表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート

未来(SF)

作者: 五四 七一

 

 


 ある親子に息子が生まれた。


 息子はとても元気で健康的に育った。


 だが、両親には生まれたときからずっと悩みがあった。


 息子と目が合うと、《《彼の未来が見える》》のだ。未来予知プレコグニション、ほかの人の未来が見える、という超能力者のたぐい胡散臭うさんくさい話はテレビや雑誌で知っていたが、息子のようなケース、さらに不可思議ふかしぎな話は一切耳にしたことがなかった。


 立派で特別な人間に、という両親の大きな期待とは裏腹うらはらに、彼の未来は、普通に成長し、結婚し、死ぬというありきたりなものだった。


 両親がどんな英才教育えいさいきょういくを与えても、どんな人に会わせても、その未来は変わらない。


 しかも、両親だけでなく誰でも息子に会うと、彼の凡庸ぼんような未来が見えた。


 そして、彼に会う人々は、両親も含めみんなかげで口にした。


「なんてつまらない人生なんだ」



 ***



 息子は成長し少年になったが、そのころには、彼の行く末について、誰も何も言わなくなった。


 両親でさえ、息子の将来に期待もせず、気にけなくなった。


 息子はみんなが自分の未来を知っていて、しかもそれが平凡へいぼんだということには、態度で気付いていた。


 未来を変えてやろうと、猛勉強したり、小さな悪さをしたりしたが、どれもうまくいかない。


 両親は、息子のどんな挑戦ちょうせんも、失敗をするたび口にした。


「こうなることは知っていた」


 やがて、息子は未来を変えようとすることはあきらめた。


 それでも、数奇すきな人間はいるものだ。大学に入学すると、女の子と交際するようになったのだ。


「あなたが私と結婚するのね」女の子は最初に会ったときに、目を見開いてこう告げた。


 息子が大学を卒業して働き始めると、やっぱりその女の子と結婚した。二人の子どもにも恵まれた。


 喜ばしいことに二人とも自分と同じように未来は見えなかった。


 仕事も順調で、家庭も円満えんまんであり、昔はなかった自信が段々と息子にも湧いてきた。



 ***



 大学を卒業して働き出してからは、両親と疎遠そえんになっていたが、長子が小学校に入学するのをに実家へ会いに行った。


 だが、その頃には、両親の仲は悪くなっていた。父親は会社でよくない部署ぶしょに配属され、母親は浮気をして、父親にもばれていた。二人は同じ家に住んでいても、会話をしなくなっていた。


 母親は息子に会うと、その眼をじっと見て泣き出してしまった。


「なんて幸せな人生なの」


 確かに年をるにつれて、周りの眼は変わっていた。


 小さい頃は、あわれんでばかりだった視線や表情が、段々羨望や悲しさを帯びるようになってきたのだ。


 実家の庭先にわさきで、妻に母親の話を説明すると、はなで笑われた。


「こうなることは知っていたわよ」


 息子はそのまま平凡な人生を過ごした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ