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非凡な姉は成り代わり




 私の妹はアホです。こんなのが血を分けた実妹とは情けない限りです。



 私が住んでいた孤児院だった場所はとある事情でなくなってしまいました。

 まあ、無くなったのは私の自業自得と言えなくもありませんが・・・ まあ、過ぎたことをグチグチ言っても仕方ありません。


 しかしながら、無くなってしまうと、目標も一緒に無くなってしまいました。

 あの時、誰かが「自由になりなさい」と言ってたけれども、実際自由になってみるとやることもなくなってしまいました。

 そのの言葉を振り返っていたら、ふと思いました。買われていった妹はどうなったのでしょう。

 残っされていた資料をあさると、さる貴族に買われていたことが判明しました。しかもまだ存命のようです。


 そして、確認した妹を見て思わずつぶやいたのが冒頭の一言です。


 資料を見る限り、学力や礼儀作法は飛びぬけているようです。家事は全くできないようですが、貴人は指図するだけなのでぎりぎりセーフ。

 私に似た美貌のおかげで、それなりの高評価を受けているようです。

 けれど、ただ一つ大きな問題点があって、とある殿方へストーカしているようです。


「さて、どうしましょう?」


 やることもなく、ヒマを持て余してしまった私は身内の恥を矯正すべく、潜入することにしました。

 紹介状を手に職を求めると、あっさりと侍女に採用です。せっかく念入りに偽装してきたのに拍子抜けするほどです。


 妹の買われていった、私が就職した家は賄賂で出世した父親に浪費しか考えない母親、人が良いだけのボンクラ長男、アホな妹で構成されていました。もちろん彼女らだけでなく家人もいます。

 孤児院であらゆる技術を習得した優秀な私はその屋敷内で頭角を現し、すぐに狙い通りに妹の専属侍女になりました。


 妹は外面が良いようで、一部の人を除いてバレていないようです。両親は目を盗んで、度々家を抜け出してすことさえ、全く気づいていないようです。

 抜け出す理由は呆れたことに、とある殿方を隠れて視姦するためです。

 そんなことするくらいなら、さっさと自分のモノにしてしまえば良いのに、アホですね。

 本人は目立たない様にしているつもりでしょうけれども、明らかに浮いた令嬢が毎回裏路地に潜んでいれば、ガラの悪い連中に絡まれもします。

 彼女は何でもない様に殴り倒すと場所を変えます。視姦の被害者以外、文字通り目もくれないようです。


 尻拭いさせられるのはこっそり様子を覗いている私です。

 ゴロツキをのしただけで、始末せずに放置するなんて常識では考えられません。仕方がないので、妹の代わりに恐怖を植え付けて下僕として社会のゴミを有効活用せざるを得ません。


 これ以上裏社会に騒ぎを起こすのも本意ではないので、彼女の不毛な恋を成就させるためにウザい両親へ手を回そうとしていると、私が手を下すまでもなく、事故であっさりと死んでしまいました。

 若くして当主となった長男殿は手を回すまでもなく、自発的に妹の婚約を取り付けてきました。


 ですが、兄君、私に彼女の愚痴をこぼすのはやめて頂けないでしょうか。何故、私なのでしょう。表向きはアレとは赤の他人ですよ。



 婚約することによりストーキングする回数も減り、兄君の目を盗むため私を替え玉にする浅知恵も覚えました。

 そんな平和は約一年ほどで破られました。


 突如、彼女の婚約破棄の書類が家に届きました。

 妹はその命令書を逆さにしたり、火であぶったり不審者ぶりに磨きがかかっています。

 ため息をついて、忠告します。


「お嬢様、現実逃避はいけません」


 そもそも、その命令書は当主(兄君)あての物なのですから、と取り上げました。

 あんなもやしっ子のどこが良いのでしょう? あれならば兄君の方がマシでしょうに。


「これは絶対抗議すべき事案ですわ!」


 愚妹は止める間もなく、家を飛び出していきます。行先はお城の大臣の部屋でした。

 情勢がよく分かっていない彼女は自分の正体が丸分かりの抗議を喚き散らします。

 妹が満足して帰った後、憤慨して部屋を出ようとしていた大臣の背後に忍び寄ります。後始末はまたしても私です。

 部屋を始末した後、偽装のために国王の寝室に忍び込み騒ぎを起こして逃げます。

 妹よりもっと大事をおこして、彼女の失態を急死を有耶無耶にします。もちろん、彼女の様に尻尾を掴まれるような愚は犯しません。


 翌日、情報を収集しますが、彼女の奇行がばれた様子はありません。

 関係ないはずの兄君は顔を青くしながら、彼女の手綱を離さないよう頼んできました。見るからに気の毒なので、「私の血族が申し訳ありません」と思いつつ、うなずいてしまいました。

 こちらの気も知らずに、原因となっている妹はイライラがつのっている様子です。爆発を抑えようと、以前手中した下僕経由で婚約相手の近況を伝えます。

 が、中途半端に伝えたのが拙かったのか、自ら被害者の元へ行くとワガママを言います。


「拉致とか止めてくださいよ」


 ちゃんと後始末が出来るなら、まだしも、やりっぱなしでは周囲の者が困ってしまいます。

 目を離すと国際問題に発展しそうです。兄君にお願いされていますし、仕方ないので付き合ってあげることにします。

 街の裏路地で適当な輩ををふんじばって、護衛の態をとって妹の婚約者がいるという場所へ向かいます。ゴミがリサイクルで思ってもみない大活躍です。


 目的地について、さあ、お目通り願いましょうという段階になって、妹は何故か尻込みを始めました。


「こんな所まで自ら追いかけてきてあの方の前に出るなんて、ストーカじみてて恥ずかしいじゃない!?」


 今さらですか・・・ 手遅れな気がしないでもありません。


 すったもんだの末、私が前に出て妹が後ろに控えることにしました。


「お嬢様を前面に出して暴走されるよりはマシでしょうか?」


 けれども、後ろで鼻息を荒くして、下着を求めるのはやめて欲しいです。女性としてどころか、人として恥ずかしいです。


 ストーカなので、当然こちらへ出向くのは一回では終わらず、何度も足を運びます。奔放さが目に余るほどになり、度々関所でもめ事を起こすようになってきます。

 何度もトラブルを起こされるのは、治める側としては面倒この上ないです。

 更には、公の場で兄君に妹の身代わりを度々頼まれることもあり、同行することも難しくなってきました。


 なので、いっそのこと関所から人を排除することはどうでしょうか。無人ならば、さすがの妹でも騒ぎを起こすことはないでしょう。

 関所の数もさほど多くなく手間がかかりません。即座に、この思いつきを実行に移します。

 憂いがなくなったので、安心して妹の身代わりを務めていました。けれど、彼女は早々に問題を起こしました。聞いたところによると、なんと彼女は無人の関所を焼き払ってしまったらしいです。

 予想外ですが、これ以上は責任が持てません。私の関知することではありません。


 人がいなくなるだけなら怪奇現象で済む?のに、焼き払ったせいで騒ぎになってしまいました。

 アホな愚妹のせいで、戦争勃発の危機です。


 しばらくすると、焼き払われた関所をもつ国とその隣国の軍隊が国境を隔ててにらみ合う事態に発展してしまいました。

 幸いにして彼女の所業発覚っした様子はないので安心していたところ、なぜか兄君が関わることになりました。

 どう考えても荷が重い役目です。知らんぷりするつもりでしたが、兄君の身に危険が及ぶのは本意ではありません。


 彼が軍行する先を密かに突き止め、先回りします。

 指揮官を仕留めれば軍というのは烏合の衆に成り下がります。しかしながら、全て仕留めてしまうと降伏する責任者がいなくなってしまうので加減が難しいものです。

 つまり、やることはアタマの排除です。それを数度繰り返し、つまらない流言を広めれば治安はガタガタです。


 頃合いを見て戻れば、兄君が大出世したという知らせが届きました。


「お嬢様はどうしますか?」


 問えば、兄君の出世などどうでも良いようでどさくさまぎれに確保しておいた没落元王子の心配ばかりしています。


「わたくしの手料理をふるまえば元気百倍間違いなしですわ」


 自分本位な妄想に、ため息が漏れます。

 余計なものを入れまくった結果、食中毒に苦しませる未来が容易に想像できてしまいます。

 どうしてこう、次から次へと厄介事を生み出すのでしょう、彼女は。

 親の顔が見て見たいものです。残念ながら、私も目にしたことがありません。もし、会うことがあったのなら、山のように文句が言いたいです。


 しかし、よくよく考えてみれば、愚妹って役に立ったことがあったでしょうか。邪魔にしかならない気がします。

 いっそ、このどさくさまぎれに放逐しても差し支えないのでは?


 餌をちらつかせれば、兄君に絶縁を宣言してあっさり家を出て行きました。義理とはいえ兄妹の間にあったはずの絆は紙屑のように捨てられました。彼が不憫でなりません。

 その兄君は新しい仕事に四苦八苦して、それどろではないのかもしれません。

 単なる一官僚であった、彼にはそもそものところ手が足りません。

 そそのかした後ろめたさもあるので昔の伝手を使って、献身的にサポートしてさしあげます。



 近ごろ、彼の私を見つめてくる目が熱を帯びている気がします。侍女に手を出す主人なんて・・・

 いえ、求婚されれば、気の迷いで受けないこともないかもしれません。


 もし、万一、求婚されるようなことがあれば・・・人生の勝ち組へ仲間入りです。


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