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来なかった明日への願い  作者: そにお
第3小節 天上都市エイデンにナル鐘の音と警鐘ハル日
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p20 天上都市

 それからというもの、忙しい日々だった。気づけば目の前のことに集中するしかなく、いつかのゲットーの子ども達のことも忘却の彼方へと押しやられていた。ましてや同じく神に迎えられたエナがどうなったか等、思い出すことも忙殺されるほど、守護者としての職務は多忙極まりなかった。いや、多忙なのはリタでそれに付き添うことが主だった。

 大神、つまり今の神達の頂点、その選定の準備のため、文字通り飛び回っていた。方舟のゆったりとした席が唯一の休息の場だった。小窓を覗きながら眼下に広がる雲海に反射する太陽の明かりに目を細める。


「――ル、ナル!」


 呼びかけられていたことに気づき、正面に目を向けると頬を膨らませたリタがこちらを睨んでいた。僕の顔つきが気になったのか睨みは心配へと変わる。


「って、大丈夫? さすがにきついよね。ごめん」


 リタは最近、よく謝ってくるようになった。それこそ楽しい顔をしていれば、リタの表情も和らぐのも分かっていた。それと反対の顔をしているということだ。きっとまだ罪悪感があるのだろう。僕をゲットーから引き離したことに他ならない。


「いや、ごめん。守護者なのに僕が疲れているようじゃダメダメだ」


 そう言った後、自分の発言を後悔した。案の定、さらに彼女は悲しそうな表情を浮かべる。雲海に沈む太陽の明かりがより濃く影を作っていた。言ってしまった手前、誤魔化すには気合いが足りず、また、何度目かの沈黙が訪れてしまう。


「ナル。これを飲むことを推奨する」


 ふいに平坦な声に顔を向けるとオートマタ、女性型機械人形のティセがグラスに入った黒々しい飲み物を差し出してきた。


「これは……また」


 ここまでの旅路で同行していたティセは後頭部の髪だけを結って纏めており、前髪は自由に揺れていた。ぐいぐいと押しつけてくるものだから受け取らずにはいられない。ここまでの道中、何度も差し出されてきた謎の飲み物だが、今回はさらに色と臭いのレベルが高い。


「い、頂くよ」


「遠慮はいらない。さ、ぐぐっと」

   

 促されるまま一気に口に放り込む。臭い通りの味が……来なかった。


「甘い……」


「つまり?」


「おいしい」


 感想を言うと満足げににやついてそれをすぐに正し僕らに背を向けて直立不動に戻った。毎回グレードアップしているが、まずいものは一つもなかった。それに不思議と元気が出る。


「よく飲めるね、それ」


 リタはようやく笑顔を見せた。ただ頭に苦がつく笑顔ではあったがそれでも気がゆるんだようでよかった。思えば、ティセはそれを見越していたのかもしれないが、聞いても答えないだろうし悪いと思って聞くことはなかった。


「ようやく、というかあっという間に一年たったね」


 リタは息をつき背もたれに寄りかかる。


「次の巡礼で一旦は終わりだったよね」


 各地に点在する天井都市を周り大神候補者としての洗礼を受ける。そしてその保護エリアにあるゲットーを周り亜種達に大神候補の宣言を告げる。ある種の管轄があることはゲットーでは知らなかったことだった。そして滞在期間も長い上に、浮島のように存在する衛星都市にも廻るものだから一年はむしろ短いように感じた。

 各地方にある8つの天上都市とそれに付随する小規模な衛星都市、そして地上にあるゲットー。この一年、守護者の名が納得できるほどの仕事はなかった。ただどこの都市でも神と亜種達の歓迎はすごいものだった。どこかで、それを受け入れはしたかったが、どうしても機械人形に破滅させられたゲットーがちらつき素直に喜ぶことはできなかった。

 そして、最後のエリア八つ目の天上都市の管轄エリアにそのゲットーはある。最後にそれが廻ってきたということは何かの縁があるのだと、切れないものなのだと、雲の切れ目に映る遙か遠くの地上を眺めながらまた物思いにふけった。


 天上都市【エウロ・エイデン】

 僕がいたゲットーの管轄である天上都市【エスト・エイデン】から遙か西方に位置する天上都市だ。各都市にはやはりそれぞれの特徴があり、服装だとか町並みも多少言語にも訛がある。当時の、つまり神が地上で暮らしていた時の名残だそうだ。誰に聞いても当時を詳しく知る者はいなかったが、いや、あるいは亜種に教える義理もなかっただけかもしれない。


 ゲットーと同じように展開された光の膜、神達は天蓋機構と呼んでいたそれが球体のように都市を包んでいた。方舟が近づき、なんの衝撃もなく膜を突破する。そして突き出た箇所、発着場のドームが口を開き方舟はゆっくりと腰を下ろす。


『到着しました』


 船内に操舵担当からの報告が流れた。数秒の沈黙の後、リタは重そうに腰を上げ、背伸びする。


「んー! さって行きますか!」


 憂鬱そうな顔はそこにはなく、初めてかのように表情は生き生きとしたものに変わっていた。不思議とそんな顔をするものだからこちらにも力がみなぎるような気がして同じように背伸びして微笑むと、今度は苦がつかない笑顔を僕に向けてくれた。

 心は知らず知らず、軋んでいたことを僕は気づこうともしなかった。

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