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第一話

強い光の中、意識が覚醒する。


体を起こすと見知らぬ景色がそこにはあった。


「おぉ!」


蒼天と深碧の大地に包まれた視界に感嘆の声がもれた。


絶景に奪われた意識を引き戻し、気を失う前のことを思い出そうと思案に暮れた。

そして思い出す。


…俺は川に流されたのだ。


記憶がよみがえるにつれ、体中から嫌な汗が噴き出した。


ここに流される前のことだ。


俺こと舞原ショウは、友人と河川敷で酒を飲んでいた。

酒癖の悪かった俺は、暴れた挙句、川に飛び込んだのだ。

今思えば本当に馬鹿だと思う。

流されるまま川の中州にたどり着いた。

しかし、酩酊していた俺はあろうことか、川に再び落ちてしまった。

あの時、聞こえていた声は友人の声だったのだろう。


戻った記憶から俺はそう考察した。


しかし、そうなるとここはどこなのか、という疑問が残る。

川に流されるまでの記憶はある。

確かに流されたというのなら、たどり着くのはどこぞの岸か水底のようなものだろう。

それがなぜこのような丘にいるのか、皆目見当もつかない。


まるで、自分一人が世界から切り離されたような感覚が俺を襲う。


独りぼっちだ。


混乱している俺には、悲しいのか、嬉しいのかも判別できなかった。


そうこう考えているうちに、日が暮れてはたまらない。

そう思い、立ち上がり歩を進めた。行く当てなどないのに。



しばらく歩いたところで、俺は思った。考えなしに行動するから失敗するのだ。

歩きながらでもこれからの計画を立てようと思い、思考する。

まずは腹が減った、食べ物を確保しよう。

そのあとは、家に帰りたい。

いや、帰るも何もここがどこかも把握できていないのに帰れるはずもないか、人を探そう。


「ここがどこかを教えてもらってから、帰る手はずを整えよう」


「うん、それがいい」


「ほんと、一人じゃなんもできねーな」


そんな、独り言をぽつりぽつりと呟きながら計画した通り、食べ物を探すことにした。


「って、食べ物って何を探せばいいんだ?」


「野草か?」


そう思い、食べれる野草を調べようとポケットに手を突っ込みスマホを探した。


…ない。


どこかに落としたのか。

インターネットで調べなければ何もわからないような、自分の知識の狭さと浅さが憎らしい。

そう思ったのは、就活の際に面接を受けた時以来だ。


ダメだ、食べ物は後回し。

先に土地勘のある人を探そう、あと野草に詳しい人がいいな。

それか、食べ物を恵んでくれる人だとなお良い。


空腹のせいか、生まれ持った性格のせいか考えが汚くなっていく。


そんなことを考えながら歩いていると、遠くに人影がいくつか見えた、馬に乗っているようだ。

馬に乗っている人など、競馬でしか見たことがない。

珍しいものが見れたと、少し気分が高揚するのを感じた。


手を振るとこちらに気づいてくれたのだろう、まっすぐこちらに向かってきてくれている。

俺も嬉しくなりそちらへと駆け出した。

近くなるにつれ、彼らが日本人ではないと確信していく。

金髪の青年、眼の碧い女性、堀の深い老人など、どれをとっても日本人たらしめる要素がなかった。


だが、そんなことなど今の俺にはどうでも良かった。

彼らが日本人であろうとなかろうと、ここが日本であろうがなかろうと。

今は、人に出会えた、それだけで十分だったのだ。

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