エピローグ 7/3 PM 2:45 留守録
榛原君。電話がとれないようだったから、留守電に残しておくね。本当は直接話したかったけど。
という事は、これを聞いている頃には既に僕は死んでいるんだろうね。
なんだかドラマや小説でよく聞くようなセリフで、自分で言ってると笑っちゃいそうになるよ。
手短に話すよ。
きっと今君が電話に出れてないって事は、それだけの混乱が今そこで起きてるって事だろ。
君みたいな臆病者だ。僕の命を無駄にしないでとでも言っておけば、君はそれを裏切ったりしないはずだ。裏切る勇気もないはずだ。
言っておくけど、君も共犯だからね。自分は関係ないなんて絶対に言わせない。
同罪だ。
僕は今、学校の屋上にいる。この高さなら一瞬で死ねる。
今日は寺谷大先輩にとって最高の想い出になるよ。最後の最後で文化祭ごと滅茶苦茶だ。
もちろんそれだけじゃない。別に用意しておいた遺書には寺谷の事を丁寧に丁寧に書き綴ってある。言い逃れはさせない。僕を叱咤激励してくれたあのスタジオ風景は毎回録音させてもらってたしね。
あ、ちなみに必要ないかもと思ったけど、あの日君と二人で話した日の内容も録音してあるよ。僕を止めきれなかったあの日の様子をね。
復讐の相手は寺谷だけのつもりだった。だから本当は僕が直接電車に飛び込む予定だった。
でもね、この寺谷の卒業バンドを組んでからしばらくして、僕は平先輩に呼び出されたんだ。二人っきりで話したいって。
何かと思ってドキドキしたけど、聞いて驚いたよ。
内容は榛原君、君の事だった。
反吐が出そうな、最悪な君の本性のね。
榛原君。君、平先輩にだいぶ執着してたみたいだね。ストーカーってやつ?
勝手に私物取ったり、盗撮とか盗聴とかもしてたのかな。
確かに君は平先輩に心酔してた。崇拝と言ってもいいぐらいに。でもだからってそんな事までするだろうかって半信半疑だったけど、こっそり観察してたら君、平先輩のベースのピックをベロベロなめてたりしたんだもの。ドン引きだよ。
耐えられないって。無理矢理付き合わされてる寺谷以上に、君みたいなド変態と同じバンドで同じ空間にいる事が苦痛で仕方ない。
平先輩もボロボロだった。寺谷という勘違い王様と、君というド変態王子に挟まれて。
もう嫌だ。男にいいようにされて、気持ちの悪い目で見られて死にたいって。
だから、僕言ったんだ。じゃあ一緒に死にましょうって。
二人に消しきれない罪を背負わせて死んでやろうって。
殺してやろうかとも思ったけど、それじゃ生ぬるいからさ。死にたいと思うほどの生き恥を晒して苦しんで苦しんで生き続けて欲しいなって。
僕はこれから死ぬ。君が平先輩に行った数々の変態行為を収めた写真をバラまいてね。
そして平先輩も君達の乗っている電車に飛び込んで死ぬ。これは先輩のアイデアでね。自分が今乗っている電車で自殺されるなんてなかなかないだろ。
君達が殺したんだよ。君達が今その時間にその電車に乗っていたから先輩は死んだんだ。
もちろんそれだけじゃない。君と寺谷への呪詛を詰め込んだ遺書も残してくれる。先輩しか知らない寺谷の恥ずかしい写真なんかも同封されるらしい。最高だよ。
先輩と二人で君達をどうしてやろうかと話している時間は久しぶりにすごく楽しかったな。
死ぬための会話で楽しいだなんておかしいけど。
投げ出さないでちゃんと生き続けててよね。
僕らは命まで使って頑張ったんだ。僕らの命を無駄にしないで欲しい。
じゃあ、そろそろ逝くね。
君達の人生に、不幸あれ。