未来(SF)
ある親子に息子が生まれた。
息子はとても元気で健康的に育った。
だが、両親には生まれたときからずっと悩みがあった。
息子と目が合うと、《《彼の未来が見える》》のだ。未来予知、ほかの人の未来が見える、という超能力者の類の胡散臭い話はテレビや雑誌で知っていたが、息子のようなケース、さらに不可思議な話は一切耳にしたことがなかった。
立派で特別な人間に、という両親の大きな期待とは裏腹に、彼の未来は、普通に成長し、結婚し、死ぬというありきたりなものだった。
両親がどんな英才教育を与えても、どんな人に会わせても、その未来は変わらない。
しかも、両親だけでなく誰でも息子に会うと、彼の凡庸な未来が見えた。
そして、彼に会う人々は、両親も含めみんな陰で口にした。
「なんてつまらない人生なんだ」
***
息子は成長し少年になったが、そのころには、彼の行く末について、誰も何も言わなくなった。
両親でさえ、息子の将来に期待もせず、気に掛けなくなった。
息子はみんなが自分の未来を知っていて、しかもそれが平凡だということには、態度で気付いていた。
未来を変えてやろうと、猛勉強したり、小さな悪さをしたりしたが、どれもうまくいかない。
両親は、息子のどんな挑戦も、失敗をするたび口にした。
「こうなることは知っていた」
やがて、息子は未来を変えようとすることは諦めた。
それでも、数奇な人間はいるものだ。大学に入学すると、女の子と交際するようになったのだ。
「あなたが私と結婚するのね」女の子は最初に会ったときに、目を見開いてこう告げた。
息子が大学を卒業して働き始めると、やっぱりその女の子と結婚した。二人の子どもにも恵まれた。
喜ばしいことに二人とも自分と同じように未来は見えなかった。
仕事も順調で、家庭も円満であり、昔はなかった自信が段々と息子にも湧いてきた。
***
大学を卒業して働き出してからは、両親と疎遠になっていたが、長子が小学校に入学するのを機に実家へ会いに行った。
だが、その頃には、両親の仲は悪くなっていた。父親は会社でよくない部署に配属され、母親は浮気をして、父親にもばれていた。二人は同じ家に住んでいても、会話をしなくなっていた。
母親は息子に会うと、その眼をじっと見て泣き出してしまった。
「なんて幸せな人生なの」
確かに年を経るにつれて、周りの眼は変わっていた。
小さい頃は、憐れんでばかりだった視線や表情が、段々羨望や悲しさを帯びるようになってきたのだ。
実家の庭先で、妻に母親の話を説明すると、鼻で笑われた。
「こうなることは知っていたわよ」
息子はそのまま平凡な人生を過ごした。




