転落
私はホラー小説家志望の無職の男です。
もう40代です。
周りからは白い目で見られています。
両親共に私のこれからを心配しながら他界しました。
私自身も心配です。
本当に小説家になれるのだろうかと。
才能がないのだろうかと。
何度か出版社に原稿を持ち込んだ事があります。
でも返って来る言葉は、
「全然ダメ、諦めなさい」
の類いでした。
その度にもう諦めて仕事を探そうと思うのですが、できません。
交流のある小説家志望の集まりでも、私は最年長。
昨年までは50代の方がいましたが、その人はデビューを果たし、去って行きました。
そればかりか、年下の人もデビューし始めました。
やはりもう限界だ。
そう思いました。
そして、遂に諦める決心がつきました。
何度か原稿を持ち込み、顔を覚えてもらった出版社の方の家に行った時でした。
私は目の前で眼を見開いて息絶えている編集者に唾を吐き、家を出ました。
幸い、家族は出かけています。
私は悠々と玄関から出て、その場を去りました。
そして別の決心をしました。
小説家になれないのなら、今まで考えた事を自分で実践してみようと。
そうすれば、少なくとも私の名前は世に知られると。
狂っていると思われますか?
確かに私は狂っているのでしょう。
正気の人間が思いつく事ではありません。
そして今、また1人、目の前に獲物が現れました。
近所の主婦です。
私が編集者の家に出入りしているのを何度か見られています。
口を封じた方がいいでしょう。
私は愛想笑いをして、彼女に近づきました。