冒険者ギルド
薄暗い階段を上りきると、彼は一つしかないドアの前で立ち止った。
そのドアの上には『アルビオンの冒険者ギルド』と書かれている小さな木の看板があった。ロブはドアをノックして部屋に入った。
さほど広くない部屋の壁には本棚が並び、様々な文献や資料が隙間なく並べられている。大きな窓から差し込む朝日が、ちょうど入って来るロブの顔に当たり彼は眩しそうに手をかざした。
「今日の分持ってきましたよルイザさん、アルフレッドさん」
ロブが声を掛けたのは、古臭い本が並ぶこの部屋に居るのが場違いな感じがするほど若く美しい女性と、小柄な丸眼鏡の老人だった。二人は忙しそうにテーブルの上に置かれている書類に目を通していた。
「お疲れ様ロブ。 後で整理するからそこに置いといてもらえるかしら」
若い女性はチラリとロブを見やると近くの木のテーブルを指さした。
「分かりました! じゃここ置いときます」
ロブは肩から下げている荷物袋の中から、革紐で結ばれた紙の束を取り出した。そして仕事の邪魔にならないようにルイザが指さしたテーブルの上に置いた。
「今日も依頼書けっこうありますけど……冒険者の人数足りてます?」
自分が配達した依頼書の量の多さに、心配になったロブが思わず質問する。
冒険者とはいわゆる何でも屋のようなもので、近隣の街や村、時には王様から届く様々な依頼を解決してゆく者たちの事だ。
例えば、金持ちの貴族や王族からの財宝の探索依頼や、荷物を運ぶ商人から護衛の依頼。人里近くに住み着いた魔物の退治も冒険者の主な仕事だった。また時には募兵に応じて傭兵となり国の戦争に参加する者もいた。
変わった所だと、家で無くした指輪を探して欲しい。迷子の子猫を探して欲しい。別れた恋人を探して欲しい等々。
その依頼のことを冒険者たちはクエストと呼んでいた。多くクエストをこなしている冒険者をA~Eのランクに分けて冒険者ギルドと呼ばれる組合組織が管理していた。
もちろん依頼を受けるだけでなく酒場で自ら仲間をつのり、財宝を求めて洞窟や遺跡に向かう冒険者も多くいる。
「そうなのよロブ。最近やけにクエストの数が増えてるのよ。あなたも時間に縛られた配達員なんか辞めて自由気ままな冒険者になったら?」
ルイザはいつも配達時間に遅れてくるロブに、冗談半分で嫌味を言ったが半分は本気だった。
「それは良い考えだ、仕事はいっぱいあるぞい」
助手のアルフレッドも乗ってきた。
「勘弁してください! 僕には務まりませんよっそれじゃまた……明後日」
ロブはこれ以上長くいると更に嫌味を言われそうなので逃げるように部屋から出て行き、次の配達場所へ向かった。