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来なかった明日への願い  作者: そにお
第3小節 天上都市エイデンにナル鐘の音と警鐘ハル日
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e11 役目

『では午後のニュースです。本日正午過ぎ、市内中央駅前にて異臭と広域での電波障害が発生しました。現場では救急隊が気密防護衣で現場を隔離する事態となり、18時現在も駅を含んだ周辺域は立ち入り禁止となっています。警察では事故、事件の両面で捜査を始めており、その後発生した電波障害との関連性も含め調査すると発表しています。駅は安全が確認でき次第、利用再開となる見込みです』


 地元のニュースキャスターがシートで覆われた壁の外で、緊迫した面持ちのまま、今持ち合わせている情報を伝えた。


 ハルはそのニュースから目が離せなかった。家のリビングではエアコンが効いているはずだが、体に張り付く嫌な汗が妙な熱気を保っていた。手元にあるスマホで掲示板を覗けばその話題で持ちきりで、憶測が飛び交っていた。曰く頭のおかしいやつの犯行だの、テロだのといったものだが、中には現場にいた人間も書き込んでいるようで、スマホが使えなくなっただの、動画や写真フォルダがぶっ飛んだだのと怒りを書き込んでいる。そして、鬼がいた、と書き込んだIDは周りに詳しくと煽られていたが、一向に類するIDからの書き込みはされることはなかった。以降、唯一、真実ともとれる、鬼、という単語は現れることはなかった。SNSでも騒ぎの投稿はあったが、どれも具体的なものは見当たらなかった。


規制された? 誰が? いや、それが規制されるということは、何があったかを知る奴がいるということだ。おそらくすべてのSNSを抑えられる存在がいる……? そんなことが――


「――おーい!」


 耳元で響いた声に驚き、持っていたスマホがソファーの上に落ちる。


「ってやっと気づいた? シャワーありがと。ハルも浴びてきなよ。って私の家じゃないんだけどね」


 リタが顔を紅潮させてタオルを頭に羽織っていた。とりあえず着替えにとハルのTシャツとハーフパンツを渡したが、さすがにだぼついていた。


「あ、ああ。そうする。冷蔵庫の飲みたいのあったら飲んでいいから」


 自分の服を着ているという状況が妙に強調され、頭がうまく回らず先ほどまでの思案は急激に薄らいでいく。半ば逃げるように言い残し、服を捨てるように洗濯機に投げ込むと、まず我が家にはありえないものまで入っている。それが胸の、つまりブラジャーだと気づくと、なぜ入れたのか、というよりは、いまつけてないのか、と思考が行きつきかけた瞬間に、洗濯機の蓋と共に思考を閉じた。


 あの後、二人はその場に残らなかった。角の生えた女は倒れた後、ガラスが粉々に割れるかのように角が跡形もなく消え去っていた。機動隊が押し寄せ、一旦は二人とも連れ出されたが、隙をみて逃げたのだった。まだ残っていたいくばくかの集団に紛れたおかげで、なんとか自転車を回収し家路についたのだ。

家について、気づいてみればリタもそのまま乗せていて、送っていこうとしたが、女の言葉が気になり、家に招いた、招かざるを得なかったのだ。シャワーを浴びるまで呆けたような彼女を放ってはいられなかったのもあった。父親が不在なのが良かったのか悪かったのか複雑だった。


「わけわかんねえ」


 とにかく色んな意味を含めた呟きだった。排水溝に流れるぬるま湯を見届けてさっさと着替え直してリビングへ戻った。


「リタ?」


 リビングに入るとリタはグラス――冷蔵庫にあった豆乳だろう――を片手にいまだ同じ話題のニュースを眺めていた。差し込んだ西日に汗を滲ませながら、どこか遠い目をしていた。ハルに気づくと忘れていたかのように笑顔でハルを迎え、グラスを傾け空にした。


「ふう! やっぱり豆乳だね。にしても大変なことに巻き込まれちゃったねえ」


 どこか他人事みたいに話すリタだったが、ハルにもその気持ちはよく分かっていた。下手をすれば命すら危うい状況で、人の死すら直視するやもしれない状況から、今になればニュースで報道を見る立場に変わっているのだから。ただハル自身は少し違うと、気づいた瞬間でもあった。急いで二階へと駆け上り自室の部屋に入る。部屋のエアコンは入っておらずこもった熱気がサウナみたいだった。つけっぱなしにしていたパソコンのファンから発せられる熱気も相乗して蒸しでいたが、滴り始める汗を余所にディスプレイを復帰させる。

 映った画面は予想通りで、予想したくない結果だった。


【第一変動――観測完了。誤差3%想定内。第一変動の観測確定により、観測領域の収束を確認。データ送信開始】


 別のタブで一般に表示されていたカウントダウンを開く。


【第一変動は予定通りに実行された。世界の大多数はそれが意味することを知らず、知ろうともしない。第二変動のカウントダウンは条件成立後、表示される。願わくばカウントが起きないことを】


【該当者に告、観測を完了することを推奨】


 カウントは99:99:99:99をのまま動くことはなかった。該当者、つまりハルのページも同じだった。


「何見てんの? ってあっつい! エアコン入れるよ」


「あ、うん、ってリタ!?」


 思わず振り返りディスプレイを背に隠す。リタが見つけたリモコンのスイッチを入れると、ピッと電子音の後、温い風と少しのカビ臭さが漂う。


「だって急に走ってくからさ。私で興奮でもされてるのかと思ったら、パソコン見てるし、ってそっちで!?」


「い、いやいやいや、違う違う! 勝手に暴走すな!」


 なんであんなことの後にそんなことが思いつくのか、むしろ尊敬したが、尊厳を守るために必死になって否定した。それがさらに怪しいと踏んだのだろう、いたずらな笑みを浮かべて背中を覗きこもうとする。


「えー、じゃあなんで隠してるのかなー。ほら別に引かないからさ、むしろ健全でしょ! ちょっとむかつくけど……」


 何度目かの覗き込みの往復に疲れ果てたハルは、ついに諦めた。


「はあ……、分かったよ。別に見てもいいけど、わけわからんだろうし、俺だってよくわかってないんだから」


 ハルはため息をついてパソコンの前を開ける。意気揚々と覗き込んだリタは見る見るうちに怪訝な顔に変わっていた。


「って全然違うじゃん。期待して損したってかもっとむかついた。でこれなに? ああ、テレビでやってたカウントダウンのやつね。なんかのメッセージ? 最重要条件の達成を観測。以降推奨……なにこれ」


「そうなんだよ、わけわからないだろ……なんて言った?」


 リタが読み上げたメッセージはハルの記憶になかった。ハルも急いで画面を覗き込む。ようやく冷えてきた部屋が加速度的に冷却された気がした。

 それは該当者用のページだった。

【最重要条件の達成を観測。以降推奨、速やかな記憶の観測と絶対防衛、並び最重要条件――以降、原種と呼称――の防衛と周辺環境の警戒。該当者――以降、守護者と暫定的に呼称――】


【なお現時点をもって守護者携帯端末との同期開始】


 同時にポケットに投げ込んでいたスマホが震えた。見れば見慣れないアプリケーションがインストールされており、震える手がそれを押した。


【同期を確認。メイリアのインストールを完了。守護者の生体データを認証。一致】


 スマホの画面にそう表示されるとパソコンと同じ、該当者用のページが表示された。


「なんかのゲーム、じゃないよね……?」


 ハルの狼狽えぶりがリタにも伝わったようで、それがゲームの類ではないことを確信された。


「守護者……俺が? なんの……」


「ねえ、大丈夫?」


 リタからは笑顔が消え去り、ただ心配そうな目でハルを覗き込んだ。ハルはリタの輪郭に焦点を合わせる。


「リタ……? リタなのか?」


「え、もちろんリタだけど、ほんとに大丈夫?」


 かみ合わない会話にリタは少し涙ぐむ。信じたくはなかった。全てが偶然だと思っていた。だが机の上で不気味な存在感を出している本を見ると、否定できなくなっていく。頭が痛い。理由は不明だ。目が痛い。理由は不明だ。心臓が溶けそうだ。理由は、あれだ。


 リタは目線の先を追い、本に気づく、それを手に取りハルに差し出す。


「これ?」


「……たぶん。読まなきゃいけない」


 ハルは本を受け取る。そしてリタを見る。涙ぐんだままの彼女の瞳にはハルだけを捉えている。きっと彼女は性格上、ここを動かないだろうとは思った。それがまた一つの条件なのだと思わずにいられなかった。


「私も見ていい?」


「うん、たぶん見るべきなんだ」


 不思議とハルは思った。冷静になれば読まない、という選択もできたはずだ。ただ、そうはできなかった。一つ確かに、ハルが自分自身で確実に言える理由は、一人ではもう耐えられない。ただそれだけだった。


【記憶との接触を確認、第一変動により解凍方法の最適化を完了】


 今度はスマホからだった。いつのまにかメッセージを女のぶっきらぼうな声で読み上げる機能まであったようだ。それもハルはどこかで聞いたような気がした。

 本を開いた途端、文字が、いや記憶そのものが飛び出したように、より明白にハルの視覚から脳内へと駆け巡る。

 ディスプレイは煌々と輝いたまま、二人はベッドで寄り添うようにして横になり静かな寝息を立てながら、本を中心に二人は両手を重ねていた。


【再生開始。どうか私たちにこなかった明日を】


 スマホのメッセージは程なくして消えた。






 

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