監禁生活一日目
「料理が出来る男ってなんかモテそう」
そんな下心丸出しの気持ちで高校卒業後、調理師の世界へと踏み込んだ冴えない僕、柳 水仙だ。
冴えない僕の唯一の特徴と言えば髪が水色ってだけだろう。
さぁここで本題の調理師の世界。思ってたのと違う。違いすぎる。
普段行動が遅いせいか上司から「早くしろノロマ、お前何時間仕込みする気だよ。」とよく言われる。
忙しい時間帯でもお構いなく上司に賄いを作らされる。
酷い時は物が飛んでくる。寸胴やレードル、鉄鍋…他にもある。これが調理師界の現実だ。
新米である僕には人権などなかった。
そんな生活を約1年続けている内にメンタルはそこそこ強くなったと思う。そりゃそうだ、毎日罵倒されてればそうなる。
休日は何処にも行かず家で大好きなアニメやゲームをするかの2択。たまにコンビニに行く為外へ出る。
そう、その"たまに"のせいで僕は今、何故か知らない部屋に1人、手足を縛られています。
「おっ、目が覚めてる〜」
部屋のドアが開く音と同時に聞こえた。女性の声だ。可愛い声、惚れそう。
声の方へ顔を向けるとそこには美女が1人、買い物袋を片手にこちらを見て微笑んでいた。
「どなたですか?」
女性の美しさに緊張してしまったのか普通に質問してしまった。ああ綺麗だ。
「ふふ、素直に答えると思う?ところで貴方、料理は出来るかしら?」
「…?見習いではありますが一応和食の仕事してます」
女性からの質問、普通に返答してしまった。
手足を縛られ知らない部屋、しかも目の前には絶世の美女がいると言うのに意外と落ち着いてる自分が怖い。いや緊張はしているが…
等と自分が怖い、そう思っていると女性が嬉しそうに微笑み口を開いた。
「私、今デザートが食べたい気分なの。貴方、作って?お願いじゃないの。これは命令なの。」
なるほどデザートか。うん。美女の頼み…いや命令とあらば作るしかあるまい。
「手足を縛っている紐解いてくれれば…簡単な物で良ければ作りますよ。」
「分かったわ。」
いやマジか、そんな簡単に拘束解いてもいいんか
僕はそう思いながらも窮屈な体勢から開放されたのだ。喜ぼう。
早速女性の物であろうキッチンを使うことに。何故か女性は僕を見張らず別の部屋へ行った。僕が逃げるとは思わないのか。まぁいい。
「さて、何を作ろうか。女性が好みそうなスイーツ…」
僕は和食しか知らないのでケーキとかは作れない。
「岩石卵…結構いいんじゃね…?」
岩石卵は僕が初めて教わった料理だ。主に会席料理の前菜に使われる。使用する食材は卵のみで簡単に作れる料理だ。ほんのり甘く低カロリー、見た目も綺麗だ。女性が好みそうな料理である。
使用する食材、調味料リスト
・卵2〜3個
・砂糖 大さじ1/2
・塩 0.8g
・片栗粉 少々
うん安い。低カロリーです。
「早速作るか〜」
まずはゆで卵を作るところから始まる。鍋に水を卵が沈むくらい入れ、火をつけ14〜18分待つ。
その間に別の鍋に水を入れ、その中にお皿を逆さにして入れる。そのお皿の上にもう1つお皿を表向きで置き、火をつける。これで自家製蒸し器の完成だ。
卵が茹で上がったら殻を向き、白身と黄身で分けそれぞれ別の容器に入れる。
白身は適当な大きさに砕く。
※大きさや形はバラバラにしたい為、手で砕く。ちぎると表現した方がわかりやすいだろうか。
黄身は細かい穴空きのザルで裏ごす。ザルがない場合はスプーンで細かく砕く。
※砕いた白身と混ぜ合わせ固める為、できるだけ細かく。
次に砕いた黄身に用意した砂糖、塩、片栗粉、砕いた白身を入れ混ぜ合わせ、ラップの上に乗せ棒状に形を作り包む。
※巻きすがあると形を作りやすい。
ラップで包んだ"ヤツ"を先程用意した蒸し器の中に置く。もちろん皿の上にな!!
※ヤツを置く前に皿の中にお湯が入ってないか確認すること。お湯が入った状態で蒸すと失敗です。
蒸し上がるまで12分程度。蒸し上がったらラップに包んだ状態で冷蔵庫に入れ、冷えるまで待つ。
冷えたら完成だ!
「出来ましたよ〜」
僕は女性を呼びに行った。
「意外と時間かかるのね。スイーツって」
女性は待ちくたびれた様子。だが急かすことも無く待っているのは女性の優しさなのだろうか。
「岩石卵って言う和食の料理です。口に合うかは分かりませんが…」
「これスイーツなの…?」
なんか疑われてる。まぁ仕方がない。ゆで卵を砕いて固めたような物だし。
「冷たくてほんのり甘く、美味しいですよ。これ、低カロリーなんです。低カロリー。」
「騙されたと思って食べてみるわ」
僕の渾身のボケは華麗にスルー。泣いた。心の中で。雨降ってるわ、雨。
「…美味しい。。美味しいよ!これ!決めた!貴方、私のシェフになりなさい」
「えっっっ」
女性の唐突の発言に僕の思考は停止した。
「貴方見習い調理師なんでしょ?私のシェフになれば料理の勉強もできるし、何より絶世の美女であるこの私が貴方を養うのよ?好条件でしょ?」
う〜ん、僕を拉致しておきながら身勝手な物言い、ヤバいよこの人。でもまぁいいか。
「いいですよ。どうせ僕に拒否権はないだろうし」
「ふふ、分かってるじゃない。取り敢えず今日はもう遅いし寝ましょうか。攫ってきてまだ半日しか経ってないから手足の拘束はさせて貰うわね。」
女性はそう言い僕の手足を縛り気分上々でベッドイン。
「窮屈だが、うん。寝るか。」
ーこうして監禁生活一日目を終えたー