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平和の魔王の異世界転生  作者: あめふる
1章 逃走劇
3/13

1-1


 走る。走る。息が苦しくとも、身体が痛くても、私は走る。そこは、鬱蒼とした森の中。日が暮れて、月明りだけが頼りとなったこの森の中を、私は全力で走る。転んでも、木の枝に頬を切られても、止まらない。生きるために、走る。逃げるために、走る。

 途中、遠くで、女の子の叫び声が聞こえた。その声に、私は足を止めた。

 そんな……どうして、そっちなの?私は、乱れた息を整える間もなく、声の聞こえた方へと向かった。


 自分の中の、どこにこれだけの体力があったというのだろう。私は、夢中で森の中を走った。体力なんて、とうに限界を超えているはずなのに、私は逃げるべき物から逃げるのをやめ、最愛の妹の叫び声が聞こえた方に、更に夢中になって向かっていく。


 途中で、先端の尖った木の枝を見つけた。頼りない武器だけど、ないよりはイイ。私はそれを手に、走る。

 そして、見つけた。茂みの奥。確かに、気配がする。人の話し声が聞こえる。そして、最愛の妹の鳴き声を耳にする。

 私は、相手の人数も確かめず、飛び出した。飛び出し、最初に視界に入った男に向かい、迷うことなく手にした枝を、突き刺した。


「ぐあ!?」


 傷は、浅い。だけど、男を一時戦闘不能にするのには、十分な攻撃だった。


「このガキ!」


 他にも、3人の男がいた。その内の一人が、私に向かって短剣を繰り出して来た。それは、私の頬をかすめ、私に血を流させる。


「バカ野郎、殺す気か!?武器を納めて、生け捕りにしろ!」


 男の一人が、私に襲い掛かって来た男に向かい、凄い剣幕で怒鳴りつけた。

 そう。奴らの目的は、あくまで私を生け捕りにする事。だから、本来であれば、武器を使う事ははばかれるはず。ちょっと焦ったけど、これくらいは予想の範疇だ。


「ダイアモンドミスト!」


 そのままであれば、私はあえなく殺されていた可能性もある。だけど、怒鳴りつけた男のおかげで、助かった。怯んだ彼らの隙をついて、私は魔法を発動させる事に成功した。

 私の魔法により、周囲の気温は、一気に下がった。同時に、氷の細かい粒子によって、霧が立ち込めて視界が悪くなる。夜で、ただでさえ視界の悪いこの時間なら、その効果は倍以上だ。


「み、みえねぇ!どこいきやがった!」


 男達が混乱している内に、私は妹の手を取った。彼女は、拘束される事無く、男たちに囲まれ、地面に座り込んでいたから、回収しやすい。小さなその手を取った私は、再び走り出す。


「……姉様!」

「ごめん、ネム!まさか、そっちに行くとは思わなくて……奴らに、変な事されてない!?」

「は、はい!」


 必死に、手を引っ張る私についてくるネムは、私のたった一人の妹だ。

 輝くような金髪の髪を、今は結ぶこともなく、寝間着姿のままで私についてくる。小さなその体躯は頼りなく、今にも私についてこれなくなりそうだ。

 でも、ネムに合わせていたら、逃げられなくなる。だから私は、手を引っ張って、無理矢理にでも連れて行く。

 ここに至るまでに、ネムはこのペースについていけなくなってしまった。そのため、分かれて逃げる事にして、ネムには隠れてもらう事にした。私が目立つように逃げて、ネムは隠れる。そうすれば、追手は私に集中すると思ったのだ。

 しかし、全く上手くはいかなかった。追手は私を追うことなく、ネムを発見し、ネムを危険に晒してしまった。

 後悔しても、遅い。今はとにかく、奴らから遠ざからなければいけない。


 なのに、どうしてか、私の足は止まってしまった。


「っ……!」


 動かない。脚も、手も、何もかもが、止まってしまった。体力が尽きた訳ではない。そうだとしたら、私は地面に倒れる事ができるはずだ。


「──ごめんなさい、姉様」


 謝って来たのは、私と手を繋いでいる、ネムだった。私に向かって謝罪の言葉を口にしたネムは、それから私の手を離し、私の正面へと立った。

 これは、ネムの魔法だ。対象の動きを封じる、第四階位魔法。レットストップが使われている。

 それくらいの魔法なら、私はいつでもレジストできる。ただしそれは、相手が魔法を使ってくると、分かっている場合だ。それに備え、魔法の解析をすぐさま行い、レジストする。

 でも私は、全く準備していなかった。そんな魔法を、私に仕掛けてくるはずのない相手が、私に魔法を仕掛けて来た。

 すぐさまレジストするために解析に入るけど、集中ができない。どうして、何故、ネムが私にこんな魔法を仕掛けてくるの?

 また、解析をミスった。最初から、やり直し。早く、早くしないと、奴らに追いつかれてしまう。


「さすがは、姉様。魔王様の器に、相応しきお方。ふふ」


 ネムが、妖艶な笑みを浮かべて、私の頬を両手で撫でて来た。ネムは、そんな顔ができる年ではない。ネムは、無邪気に笑い、汚れを知らない乙女だ。

 これは、偽物。ネムじゃない。


「今、私がネムじゃないと思った?」

「っ!」


 まるで、私の心を見透かしたかのように、ネムが尋ねて来た。


「残念だけど、私はネムよ。貴女が愛する、たった一人の妹。私は元々、貴女の監視役として貴女の傍に置かれていたの。貴女は勿論、パパもママも気づいていなかったみたいだけど……私は、ただの魔法生物よ?命を持たない、魔王様に忠実な、お人形。それが、私。ずっと、演技をしていたのよ。気づかなかったでしょう?私は完璧に、貴女の妹を演じて来た。貴女の身に危険が及びそうになったら、私が陰で助け、貴女に指一本でも触れようとする男は、私が始末してきた。心当たりはあるでしょう?」


 ネムの言う通り、ない訳ではない。不自然なくらい無傷で済んだこともあるし、私と仲が良かった近所の男の子が、突然行方不明になってしまった事もあった。


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