能性もある」

「ルール? 王族?」

「女王の作ったゲームは、『異世界の少女アリス』が女王を殺すまで続く。君の他にも沢山のアリスが居たのだけど、最初のアリスは行方不明。二番目から先代のアリスは、女王の下に辿り着く前に、王族の人間に殺されたり、女王の兵に捕らえられ女王の手で殺されている。その間、その時々のアリス達によって様々なルールが作られた。だから、ゲームが進めば進むほど、……『異世界の少女プレイヤー』が増えれば増える程、曖昧だったルールに更に新しく曖昧な設定ルールが追加されていく」

「例えば?」

「そうだね。『異世界の少女アリス』は誰からも愛されると言うのは、彼女から続く古いルールの一つだし、」

「『異世界の少女アリス』は隊長の恋人である。とか、……馬鹿みたいだ」

「?」

ルディさんではない声がした。其方を向くと、

「何ですか、この小さくて可愛い男の子は! ……? 男の娘?」

「はぁ!? お前だって僕と変わんないだろ!!」

「女の子と身長が一緒なのは、小さいと言うんじゃないのか?」

「殴って良い? 良いよね」

気が付かなかった。隣に長身のイケメンも居た。

「良いけど、届かないだろ?」

「馬鹿にするな! 顔中心に殴ってやる」

「へー、それは俺への宣戦布告か? 乗ってやっても良いぜ? 勝敗は見えてるけどな!」

何処か大人げない長身イケメンにからかわれている小さくて可愛い男の子。二人も何処かで見た事あるような気が。「やれるもんならやってみろー」とか言いながら、しっかり頭を抑えてるんだから、本当に大人げない。

「隊長。何故此処へ?」

「女王の兵がうろついていたから。折角来たアリスだ。開始早々女王に殺されました。ってんじゃ示しがつかないし、何時また来るかも分からないからな」

「誰への示しです? そんな体裁を気にする相手なんて居ないでしょうに。貴方が来ては、僕が迎えに行った意味が有りません。それに前回のアリスは貴方が」

「いや、女王の体に限界が来ていると白羽が言っていたからな。アリスと器、両方揃えておく必要がある。後、それ以上言うな」

「……そうですか。僕は賛成も反対もしませんけど。貴方も、その考えを改めないと言うのなら、番犬はきっと貴方を赦さないでしょう」

「だろうな。……っと、すまない、アリス。放置してしまっていた」

がるるる。と、まるで小動物が威嚇するかのように長身イケメンを見る可愛い男の子。その子を見ていたから、放置されていたとは思わなかった。イケメン同士のひそひそ話を始めたのは其方だし。

「アリス。この人が先程話した反乱軍のリーダー。僕等は隊長と呼んでいます」

「アデルバートだ。ようこそ、アリス。女王を倒すまで、俺は必ず君を守ると誓おう」

「…………」

「隊長。引いてるけど」

イケメンに「必ず守る」とか言われて跪かれて手の甲にキスされて微笑まれたら、……そんな、物語の中の騎士みたいな事されたら、……普通はドキドキしたりするのかもしれない。でも、全くそんな事も無く。逆に、イケメン・アデルバートさんは少し首を傾げて笑顔も少し崩してきょとんとしているし、ルディさんは口元抑えて笑いを堪えているし、可愛い男の子は既に腹を抱える勢いで笑っている。

「ルディ、これは……?」

「さぁ? 今回のアリス、少し可笑しいかもしれないですね」

「可笑しいって何ですか!?」

「あんたの事だよ」

「話の流れから、それは分かります!!」

分かるのが辛いのだと知ってほしい。自分でも可笑しいなとは思う。こんな三人ものイケメンに囲まれてるのに、全くときめかない。心臓の鼓動が早くなったり、頬が熱くなることも無い。乙女ゲームをプレイしている者にとっては、ときめく展開だと頭では理解している。一応言っておくと、全員格好良いとは思う。

「……待って、マジで面白い……。……さっき言っただろ、『異世界の少女アリス』は隊長の恋人である。って」

笑うか喋るか何方かにした方が良い。何を言っているのか、かろうじて聞き取れるくらいだ。

「んで、その隊長がこいつなんだけど」

「この人の恋人?? 誰が?」

「あんただよ」

「あ、私か。……何で?」

「何でって……あはは!! やばい。このアリスやばいよ! 久々に僕が君を好きになりそう」

「え、お断りします」

「は? 僕もだって、出会って数分の女を口説く趣味はないよ。隊長と違って」

何だか腹が立つ。笑っていたかと思えば、突然真顔になって否定するのだから、流石に腹を立てても良いのでは。折角の可愛さが口の悪さで半減する。そしてまた笑い出すのだから、自由だと思う。

アデルバートさんを指差して笑う男の子。それをとがめる為に、アデルバートさんは彼の名前を呼んだ。

「リブレ。笑い過ぎだぞ」

「だってあんた、何時も通りにしたらフラれたじゃん」

「フラれてはいない。俺はまだフラれてはいない! ……いないよな?」

どうせなら最後まで言い切って。そんな助けを求める様な目でルディさんを見ても駄目だと思う。彼も彼で、笑いを堪えているのだから。

「ふふ。何方かと言うと、フラれたのは君だよ。リブ」

「僕は良いよ。別に。『異世界の少女アリス』は好きじゃない」

「お前さっき、「好きになりそう」とか言ってたじゃないか」

「可能性の話だけど? 将来的にって話。その将来も来るか分かんないし。そもそも、こいつに将来なんて、ある訳?」

「お前な、いい加減にしろよ」

「はぁ? それは僕の台詞なんですけど? 何時までごっこ遊びに興じてるわけ? 僕は、今すぐにでも、女王の首が欲しいんですけど。実際に渡されたら要らないけど」

「物の例えだろ。自分で言って拒否るな」

「あの、」

「何か?」

口論を始めたアデルバートさんと可愛い男の子。リブレって呼ばれたりしてるけど、この子の名前はリブレ君で有っているのだろうか。残るはルディさんだけなので、ルディさんに聞いてみる事にした。均衡のとれた三人組だと思うけれど、ルディさんが劣勢か。

「どういう事ですか?」

「先程、リブが言ったでしょう。ルール上に『異世界の少女アリス』は久坂の恋人である。と言うものが有る」

「何で?」

「最初のアリスが隊長と恋仲だったんだよ。言ったでしょう? 『異世界の少女プレイヤー』が増えれば増える程、曖昧だったルールに更に新しく曖昧な設定ルールが追加されていくと。それで次のアリスから新しくルールとして追加された。最初のアリスの時のルールは女王と『異世界の少女アリス』生死についてだけだったけれど、それ以降は問答無用で隊長と『異世界の少女アリス』が恋仲になるんだ」(……なる筈なのだけど、このアリスを見る限り反応は無い。まぁ、その内、ルールに取り込まれて行くでしょう。ルールは絶対なのだから)

「ふーん……?」

「あまりピンと来ていないね?」

「あまりと言うか全く」

「隊長、格好良いとは思わない?」

「イケメンだとは思います」

「そんな彼に微笑まれて、頬を紅潮こうちょうさせないアリス、彼女を除けは君が初めてなんだけれど?」

「イケメンだとは思います」

「それだけ?」

「それだけですけど」

今度は、ルディさんが声を上げて笑い出した。さっきから、笑うのを堪えていたから、ついに限界が来たらしい。

「隊長。これは完全に脈無しですよ」

「お前まで何を言うか! アリスはただ、……そう、戸惑ってるだけだろう。見てろ、2~3日すれば……!」

「2~3日必要な時点で、駄目だと思いますけどね。僕は。それはもう一目惚れではなくなる」

「一目惚れ?」と聞けば、ルディさんは「ルール上では、強制的に出会った瞬間にお互いを好きになると言う補足まであるんだよ」と教えてくれた。

「何でだ。ルールは絶対の筈だろう!?」

「その認識が間違いだったんじゃないの」

「そんな筈はない。今までのアリスは皆、俺に恋をしていた」

「補足の所為……ひいては、貴方が彼女達に惚れていただけでは?」

「ルディ、五月蝿い」

「それは失礼しました」

「それはルールと言うより、単純に隊長さんがイケメンだからでは?」

「何だ。あんた、一応隊長を格好良いとは認識してるんだね」

「え、イケメンじゃないんですか?」

「まぁ、顔だけは良いからね。後はムカつくくらい背は高い」

「顔だけって何だ。顔だけって。ってか、なんか恥ずかしくなってきたから、この話は終わろう」

本当だ。イケメンさんが顔を赤らめています。てっきり、自信家のその……ナルシストなのかと思っていたけど、違うみたい。自分では言うけど、他人に褒められるの慣れてないタイプっぽい。それを可愛いと思うと、きっとギャップ萌えで落ちていくんだろうな。私? ……無いかな。

「話題を変えるのは構いませんが、どうするのです? まだ、パレードも始まる気配は有りませんが」

「ああ。『異世界の少女アリス』が来たのに、国は変わっていない。流石に女王は、アリスが来た事に気が付いていると思うが」

「ええ。気が付いてはいるのでしょう。でなければ、『異世界の少女アリス』が現れる場所に、兵を送り込んだりしません」

「だよな」

「ただ、」

此方を見ながらひそひそと話をする二人。うん。美人イケメンが二人居るって認識だけど、それが「好き」に繋がるとは考えにくい。実際、ものすごく格好良い男性アイドルと物凄く可愛い女性アイドル、双方を目にした時に何方に目を奪われるかは人ぞれぞれだと思う。迷いなく異性に惹かれる人も居れば、同性に惹かれる人も居るだろう。人の感覚は他人に決められるべきではない。

「彼女、白ウサギに導かれた訳では無いそうです」

「……ウサギが仕事をしなかったのか、或いは……」

「それか、本当に最初のアリスの再来かもしれませんよ……何か」

「お前は、アリスが死んだと言いたいのか」

じっと二人を見ていたら、突然アデルバートさんがルディさんの胸倉を掴んだ。顔色一つ変えないルディさんは、そっとアデルバートさんの手を放した。

「そうでなくては、新しいアリスがやって来る筈がない。と、絶対服従のルールの下なら言えるでしょう」

「……アリスは行方不明だ。それ以上では以下でもない」

「それは、彼女が証言しているだけでしょう。可笑しいですね、貴方は。彼女を嫌うのに、彼女の言葉を信じているのですね」

「……」

「ふふ。そう凄まれては、僕はもう黙るしかありません。此処はアリスに助けを求めましょう」

「……?」

「気を付けろ、にこやかな悪魔がこっち見てるぞ。碌な事考えてないぞ。あれ」

「そうなんですか?」

二人だけで話をしていたかと思うと、急にルディさんが私を見た。じっと二人を見ていたから、目が合ってしまって少し気まずい。しかも、リブレ君が言い得て妙な言い方をする。にこやかな悪魔とか、ピッタリすぎる。

「アリス。ちょっと良いかな」

「? はーい」

「……行くんだ……」

呼ばれたので、行くと、後ろから呆れたようなリブレ君の「僕はもう知らない」と声が聞こえて来た。

「アリス、」

手招きされて、ルディさんの近くまで行く。すると、彼はかがんで耳元で囁いた。少し、くすぐったい。

「……え、言うんですか?」

「ええ。それで解決しますから」

「えー……しょうがないなぁ」

「お願いしますね。アリス」

「おい。アリスに余計な入れ知恵するな」

もう一度、ルディさんの方を見ると、「良いから早く」とにこやかに要求して来た。

「ア、アデル……」

「何だ?」

ルディさんからの要求は、「まずは隊長を『アデル』と呼び捨てに。その後、腰に手を当てて、少し怒った表情を作り、彼を見上げて、落ち着いた声で、」

「喧嘩したら、駄目って言ったでしょう?」

「…………」

うわぁ、なんか恥ずかしい。これ。アデルバートさんの反応も無くて、もっと恥ずかしい。私にやれって言っておいて、笑うとか酷くないですか!?

「……そう。そうだな。今度から、アリスの居ない所で、喧嘩するよ」

「それも駄目でしょ」

「駄目なのか」

「そうだよ。大人に言う事でもないけど、仲良くして」

「……」

もう一度、一瞬目を見開いたアデルバートさんが、次はふわりと笑った。

「分かった。おアリスの言う事だからな」

「うん。よろしい」

アリスが笑えば、アデルバートも微笑む。でも、自然に頭撫でるの止めてもらって良いですか。

「ルディ」

様子を見ていたリブレがルディに近付く。すると悪魔は目線を下げた。

「何です」

「狙ったな」

「何を」

「アリスじゃなくて隊長がアリスに落とされるじゃん。それじゃ、逆になるだろ」

「いいえ。僕はお手伝いをしただけです。少し愛着が沸きました。なので、アリスが殺されない為の」

「肩入れするの? 珍しい」

「いいえ? ですが、どことなく、彼女に似ていると思いませんか?」

「……認めてやらない事もない……」

「素直ではありませんね。何時もの事ですが」

「ほっといて」

「ええ。そうします。……単純に、彼女アリスが女王を倒してくれるのなら、あの子も自由になれる。そして、今回のアリスは、そんな願いを叶えてくれる気がしているだけですよ」

「……ふーん。まぁ、あの子を救う為なら、協力してやらなくもないけど」

「そうですよ。頑張りましょうね」

「……撫でんな」

と言うのが、フィリアと会う数日前のお話。その後、こんなに可愛いフィリアと二人っきりでお留守番することになるとは、思ってなかったよ。記憶が戻らなかったら、きっとまだ状況を理解していなかっただろうからね。それにしても、アデルとフィリアの笑い方が似てる気がする。


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