15_夜
結局、セレーネが一体何なのかは理解できなかった。
夕食の時も全員揃っていないため、まだ話を聞いていない少女たちも多い。
シャルロッテは謁見の間に居たと城の侍女から話を聞いたが、今もまだそこに居るかは分からない。
せめて明日になる前に全員と話し合いたかったが、今度にするしかないだろう。
夜になり、城の中が暗くなって雰囲気がより暗くなる。
この状態だと幽霊が出てきそうだ。宮殿区辺りはもっと特殊な空気は漂っていそう。
ベランダの通路に出ると城の外観が丸見えになって非常に見晴らしがよかった。
どうしてここまで立派な城を建てたのかは今も謎が多いが、今ではこの城も立派な観光名所の一つとして数えられている。
建設当時は議論が紛糾していたのかもしれないが、町の人たちにとってはアインリッドの城は一つのシンボルとして親しまれていた。
ウォルト王がどうしてこの城を建てたのかは諸説あり、一つは王妃のための霊廟も兼ねているという。
しかし、伝統的な霊廟の建設が見られないためその噂はすぐに否定されている。
建設に費やした金額と材料は計り知れず、動員された魔法使いも多いため地方では魔物の被害が多かったという。
彼が一体何を理由に建設をしたのか、多種多様な説はあるがはっきりとしたことは分かって居ない。
現実的ではないこの城はただのロマンのために作られたのか、あるいは誰もが予想にしない事を予見して作られたのか。
城の建設に関しては憶測を呼ぶ事も多く、謎を題材にした創作も多く出版されているようだ。
その神秘的な城を建設した理由を妄想するだけでも、すぐに寝てしまえる自信はスタンにはあった。
結局、ウォルト王の散財によるものとされているこの城の建設は今もまだ着工を終了していない。
着工を終了していない理由は王族以外知らされていないので何とも言えないが、ただ眺めているだけでも人生を終了させてしまうような感じさえもしていた。
「スタン?どうしたのこんな場所で。」
「リーネか。」
後ろからリーネが歩いてきた。彼女もこの城を眺めに来たのだろうか。
「このお城、かなり広いよね。普通に歩いているだけで迷子になっちゃいそう。」
「もし迷子になったら、大声を出して呼んでくれ。」
「そんな恥ずかしい真似しませんよーだ。」
迷子になったとしても、侍女や誰かに聞けばいいが。恐らくそうなったとしてもリーネは一人で何とかしようとするだろう。
「それに、その気になれば窓から飛び降りて屋根から移動すればいいじゃない。」
「うーん。」
流石にその発想は無かったが、そんな事をしたら色々な人から怒られそうだ。
「リーネは今日、仲間と一緒に町に出かけていたんだろ?」
「うん。皆親切に案内してくれたよ。」
「そうか。」
「スタンは誰かとお話できたの?」
「数人だけは話せなかった。特にシャルロッテとエミーリエが何処に居るのか分からないんだ。」
「私が聞いた限りだと、その二人はライバル同士らしいよ。」
「ライバル?」
「うん。前に二人は決闘して、エミーリエの独断専行の癖を直したみたい。」
「独断専行って、どういうことだ?」
「任務は基本、私一人だけで十分だ。群れるのは弱い証拠だから。って、こんな感じに言ってたんだって。」
右手で顔を隠し、クールに言ってのけるエミーリエを想像したが違和感は無かった。
「つまり、ソロで戦おうとしたエミーリエをシャルロッテが止めたのか。」
「うん。でも、そのシャルロッテさんが苦手意識を持っているくらいだから。割と難しい関係なんじゃないかな。」
「会ってみないとどうとも言えないけど。結局、二人はいつも何処に居るんだろうな。シャルロッテは今日は宮殿区の謁見の間に居たらしいけど。」
「きっと何か凄い秘密があるのかも?」
「秘密を詮索した所で何も始まらない気はするけれど。」
「うーん。私が見た限りでは、シャルロッテさんの方がおっぱいが大きいけど。」
「そんな情報を俺に言ってどうする・・・。」
「重要な事だよ。一度会った時だってあの強そうな人は忘れられないし。」
「そういう物なのか。とりあえず、明日は任務があるからもうそろそろ休もう。」
「えー?」
秘書から通達があった通り、明日には魔物の討伐のためにドラゴンで隣の町まで行く事になる。
次の日から、ブリランテ小隊の一員として二人は実戦で活躍する事になるわけだ。
自分が小隊の指揮をとれるかはまだ未知数だが、彼女たちの能力を見ればそこまで心配する事はないはずだ。