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(4) 平瑞枝

 僕、泉、寺谷、そして瑞枝さんの四人で学園祭のトリのバンドをする事が決まったのがおよそ三ヵ月ほど前。

 最初に寺谷に声をかけられた時はどうやって断ろうかと瞬時に考えたが、瑞枝さんもバンドメンバーだと聞かされた時、僕は瞬時に思考を改めた。

 

 ――あの瑞枝さんと……。


 こんな最悪の中で最高のチャンスに巡り合えるなんて。

 バンドを断る理由はその瞬間にかき消えた。


 世の中にはスターやカリスマと呼ばれる存在がいる。

 努力、修練。そういったものを何万光年積み重ねたとしても届かない黄金の素質を備えた存在。瑞枝さんは紛れもなくその類の人種だった。


 中学の頃からギターをかじっていた事もあり、部活は最初から軽音楽部にしようとは思っていた。

 放課後、僕は教室の一室を貸し切って行われるという新入生歓迎ライブを早速見に行く事にした。

部屋を開けた瞬間に轟音が一気に両耳を襲った。内容としてはコピバンという、有名なバンドやアーティストの曲をコピーして演奏するという形で、何バンドかが入れ替わりで演奏を披露していた。僕は初めその様子をまあこんなものだろう程度の目線で教室の後ろの方で部員達を眺めていた。自分の腕があればそれなりにいろんなバンドで演奏出来るだろうな等と少々見下していた部分すらあった。

 しかし、そんな僕を一瞬にして叩き潰し魅了してしまったのが瑞枝さんだった。

 ベースを抱えてセンターマイクに立った少女。人形のように恐ろしいほど整った顔立ちだった。線は細く、風が吹けば飛ばされそうなほど頼りない身体つきなのに、その目に宿る確固たる意志のようなものは獣のように尖っていた、全てを食らいつくすほどの獰猛さすら宿っていて僕は彼女を見た瞬間既に震えていた。

 メンバーは彼女の他に男のギターとドラムのみの3ピース構成だった。しかしその二人の存在など不可視になるほどの圧倒的存在感を彼女は容赦なく放っていた。

 彼女がすっとマイクに一歩近づいた。


「一緒にやってみない? 音楽」


 次の瞬間、彼女はそれこそ猛獣のような咆哮をあげた。シャウトというやつだ。呼応するかのようにギター、ベース、ドラムが一気に爆発する。

 

 ――なんだ、これ……。


 世界を切り取られたようだった。今まで立っていた場所を奪われ、世界が今ここにある教室だけになり、部屋の中でかき鳴らされ叫び続ける声や音だけが全てのように感じられた。

 衝撃だった。僕はその後曲が終わってからもしばらく放心状態だった。

 

 ――この人といつか、一緒に音楽をしてみたい。


 僕は改めて入部を決めた。


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