14_人形の娘
夕食が近くなって来たので、一度自室へ戻ろうとしたときだった。
長い通路にある家具の上に、人形が置いてあった。
スタンはそれが何なのか、調べようとしてその人形に近く。
しかし、突然触らないでと声がした。
周囲には誰も居ないが、一体誰だろうか。
「誰も居ない。悪戯か?」
「悪戯じゃないわ。私はここに居るもの。」
人形が喋っているようだった。
「えっと。」
首が自動でこっちに振り向いてくる。
一体どんな魔法なのか分からないが、誰かの仕業であることは間違いない。
「こ、こんばんは?」
「貴方がスタンね。」
「えっと。君は。」
「セレーネよ。」
「セレーネ?どういうことだ?」
ふと、突然セレーネ本人が後ろから現れる。
彼女は人形を抱き上げるが、ただの悪戯だろうか。
「えっと。一体どういうこと?」
「私は呪いにかかって、人形に魂を入れられたの。体の方は、私を守ることは出来るけど命令されない限り何もできない。」
人形の方が喋っていて、セレーネ本人は口を動かして居ない。
どんな呪いの所為なのか知らないが、そういえば彼女と始めて会った時も人形を抱いていた。
「任務はどうするんだ?書類には書いて居なかったけど。それじゃ戦えないだろ?」
「大丈夫。体の方は頑丈だし、無理はしないもの。スタン隊長こそ、私たちに変な司令を出さないようにね。」
「変な司令?」
「例えば、私たちに気があっても公私混同をしないこと。」
「そんなことする訳ないだろ。それより、どうして体の方が動いているんだ?魂が抜けているんだろ?」
「この体と人形としての私は同一人物よ。魂は隔離されても、肉体そのものは普通に機能するわ。」
「じゃあ、何で動くんだ?」
「貴方、どうして人間から魂が抜けた程度で肉体が機能しなくなると思うのかしら。」
「魂は人の魔力と身体に密接に関係する重要な要素だろ?」
「魂が無くてもいいじゃない?」
「え?」
「魂が無くても人間は普通問題ないと、何故思えないのかしら。魂とはそもそも何なのか、貴方も本当は知らないでしょう?」
「知らないけど。人間の意識は魔法でも説明出来ない部分はあるだろ。」
「でも無くてもいい。人間の脳と身体があれば自由に動けるわ。」
「それは、でもおかしくないか?意識は人形の方にあるんだろ。」
「私は確かに人形になってしまったけれど。この身体にだって意識はあるわ。目も見える、耳も聞こえるし喋れるわ。ねえ?身体の方のセレーネ?」
「うん。私は何も問題ない。」
「え?」
確かに身体の方も喋っていたが、しかしこれでは人形の方は何だろうか。
もしかしたら、手の込んだ悪戯かもしれないが。
「そろそろみんな帰ってきたし、ご飯にしましょうか。セレーネ、夕食の時間よ。移動しなさい。」
「わかった。」
そう言って、彼女は人形を抱いて歩いて行った。
彼女が本当に呪いで人形に移ってしまったのか、それもはっきりしない。
呆然と、スタンはただ彼女の後ろ姿を見ているしかできなかった。