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第五回 裏切り

仕様の関係でフリガナに不自然なところがあります。

 キミア・ポリス南東にある『Gaia(ガイア)の丘』にある屋敷での出来事である。この屋敷の(あるじ)Basilisk(バシリスク)と名乗る人物であり、双頭の黒犬から『パパ』と呼ばれ、そしてホーエンハイムとジュゼッペ・フラメルを拉致した首謀者でもあった。屋敷には地下牢があって、拉致した二人をここで監禁していたのだが、この日はバシリスクも側近の多くも留守だったため、屋敷内の警備は普段と比べれば薄かった。それでもバシリスクの側近が二人いるので、バシリスクが屋敷を留守にすることに不安はなかった。

 側近の一人である筋肉質の男が、同じく側近である女と一緒に薄暗い地下牢に現れる。ホーエンハイムとフラメルは二人を見ることもせず、ただ黙っていたのだが扉の鍵が開く音がしたので、そっと二人に目をやった。

 バシリスクと側近は、普段は例の奇妙な仮面を被っているのだが、今日の二人にはそれがない。そのことを不思議に思っていると、側近の男が「さあ、出ろ」は言った。再び目を逸らしたホーエンハイム達に「逃がしてやる」と一言つけたので、思わず目を見開いたホーエンハイムは二人を見た。

「早くしろ。今ならバシリスクもほかの連中もいない。いま逃げないと後悔するぞ」と男は続ける。

「そんな事をして、貴様らはどうなるんだ」とフラメルだ。

「オレ達も一緒に逃げる。オレもこいつも、もうあんな奴と一緒にいるのはウンザリなんだ」

 男のこの言葉に、やや後ろにいた女が(うなず)いた。

 ホーエンハイムらは突然のことで戸惑ったが、大人しく男の言うことに従う。そこでようやく側近二人の顔をハッキリ見えたのだが、女を見たフラメルが気づいたように言う。

「お前、どこかで見たぞ?」

 男が女を見るが、女は当惑した様子に首を横に振る。

「人違いか何かじゃないか?」と男がフラメルに言うのだが、「いや、間違いない。どこかで見たぞ」と騒いだので、男に「ほかの連中に気づかれるだろ。せめて黙ってろ」と言われて大人しくするのだが、やはりどこかで会ったことがあるらしく釈然としないと言いたげに難しい顔をした。

「そうだ! 思い出したぞ。グローグだな! 確か……そうそう、エリザベスだ。エリザベス・グローグだろ」

「誰ですか? それは」とホーエンハイムだ。

「キミア大学で働いていた頃の部下だ。なんでお前が、ここにいるんだ」とフラメルが女に言い寄った。男は二人の間に入って「こいつはキミア大出身だったのか」と彼女に小声で聞くのだが、女は「知らない」としか答えなかった。そして男がフラメル達に言う。

「こいつとそのエリザベス・グローグとかいう女は、似ているだけで別人だ」

「嘘を言え! 双子でも無ければ、そんなに瓜二つの訳がないだろうが!」

「双子ではないが、親戚みたいなものだ。だから似ているんだろう」

「下らん嘘をつくな! 本人だろ! グローグ、なんで貴様はこんな奇妙な連中とこんな馬鹿気たことをしてるんだ!」とフラメルは譲らない。

「違うと言ってるだろ。事情はあとで話してやるからサッサと行くぞ。さもないと置いて行く」と男が、フラメルに背中を向けた。

 女の肩を押して先に部屋から出るので、「まあ、事情はあとにして今は早く逃げ出しましょう」とのホーエンハイムの言葉に、フラメルは渋々ながら側近二人に付いて行く。

 四人は地下にある別室に移動すると、そこに隠してあった地下通路に入る。女はマナを使ってランタンに明かりを灯し、男は【(つち)】のマナで通路の入り口を塞いだ。

「行くぞ」と男はホーエンハイムとフラメルに告げて、女からランタンを受け取った。

 通路は男たちがこっそり用意していたものであり、大人二人が左右に並んで進めるほどの広さはなく、天井も低かった。

「この通路はどこに繋がっているんだ?」と、フラメルが男に尋ねる。

「通路は西に続いている。通路を抜けたら、そのまま(キミア・ポリス南西にある) Aeolus(アイオロス)渓谷を抜けて、(その北にある) Oceanus(オケアノス)()に逃げるつもりだ」

「そのあとはどうする?」

「さあな。一旦は外国に逃げるつもりだが、綿密に考えているだけの時間はなかった」

「そんな無責任な」

「あの屋敷に閉じ込めたまま逃げるほうが無責任だ」と男が無愛想に返す。

 しばらく沈黙が続いて、今度はホーエンハイムが言う。

「ところで、君らはなんて名前なんだ?」

 男らは言葉に詰まったように何も言わない。

「一緒に逃げるなら、名前くらい教えてくれないと不便だろ」

 一息ついて男が言う。

「オレは……そうだな、オレは|Caleb Wolf 《ケレブ・ウォルフ》。そいつはVivian Day(ビビアン・デイ)だ」

「それで、お前とグローグはどういう関係なんだ?」とのフラメルの問いに、「だから、ビビアンはエリザベス・グローグじゃない」とケレブなる男が返す。

「質問に答えろ。お前らはどういう関係なんだ!」

「バシリスクに呪われた運命を押しつけられた者同士だ」

 そうケレブは答えた。

 そのまま特に会話することなく、かなりの距離を歩いた。途中で何度か休憩を取りつつ続けて通路から出ると、人気(ひとけ)がまるでない荒れ地に辿り着いた。全員が通路から出たのを確認したケレブは、マナを使って通路出口の天井を崩すようにして塞いだ。

「ここから真ッ直ぐ西に向かいます」とビビアンだ。

「そろそろバシリスクの部下どもが屋敷に帰ってくる頃だ。ゆっくり休んでいる暇なんてないぞ」とケレブの言葉が続く。

 そのまま当初の予定通り、渓谷を抜けて湖に向かった。


 屋敷では、側近二人とホーエンハイム達が居なくなったと騒ぎになる。エトンがすぐに二人とホーエンハイムらの捜索指揮をとる。このことは即座にバシリスクに伝えられて、捜索に化け物も使うようエトンに命令が下った。ケレブらが使用した地下通路が発見されるまで少し時間が掛かったこともあり、丘から渓谷を抜けて湖に向かったと推測されるまで、ある程度の余裕を得て、ケレブたちは無事にオケアノス湖に辿り着く。

 オケアノス湖は、かつては「湖」ではなく「淡水の海」として認識されていたほどに広大な湖であり、古代には【水】のマナを生み出す聖地とされていた。その湖の周辺は森に囲まれていて、ケレブたちは誰もいない森の奥にある丘に、【地】のマナを使って(むろ)のような(うろ)を作ってそこで一晩過ごす。

「渓谷を渡っているときはともかく、湖に着いたんだから宿で泊まったらどうなんだ」

 フラメルが、そうぼやいた。

「それはダメだ。人が多いところは避けたい。バシリスクは鴉や隼を監視役にしている。奴は今オレたちを捜すのに血眼になっているだろうから、すでにオケアノス湖にも鴉どもを送っているはずだ」とケレブだ。

「なんで鳥に、そんなことが出来るんだ」

 このフラメルの言葉に「ホムンクルスの技術を使ったからだ」とケレブが返したので、フラメルとホーエンハイムは一瞬言葉を失った。

「そんな馬鹿なことが。『神の如き英知』が実在するとでも言うのか!」とホーエンハイムだ。

「まさか、二首の犬も本当にホムンクルスなのか」とフラメルが続く。

「そうだ。あいつはOrthrus(オルトロス)という名前のホムンクルスだ。まあ、もう死んだがな」

「なぜ?」と、今度はホーエンハイムだ。

 ホーエンハイムは双頭の黒犬に襲われて拉致されたため、名前こそ知らないがその犬のことは知っている。だが、オルトロスが駆除されたのは、ホーエンハイムが攫われたあとなので、その犬が死んだというのは知らなかった。

「チカプ・ホーエンハイムが、ホライの森で倒した……ことになっている」とケレブだ。

「チカプが?」

「ああ。オレは現場に居なかったか詳しく知らないが、現地の女猟師と一緒に駆除したことになっている。しかし実際はバシリスクの命令でエトン……黄色い着流しの男に殺された」

「なんで仲間を殺したんだ? 仲間割れか?」などとフラメルが聞いたのだが、それにケレブもビビアンも答えなかった。しかし「オレ達が脱出しようとしたときに、側近の多くが留守にしたのもネメアという仲間のホムンクルスを殺すためだ。ヘルモントの自宅に向かったそうだから、ネメアの殺害に成功すればそれでよし、失敗してもヘルモントを拉致さえ出来ればまたよしと、バシリスクは考えたんだろう」

「ヘルモント? まさかギュスターブ・ヘルモントまで狙われているのか」とホーエンハイムだ。

「ああ。バシリスクは、お前とヘルモントが若い頃にエクリプス・カードを見たと確信しているし、フラメル……お前の親父がそのカードの持ち主だったと思い込んでいる」

「馬鹿馬鹿しい。それが事実なら、今ごろ私は純金でも作りまくって大富豪として楽しく暮らしてる」と、フラメルが呆れて苦笑した。

「ところで、チカプは今なにをしているのか聞いているかね?」とホーエンハイムだ。

「ヘルモントの元で、エクリプス・タブレットについて調べていると聞いている」

 ホーエンハイムはそうかと答えただけで、その()は黙り込んだ。


 日付が変わったであろう真夜中に、遠くから男の怒鳴る声が聞こえてきた。ビビアンとホーエンハイム達はすでに眠っていたが、警戒で起きていたケレブが逸早く気づいてビビアンを起こす。

「どうしたの?」

「外に誰かいる」

「バシリスクの手先?」

「わからない。違うようだが、少し見てくる」

 虚から出たケレブは、草陰に隠れながら声のほうへと向かった。複数の怒号が森の中で響いている。遠くからでは不明瞭だったその声は、近づくに連れて「クソガキどこ行った!」だの「ブチ殺すぞ! さっさと出て来い!」などと物騒な言葉だと分かる。

 ランタンの明かりが見えた。周囲には二つの人影。その影は草木の陰に向かって、やはり「出て来い」だの「さっさとしろ」だの叫んでいる。

 状況は掴めないが、この男たちは逃げ出した何者かを追い掛けてここまでやって来たのだろう。いい迷惑だ。ケレブはこの男たちに用も興味もないが、自分たちが潜んでいる虚の近くで騒ぎを起こされる訳にはいかないと、気付かれないように【地】のマナを使う。わざと灌木を揺らして音を立てた。案の定、男たちは「そこにいるんだな、クソガキ!」と暗くてよく見えないが、恐らくは鬼の形相でこちらを睨んで怒鳴っているのだろう。少し離れて、また別の灌木を揺らした。

「手間をかけるな!」

「逃がさねえぞ! さっさと出て来い!」などと、男二人がこちらに迫って来る。

 とつぜん男たちがケレブの視界から消えた。【地】のマナでこっそり仕掛けた落とし穴に、男たちがまんまと落ちたのだ。恐ろしく簡単に引ッ掛かったので呆れるというか拍子抜けなのだが、今度は「なんだ!」、「どうなってる!」、「落とし穴か!」などと慌てて騒ぎ出した男たちの声に呼応するように、別の場所から「どうした!」と声がした。

 まだ仲間がいたのか。

 ケレブは、男たちを閉じ込めた落とし穴を【地】のマナを使って埋めると、声のほうを見た。遠くにある小さな光の粒が段々と迫って来る。気配を消して移動する。近づく明かりの中には男三人がいた。ケレブは彼らの背後に回って、不意打ちに【地】のマナで作った槍を男たちに向けて飛ばした。三人ともがほとんど反応できずに、その槍に胸を貫かれて絶命する。この男たちも【地】のマナで土に埋めた。

 ほかにこいつらの仲間がいるかも知れない。それに男たちが捜している人物も近くにいるはずだと、警戒しながら辺りを見回す。明かりは見えない。

 ケレブは草陰に隠れた。そこから出たときには、頭が三つある黒い犬の姿になっていた。以前ホライの森でチカプとガリーナが戦ったオルトロス……双頭の黒犬とは違って耳は狼のように立っている。その黒犬の左右の首は周囲を警戒しながら、中央の頭は地面に鼻を近づけた。

 さっき倒した男たちのニオイしかしないが、しばらく調べているうちに女のニオイも嗅ぎつけた。まだ新しいことから、さっきの男たちが追い掛けていたのは、この女なのだろうと推測して追い掛けた。ニオイが新しくなるに連れて、ビビアン達がいる虚からは離れていくもうすぐ湖畔である。これ以上、この女を追い掛ける必要はないと考えて、一度草陰に隠れて人の姿に戻ったケレブは、念のためと辺りを見回してみる。まだ暗いが東の空は白んでいる。と、湖に女が浮かんでいるのが見えた。顔は水面から出ているが、ピクリとも動かない。水死体だろうか。辿ってきたニオイの軌跡から察するに、あの女はケレブが追ってきた人物なのだろうが、正直どうでもいい。こんな人気(ひとけ)のないところの死体なんて、早々に発見されることもないだろう。そのまま放置して去ろうとも考えたのだが、気紛れでも起こしたのか、その女を【地】のマナで湖から引き揚げる。そのとき気付いたのだが、この女はまだ十代の半ばに達するかどうかというほど幼かった。息はあるが弱かった。ケレブはその女の子を両腕で抱き上げながら、ビビアンらのいる虚へと戻って行った。


 虚に戻ったケレブは、ビビアンに連れ帰った少女を見せた。ケレブから事情を聞きながら少女の診察をするビビアンは、彼女の脈拍を調べるときに触れたペンダントを手に取ってみると、飾りとして【水】の星が付いた指輪が掛けられていた。診察の途中には医師であるホーエンハイムの意見も聞いて、「恐らくは気を失っているだけですね」と結論を出す。

「それで、こんなガキを連れて戻って、一体どうするつもりなんだ」とフラメルが言った。

「こいつが死んでいれば、死体を埋めるだけで済ませたんだが、生きてるんだから埋める訳にはいかないだろ」と、ケレブは素ッ気なく返す。

「だからって、どういう事情か知らんが、物騒な連中がこのガキを追っかけ回していたというなら、このガキと一緒にいるのは危険だ」

「なら、気を失っている今のうちに、どこかに捨てて来るか? 残党に見つかって騒ぎにでもなったら、ますます面倒なことになるぞ」

「だからって、このまま一緒に行動する訳にもいかんだろ。邪魔で仕方がない」

「まあ、そうだな」

 この少女の目が覚める。小さな洞穴で見知らぬ四人組に囲まれているのに当然ながら動揺するのを、ビビアンがなんとか(なだ)めつつ、彼女が湖で浮かんでいたところを発見して救助したのだと告げると、今度は「なんでそのまま死なせてくれなかったんですか!」と少女が涙目で怒鳴り出した。

「溺れていたのを助けたのに、随分な物言いだな」とケレブだ。

「あたしは死にたかったんです!」

「顔を出して浮いていたから、たぶん死ねなかったぞ?」と鼻で笑った。

 少女は潤んだ目を隠すように、そのまま(うつむ)いて声を殺しながら泣き出してしまったので、ビビアンに「ケレブ!」と叱られる。ビビアンが彼女に身を寄せて優しく声をかけたり頭を撫でたり、なんとか宥めているのを、男三人はどうすればいいのか分からず彼女から目を逸らしていた。しばらくして、少女は落ち着いたのか泣くのをやめたので、ビビアンが事情を尋ねると、思いのほか素直に教えてくれた。

 彼女は|Edith Vasiliadisエディス・バジリアジスというらしい。年は十三歳らしく、そのためか詳しい事情は本人も知らないようだが、早い話が彼女の両親は、かつてはそれなりに裕福だったそうだが、悪質な借金取りに追われた挙げ句に殺されてしまったそうだ。借金取りはそれだけでは飽き足らず、エディスを追い掛けて両親が残した僅かな財産までふんだくろうとしたらしい。そして昨夜は、自宅に借金取りが押し入ってきたところを逃げ出したそうなのだが、そのまま追い掛けられたんだという。エディスはその借金取りに酷く(おび)えていたが、ケレブが「それならオレが追い払った。徹底的にビビらせたから、もう近づいて来ないだろう」と少し嘘をつく。それは本当かどうかと尋ねて来たので、「何なら住み込みで護衛してやる」とまで言ってやった。それだけではなく、自分とビビアンがウィザードであることを告げ、もしエディスにウィザードとしての才能があるのなら、最低限の護身が出来るように訓練するとまで提案する。当初は不安気だったエディスは、ケレブらより借金取りのほうが余程怖いのだろう。少し考えた末にケレブらを自宅に招くことに決めた。


 エディスの自宅は集落から離れた湖の(ほとり)にあった。簡素な作りで、以前は別荘として使っていたそうだが、本来の自宅は例の借金取りに奪われてしまったのだという。家に入ってみると、リビングは容赦なく荒らされていた。虚で聞いた、昨夜に押し入った借金取りの仕業らしい。ほかの部屋も荒らされた痕跡があるから、どうやら借金取りは二手に分かれて、片方は逃げ出したエディスを追い、もう片方は自宅に残っていた金品を根刮(ねこそ)ぎ奪って行ったのだろうと推測した。

「借金取りというより、強盗じゃないか」とフラメルが漏らす。

 みな黙っていたが、心のうちで同じである。

 すぐに片づけを始めて、昼頃にはそれが終わった。食糧が無いので買い足しする必要があるのだが、エディスは借金取りとの遭遇を恐れてケレブやビビアンに同行を求めた。

「悪いが、それは出来ない。お前が借金取りに追われているように、オレ達もとんでもない悪党に狙われているんだ」とケレブが言った。

「守ってくれるって言ったよね?」

「確かにそうなんだが……」とビビアンに一瞬だけ視線を送るのだが、ビビアンも困った様子でなにも言えない。

 少し考えて「早い話、喰い物があればいいんだろ」とケレブが言い残して家から出て行った。しばらくすると土の(ざる)に大量の魚を入れて戻って来る。

「今日はこれで我慢してくれ」とエディスに渡した。

「ありがとう……。でも、お魚さばけない」

「…………」

 昼食は、串刺しにした魚を焼いて塩を振っただけのものとなった。

 別室でビビアンとエディスがお喋りしているあいだ、ケレブとホーエンハイムらは別室で今後の相談を始める。

「オレとビビアンの目的は、早い話がバシリスクを殺すことだ。そのために一旦、外国に渡ってバシリスクの監視の目から逃れ、そこでバシリスク討伐の準備をするつもりだ」とケレブが告げた。

 次にフラメルが言う。

「まず、バシリスクを殺すだけなら、お前とグローグがそいつに近づいて殺してしまえばいいだけの話だろ。次に、なんで私たちまで連れて来る必要があったのかサッパリ分からん」

「奴の側近だからって、バシリスクは容易に殺せない。奴の側近は他にもいて、特にエトンとヒュドラという奴らはバシリスクに忠誠を誓っている。それに、側近と呼べるほどじゃなくても、バシリスクはウィザードであるホムンクルスを常に傍においているから、仮に奴に怪我の一つや二つを与えることが出来ても、殺すのは不可能だ」

 一息ついて続ける。

「次に、お前たちを連れて来たのは早い話……お前たちにホムンクルスを作ってもらうためだ」と真面目な顔をして言った。

「君もバシリスクのように、私たちがエクリプス・タブレットの中身について、なにか知っていると思っているのか」とホーエンハイムが言うと、「そうだ」と断言される。

 さらにケレブは話し続ける。

「お前たちがどう思うが、なんと言おうが、バシリスクがホムンクルス生成に使っている技術はエクリプス・タブレットに由来する情報が元になっているのは間違いない」

「仮にバシリスクがタブレットの情報を元にホムンクルスを生成したのだとしても、私たちがタブレットの中身を知っている証拠にはならないはずだ」

「バシリスクの本名はヴィクター・シェリー。奴が持つエクリプス・タブレットの情報は、ヘルモントから流れたものだ」とケレブは言った。

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