1_城の景色
高い山の上にそびえ立つ建物が、山道から直接見えていた。
高く建設されたその王城は、敵を迎え撃つ城壁というよりは宮殿に近い部分も併せ持っている。
非常に高く建設されたその建物は人力で建設する事は不可能な物であり、魔法による大規模な建築が繰り返されたと思っていいだろう。
近くには広い街並みがあり、城からであればその風景を隅から隅まで一望する事は可能だ。
アインリッドに存在するその王城は最近建設されたもので、国内にある城の中では最も派手な城となるらしい。
しかし、その美しい城は賛美ばかり集めているわけでもない。
今は既に亡くなっているウォルト王がその王城を建設を命令した本人だが、国の予算を圧迫するほどの無駄な建設であったため王族の中でも評判が悪い。
しかし、暗君というわけでも無いため徹底的な批判はされておらず、王城は彼の最終的な欠点とされる。
周囲には魔物を寄せ付けぬ結界があり、建設される時に割り当てられた魔法使いもかなり多い。
内部もかなり華美な様式になっているため、ウォルト王は絵本の中にしか存在しない城を建設させた散財の王様として語られているらしい。
「ここから見ると絶景だとは聞いたけど、これがウォルト王の子孫のために建設された王宮だからな。」
王城を一望できる山道のポイントに、二人の男女が馬に乗って到着していた。
「でも、防衛拠点なんだよね。」
「うん。これは防衛のための城と王宮のための城が並行して建設された、最も奇抜で優雅な城と言われてる。実際、こうしてみると絵の中に居るようだけどね。」
防衛拠点兼王宮という、建設する労働者や設計者からみても無茶な建物。
それを可能にするほどのコストと技術が使われたが、誰からみても散財しているようにしか見えなかったようだ。
中庭の庭園も素晴らしいというが、防衛拠点なのに庭園があるのは狂気しか感じない。
「これが、私たちがこれから配属される拠点なんだよね。私、大丈夫かな。」
金髪のツインテールや、白い甲冑が太陽光に反射してかなり派手に輝く。
リーネは初めて王城の近くまで来たため、その光景には少し圧倒されていた。
ある意味、無駄とも言えるその城の広大さには現実感が無さすぎる。
「見た目は凄いけど、本当に防衛に向いてるのかしら。かなり不安しかないんだけど。」
「ここを守れと言われたら守るしかないだろう。」
スタンはとりあえず命令に従う方向性で、目の前の防衛拠点兼王宮を頭の中に記憶する。
アインリッド王国の防衛拠点、そこに駐留する軍隊の隊長に任命され従者と共に領地内に入っている。
急な軍隊の編成によりかなり長距離を移動させられたが、得るものは大きいかもしれない。
「圧倒されるけど。別の意味で悪趣味ね。」
戦闘が起これば王城よりも街並みの方が破壊されるんじゃないか。
リーネはスタンの後ろについていくが、不安は払拭されることはない。
「もし戦争が起きてこの城に兵士が攻めてきたら、私はどうすればいいのかな。」
「さあ。俺たちがこれから配属される小隊はどちらかというと人間相手の戦いは想定していないからな。何かあったら、まず王族を守る事を優先することになるだろう。」
「ふーん。これからもし凄い活躍が出来たら何がもらえるかな。」
「さあ。勲章と金銭以外はあまり分からないけど。あまり変な欲を張って失敗しないようにしろよ。前だって・・。」
「あれ、小鹿が居る・・?」
「おい、リーネ?全く・・。」
突然何かを見つけたリーネはすぐに走って行ってしまった。
すぐに王城にたどり着きたいが、しばらくは王城の光景を眺める事になってしまいそうだ。