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平和の魔王の異世界転生  作者: あめふる
2章 目覚め
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2-4


 男が正気を失ったのは、わしが頭の中に、魔法によって、憎悪の感情を送り込んだからである。今彼の頭の中では、とてつもない量の怨嗟の声が渦巻き、自らの感情を塗りつぶされているはずだ。

 そんな状態にあり、暴走する味方に混乱する男たちをよそに、わしは木によりかかり、ゆったりとその光景を見させてもらう。

 この者達は、人間だ。人間が、何故魔王の魂を受け継ぐ、その手伝いをするのだ。世界は、人間と魔族との間で和平が結ばれ、平和になったはずである。見方を変えれば、人間と魔族が協力し合っている風に、見えなくもない。だが、この人間たちの行動は、支配による行動だ。そうしなければならぬ理由があるから、そうしているのに過ぎない。人間と魔族の手の取り合いとは、到底言えぬ。

 そこでふと、思い出した事がある。確か昔、わしが魔王だった頃に、異世界から突如現れたと言う勇者が、魔王と戦ったという文献が残っていた。

 その勇者は、結局当初の魔王に敗北し、拷問される事になり、全てを話した。それによると、確か異世界にて死んで気づいたら、この世界にいたと供述したとあった。

 異世界などという存在を、わしは信じている訳ではないが、しかしわしがその勇者と同じ境遇にあるとして、この世界が異世界だとしたら、どうだ。


「っ……」

「ひぃ!?」


 わしは、一旦頭の中に憎悪を埋め込んだ男を、闇の口に喰らわせて、黙らせた。

 仲間に剣で刻まれ続け、それでも狂人のように仲間に襲い掛かり、血まみれで傷だらけになった男の首が、突然なくなったのだ。それをしたのは、連中もわしだと分かっている。残った連中は、訳が分からないと言った様子で、わしの方を見てきた。

 その視線には、わしに対する恐怖が乗っている。静かになっても、すぐにわしに襲い掛かってこんのは、わしに対する恐怖心を抱き始めたからである。


「聞きたい事がある。この世界の名は、何という」

「せ、世界の、名前……?」


 男の一人が、やや小さ目ながら、しっかりと受け答えをした。他の連中は、怯えて喋る事もできんようだから、答えた男に対して、質問を投げかけてみる事にする。


「では質問を変える。この森の地名は、なんという」

「ざ、ザザーク森林……」


 聞いたことのない名だ。


「クラウソラス王国という名に、聞き覚えは?」

「……」


 男は首を横に振る。


「ルアグ国王。クロヴィ平野。クリベン大陸。いずれかは、どうだ」


 いずれも、男は首を横に振るだけであった。

 ここが、元の世界と同じ世界であれば、知らぬはずがない。そういう人名や地名を連ねたが、誰も知っている様子はないようだ。


「──では、勇者セフィリア。魔王ヴァラクオメガという名に、聞き覚えは?」

「な、ない……」


 満を持して出した名も、知らぬと答えられた。わしの名に関しては、仕方がない。知らぬとしても、それは存在を世界に除去されたまま、世界は変わらなかったという事で、納得ができる。

 しかし、勇者セフィリアの名を知らぬのは、異常だ。わしが死んでから何年経とうとも、その名は永遠に引き継がれるはずである。人間が、救世主である勇者の名を、受け継がぬはずがなかろう。

 となるとやはりここは、異世界。わしがいた世界とは、別の世界という事になるのではないか。まだまだ確定という訳ではないが、その可能性が高い。


「ん?」


 わしが放っていた闇の口が、突然消え去った。

 それをしたのは、我が妹だ。戦いに混ざらず、黙り込んでいると思ったら、わしの魔法を解析していたようである。他の大人の魔術師より、この幼き少女が、先にやってのけたのだ。

 しかし、このような弱き魔法の解析に、いささか時間がかかり過ぎであるし、ただ魔力を少し籠めてぶつければ霧散する物を、わざわざレジストするのも、無駄がすぎる。

 が、ここは素直に、褒めてやろう。どれだけ時間がかかっても、どれだけ無駄であったとしても、わしの魔法をレジストしてのけたその腕前は、確かな物である。


「貴女はやっぱり、姉様じゃない。姉様は、こんな魔法は使えない。そもそも、こんな魔法は見た事も、聞いたこともない」


 レジストしてのけたものの、我が妹の表情は、強張っている。わしのこの身体の元の持ち主が、どんな者だったのか、わしは知らん。だが、我が妹の様子を見るに、このような事はしないようだな。


「最初に言ったし、そちも気づいていたではないか。わしは、そちの姉ではない」

「姉様の姿をして、姉様の声で喋っているのに、それじゃあ一体、誰だと言うの!?」

「わしが、誰か、か……。それを聞けば、そちは怒ると思うぞ?」

「……」


 そう言ったが、我が妹はわしの目を見据え、言えと訴えかけてくる。そのように期待する目で見られたら、わしとて名乗らぬ訳にはいかぬだろう。


「……良いだろう。聞かせてやる。わしの名は、ヴァラクオメガ。魔王、ヴァラクオメガである」


 ここは、拍手喝さいが巻き起こるべき場面である。しかし、辺りは静まり返った。まるで、全てが凍り付いて動かなくなったが如きの、静寂である。


「いくらなんでも、魔王様を名乗るだなんて、やり過ぎよ、姉様。このままだと私、姉様をこの手で殺さなくてはいけなくなるわ」


 本性を、表した。先ほどまでは、間違いなく、小さく可憐な少女だった。

 しかし、本性を表した我が妹は、可憐な少女とは言い難い。全身から黒いオーラを撒き散らし、その髪色は金髪から、真っ白に色を変えた。更には、目の色までもが変わっている。金色に輝くその瞳には、うっすらと紋章が浮かび上がり、それ自体が魔法の役割を果たしているようである。

 わし個人としては、可愛いというより、キレイだと思う。しかし、世間一般的に見れば、今の我が妹は、化け物である。

 周囲の男たちの、怯えて我が妹から離れる様子が、それを物語っている。


「やってみるが良い。だが……そちのような、自分の判断で崇拝する者も選べぬような者に、わしが殺せるのか?」

「黙って!私はね、魔王様の力の一部を授かっているの。だから、本気を出したら、全部滅茶苦茶になっちゃう。だって、あまりにも力が強すぎるんだもの。今なら、謝って私のお人形さんになってくれるなら……まだ、許してあげられる。だから、お願い姉様。ごめんなさいを、して?」

「すまんが、我が妹よ。そのようなか弱き力に、屈するわしではない」

「そう。なら、死んで?」


 我が妹が、人差し指を天に掲げた。その先端に、小さな闇の球体が姿を現わす。それを、我が妹はわしに向かい、放って来た。球体が、ゆっくりとわしの方へと向かってくる。


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