突撃せよ! 我ら第六軍亜人混成師団
これは現在書いている小説「君に問おう。生とは、死とはなんぞや」の完結後に投稿予定の作品です。
短編でプロローグと1話を合体させたものを出しますが、まだまだ改善の余地がある作品ですので投稿開始した際とはタイトルや文章が違う場合があります。
時刻は夜になり、夜空には煌びやかな星が瞬く。
魔界の中心地にある、魔王の居城フォッヘンハウム城において魔龍騎将エルザン、蛇竜将軍ライハルト、狼牙大将バルムなど諸将が集う玉座の間の中央に元神聖騎士キースは両膝をつき、魔王が現れるのを待っていた。
「なぜこやつがのここにのこのこと来れるのだ?」
「さっさと首をはねてフリートヘルム様の墓に捧げるべきであろう。」
「それでは面白くない。地上界に連れて行ってそこで処刑すべきだ。」
居並ぶ諸将達が聞こえよがしに話しているが、キースは周囲を一瞥することなくただただじっと待っている。
玉座の間を静かな怒りと明らかな殺意が覆う重苦しい雰囲気の中、それを打ち破るような扉の開く音がした。
身長は2メールを超えんばかりで全身鎧を付けた巨人の大魔将軍バルクハルトを従え、燃えるような赤い髪と澄んだ蒼色の眼をしており、衆目端麗で煌びやかな髪と同じ真っ赤なマントを羽織った魔王ディートハルトが玉座の間へとゆったりとした歩調で入ってきた。諸将は直ちに姿勢を正し、ディートハルトはキースを一瞥するとすぐに玉座に座り諸将に聞こえるように語り始める。
「はるばる地上界からよく来たな。私も殺しに来たか?わが父であった先代魔王フリートヘルムのように・・・・」
魔王はキースを睨み付けながら、口元は薄ら笑いを浮かべている。だがキースの姿勢は変わらず、顔を伏せ相手に従う意思を見せている。
「・・・・自分は魔王様にお仕えしたくここまでやって参りました」
キースの一言にディートハルトは笑い出す。だが目は笑っていない。
「アッハッハッハッハッハ・・・・聖騎士であるお前がか?どのような心境の変化かは知らんがお前のやったことをお前自身が知らぬわけでもあるまい」
「・・・・はい」
「ではなぜ父の仇であるお前が私の元へと来るのだ? 私も討ち取るか殊勝にも自分の首を差出に来たとしか考えられまい。」
「よしんば本当にお前が私に仕える為に来たとしよう。その理由は何だ?理由も無しにわざわざ魔界にまで来て仕えたいなどという世迷言はいうはずもなかろう?」
「それは・・・・」
キースはぐっと唇をかみ締め、今まで伏せていた顔を上げて魔王を見上げた。
「・・・・今はお答えできません」
キースは躊躇しながらもはっきりとした口調で伝える。
ディートハルトの方は最初意味が分からず呆然としていたが、その後ふつふつと憤激の気持ちが込みあがり玉座から勢いよく立ち上がる
「貴様は私をバカにしているのか!!! 父の仇がノコノコやって来て、私の元へ下る理由は言えないくせに仕える事を簡単に許すような愚か者に見えるとでもいうか!!! 」
「そういうわけではございません! この身果てるまで魔王様にお仕えする所存です! 」
キースはすっと立ち上がると着ていた鎧を脱ぎ、腰に帯びていた剣と盾を自分の正面に置いて改めて両膝をつける服従の姿勢を見せた。
「そうですかと信じられるわけがなかろう!理由が言いたくなければこの場で首をはねてやる! それでも言わぬのか!?」
魔王は玉座から一歩進み出てキースに激しい怒号を浴びせる。だがキースは顔は上げたものの姿勢は崩さない
「申し訳ございません。今は言うわけにまいりません」
魔王の怒りはここに来て頂点に達し、近似に怒鳴りつけるように指示を出す。
「良かろう!ならばその首をはねて父の墓前に供えるだけだ!剣をもってこい! 」
近侍の者が慌てて抱えていた魔王一族に伝わる魔剣を渡そうと走り寄る。
「ディートハルト様!お待ちください! 」
今まで魔王とキースのやり取りを傍らで静観していたバルクハルトが進み出て、激昂する魔王を制止する。
「止めるなバルクハルト!父の仇をここで取らずしていつ取るのだ!? 」
「ここでこの者を殺してどうなるのです?フリートヘルム様の最期の言葉は何であったのかをお忘れですか? 」
怒りで満ち溢れていた魔王の顔がはっとした後、すぐに顔をしかめ厳しいものになる。
「先代魔王のフリートヘルム様はこの者に討たれる寸前、私に対してディートハルトに伝えよ!小さなことに拘らず、大望を果たせ。とおっしゃっておりました。ここでこの者を殺して一時の慰めとしても地上界の人間たちや神族との力の差ががそれほど変わるわけではございません。むしろこの者を上手く使うことこそが今後の地上界への侵攻において有利に働くかと思われます」
「ではバルクハルト、お前はどう思うのだ?この者は父を殺したのだ!それを恨みには思わぬのか! 」
魔王の怒りのこもった問いに対し、バルクハルトは静かに、それでいて強い意志で魔王を諭す
「私はこの者を恨むよりもフリートヘルム様を守れなかった自分の方を恨みます。もし魔王様がどうあってもこの者を殺すというならば、私もフリートヘルム様を殺した同罪でありますので自分で自分の首をはねるだけです」
バルクハルトにここまで言われてしまうともはや魔王も何も言いようが無かった。魔王は憮然としながらも再びキースに問いかける。
「ではキース・フォン・フラインベルクよ。私に仕えるのを許す……と言いたいがそのまま何も無く許してしまえば父だけでなくこの場にいる諸将にも示しがつかぬ」
諸将が一様に頷く。
「そこでこうしよう。お前は神聖騎士となる際、神族の血を飲み忠誠を誓ったな? 」
「はい。」
「ならばこの魔王の血も飲めるか?」
諸将がざわつきはじめる。過去神族の血の祝福を受けた神聖騎士が魔族へと寝返った例は無い。神族と魔族には特殊な力があり、その血を飲むことで魔力が増大される代わりに、それぞれ魔力の属性が光か闇へと傾倒する。
つまり神族の血を飲んで神聖騎士となったキースが、魔族の血を飲むという事は自分の魔力の属性が一気に真逆になるという事であり、今までそれを行った者が皆無である以上、それがどのような結果になるのか全く分からないという事である。
「ディートハルト様!それは! 」
「黙れバルクハルト!私に仕えるといった以上、私の血を飲み魔界騎士となってもらわねばならぬであろう? 」
「もしわが血を飲み、忠誠を誓うのであれば将軍の位も考えてやろう」
「無論、飲めるのであればな? 」
今度はバルクハルトも黙らざるを得なかった。
確かに先代魔王を殺した者が何もお咎めなしで仕えることが許されれば配下や民衆から不満が出ることは確実である。
しかし、この神聖騎士キースが持ち込んだ献上品の中には、今後の地上界侵攻においても重要になる物がいくつも入っていた。
この者をここで殺してしまうのは惜しい。惜しいからこそバルクハルトは魔王様に必死にこの者をかばったのだ。
だが魔王様の血を飲めばこの者とてただではすまぬだろう・・・・
魔王がキースをじっと睨みつける。
諸将も事の成り行きを固唾を飲んで見守っていた。
魔王が近侍から白い小皿とナイフを受け取り、親指にすっと切れ目を入れ、血を数滴滴らせる。
小皿には一口程度の血が溜まりそれを近侍が持ったままキースの前に進み出て手渡した。
キースはしばらく手に持った小皿を見つめていたが、意を決した様に魔王を見つめる。
「魔王様の血を飲めば仕えることをお許しいただけますか? 」
「ああ、異論は無い」
「・・・・では! 」
どうせ飲めぬであろう。
誰だって自分の命は惜しい。
私が血を飲めと言っても理由を言わなかったのは、どうせバルクハルト辺りが止めてくれるはずと高をくくっていたに違いない。
魔王はそのようなことを思いつつ薄ら笑いを浮かべながら見ていた・・・・が!
諸将も、バルクハルトも、そして魔王自身も驚愕した。
――――キースはためらいなく魔王の血を飲んだ――――
取り落とした小皿が割れ、破片があたりに飛び散る。
キースは床をのたうち回り猛然と苦しみだす。体の中で光と闇の魔力がぶつかりあい、体は燃えるように熱く、全身を激痛が走り自分が立っているのか座っているのかすら分からない。
熱い! 体が灼けそうだ! 身体も‥‥手足が千切れ飛んでどこかへ飛んで行ってしまう!
私は・・・・死ぬのか・・・・
いや! まだだ! まだ果たすべきことがあるのにここでは死ねない!
キースは全身の意識をかきあつめ、喉から空気を搾り出し、かすかに見える魔王であろう者に片膝をついて拝礼の姿勢をとる。
「こ・・・・れで・・・・よろしいでしょうか・・・・? 」
魔王は立ち上がったまま呆然とキースを見つめていたが、気を取り直したように玉座に座り
「う、うむ・・・・」
と答えるだけであった。
拝謁を終えたキースは意識が朦朧としながらも、頭を下げて拝礼しそのまま床に倒れ伏した・・・・
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キースはベッドの上で目を覚ました。
上体を起こし辺りを見渡すと石造りの壁と床が見え、ベッドが8台ほど整然と並べられてあり高級品ではないが衣装ケースなどの調度品もベッドの頭の方に同じ数だけ置いてある。
一瞬自分がなぜここにいるのかを考え、最後に記憶のある玉座の間での出来事を思い出した。
自分はあの時死なずにここに運ばれたのか・・・・最初の賭けには勝ったな‥‥
ふと慌てて着ていた白のシャツを脱ぎ自分の体を確かめる。
特に外傷や変わったところは無い。目を閉じて意識を集中し自分の魔力がどうなっているのかを感じ取ろうとする。
意識を深くもぐらせると体の奥底で光と闇の魔力がぐるぐる渦を巻いているのが感じられる。
魔力の量は変わっていないが魔王様の血を飲む前と比べて魔力を感知しづらくなった気がする。
魔法が出せるのかどうか気にはなるがこんな所で使うわけにはいかない。
その辺りはまた追々考えることにした。
とりあえず脱いだシャツを着なおし、自分の寝ていたベッドの所にある衣装ケースを開く、着ていた鎧などはさすがに入ってはいなかったが、その下に着ていた白い布の服は入っていたのでそちらに着替え始める。
その音を聞きつけたのか入り口の扉が開き、衛兵と思われる人間が入ってくる。
いや、よく見たら鉄兜の正面に角を収めるであろう突起があるので恐らく魔族なのだろう。
衛兵は直立し、持っていた槍を右手に持ったまま敬礼してキースの方を見る。
「ようやく起きられましたか。魔王様よりの伝言で、目を覚ましたらすぐに玉座の間に来るようにとの仰せです。」
キースは気だるい感じと軽い浮遊感を覚え、
「すみませんが、私はどれくらい寝ていたのでしょう? 」
着替えながら衛兵に対して問いかける。
「正確には分かりませんが、およそ3日は寝ていたと思われます」
3日か・・・・長い時間寝ていたのだな。ミーシャやブッフ達は大丈夫かな・・・・
キースは少し溜息を吐く。
だが神族と魔族両方の血を飲むという誰1人挑戦したことの無い経験をして、3日寝込むだけで済んだのだから僥倖というべきなのだろう。
衛兵に連れられ、あの時の玉座の間へと再び通される。
前回と違い部屋には玉座に座る魔王ディートハルトと側に控えるバルクハルトしかおらず、あの時のような重苦しい雰囲気は無い。玉座に座る魔王の前に進み出て拝礼する。
「残念ながら生きていたか。あのまま死んでくれれば私としても少し溜飲を下げれたのだがな」
魔王が悪態をつくが悪意はあまり感じられない。本来の魔王はこんな感じなのだろう。
「お前は私に対して最大限の忠誠を示した。ならば私もそれに応えねばならぬ。私の元に来た理由は気にはなるがあそこまで固辞するのだ、今は聞かぬようにしよう。さて、お前は私に何を望む? 」
キースは、3日前の怒りに満ちた様子とは打って変わって爽やかな声と態度で魔王が接してくるので少々面食らった。
「私が望むのはただ1つ、魔王様による地上界の統一です」
「それはまた大きく出たな?それはお前がここに来た理由とも関わりがあるのか? 」
「それに関しては関わりがあると言えます。あくまで私の目的の為の道筋の1つですが・・・・」
「ハッハッハ・・・・自分の目的のため、魔王であるこの私に元神聖騎士であるお前が地上界の統一を進言とは大層なことだ。その言い方だと私も利用されるうちの1人ということになるが? 」
キースはハッとして慌てて首を垂れる。
「言葉が過ぎました・・・・地上界の統一を果たせば私の目的も達成されるということです。その為には全身全霊で魔王様の為に捧げる覚悟です」
「フフ、あまり変わっていない気はするが・・・・」
「まぁよかろう!その言葉は既に行動で示されたのだ、信じるとしよう」
「さて、キースよ。先だってお前と私の血を飲んだら将軍に据えるという約束をしたが、一部の兵から異論が出ておる。しかし私自身が明言したのは間違いない。これについては私の権限で押し通すことにしよう」
ディートハルトは自信のある顔を見せ、その後バルクハルトに発言を促す。
「ではキース将軍に配される兵ですが、第一軍である我ら魔王様の親衛隊以外の五軍、すなわち第二軍の魔龍軍、第三軍の蛇竜軍、第四軍の狼牙軍、第五軍の悪鬼軍から新兵や古参兵を抽出し、キース将軍が魔界門に駐留させている人族の部隊や魔界に住んでいる人間、その他の種族からの志願者を含め総勢1500名ほどとします」
「魔王様・・・・お気づきでしたか‥‥」
「当然であろう? 我らの最前線である魔界門に人族の部隊が数百名駐留しているのだ。分からぬ方がおかしい」
「無論、駐留している者たちも皆我ら魔族に降るという解釈でよかろうな? 」
「はい、もとより皆覚悟の上で魔王様の元へ馳せ参じました」
「うむ、ならば言うことはない」
普通であれば、最前線に敵である人族の部隊が駐留しているならば即座に撃退すべきであり、仮にその部隊の長が魔王に降ったからと言ってすぐに自軍に組み入れるのは危険である。
だが、魔王ディートハルトの器はそのような些事を気にすることはなく。魔王の血を飲むという最大限の忠誠を見せたキースを全面的に信頼することにしたのだ。
「お主らの軍は今後第六軍と呼称するが、それとは別に通称なども決めておる。何か良い名前などはあるか? 」
昔から軍や部隊の名前などは特にこだわっていなかったため、キースは返事に困ってしまう。
必至に考え込んでいるキースを見てバルクハルトは助け船を出す。
「ディートハルト様、さすがにまだ編成もされていない軍の通称を決めさせるのは酷でしょう」
「そうであったな、まぁ許せ。俺としてもキース将軍の名前を付ける才能を見てみたかったものでな」
昨日は恐れ多くてあまりしっかりと観察は出来なかったが、魔王様はよくよく見ればまだかなりお若い。
こういった冗談やイタズラも常日頃からやっているのだろう。
キースが思わずクスっと笑うとディートハルトがそれを見てしたり顔でキースを見つめる。
「なんだ、お主も笑うのではないか」
「もっ申し訳ありません! 」
キースが慌てて謝罪するがディートハルトをそれを手で制す。
「気にするな。我の前でも笑顔を見せられる人々を作る。それが良いのだ! 祖父が! 父が! そして我らが目指したのは地上界の統一、そして人族と魔族の融和だ」
「その為には我々は突き進む! たとえいかなる障害や困難が待ち受けていようともな! 」
「だからキースよ! お主の力も貸せ! 父を殺したという罪を! 魔族による地上界統一という功績でもって洗い流せ! 」
「我ら魔族の旗を地上界に掲げるのだ! 」
ディートハルトは勢いよく立ち上がり、雄々しく叫ぶ。その姿は決して若い魔族の少年などではない。
この方はまさに王だ‥‥何者にも代えがたい唯一絶対の王。
魔王様に・・・・ディートハルト様に降ったことは間違いではなかった・・・・
この方になら・・・・この方になら我が身全てを捧げよう!
キースの眼から涙が流れだす。
生涯で仕えるに値する最高の王を目の当たりにし、キースはただただ深く頭を下げる。
「ではキースよ。お主将軍位だが、こちらはなんとする? 」
「はっ!魔王様! 」
暫く考えた後、キースは目を見開いてはっきりと答える。
「私はキース様のお言葉を聞き、その志にぜひお力添えしたいと心に誓いました」
「私の将軍位は‥‥人と魔の融和・・・・人魔将軍とお呼びください! 」
キースの答えにディートハルトは頷く。
「人魔将軍・・・・良い名じゃ!それではキースよ!今後はお主の事を人魔将軍キースと呼ぶ!それでよいな! 」
「はっ!」
こうして魔族軍に新たな将軍が1人誕生した。
人魔将軍キース・フォン・フラインベルク
元神聖騎士キースが魔族に降り、そして人魔将軍キースとなったことにより世界は大きく動き出す。
後の歴史書ではこう記されている。
『魔王ディートハルトによる2年間に及ぶ地上界への侵攻それに類する戦争は第5次魔族大侵攻もしくは統一戦争と呼ばれた。そして統一戦争は人魔将軍キース・フォン・フラインベルクに始まり、キース・フォン・フラインベルクによって締めくくられた』と
元々はこちらを最初に小説で出す予定だったのですが、思いっきり長編になる予定なので出すのをためらっていたら先に「君に問おう」の方を出す羽目になっちゃいました。
アイデアや意見ドシドシお待ちしています。