ロリコン変態ハンザイシャー
「ハンザイシャー、スクリュードライバーキーック!!」
「グワァー!!」
バクハツ!! 邪な誘拐犯は夕闇に消えた!!
「これでもう大丈夫だよ、ママのところへお帰り」
「おじちゃん、ありがとー!」
今日も今日とて幼女の明日を守る。俺たちロリコン変態ハンザイシャー。
ハンザイシャーの誓いは三つ。
一つ、触れない。
二つ、怖がらせない。
三つ、下心を見せない。
泥棒が正義の味方をする時代、ロリコンが幼女を守ってなにが悪い!!
※
ロリコンブルーが行方を眩ませてから二ヶ月が経った。あいつはクールな二枚目参謀キャラ。いつも俺達はあいつの作戦に支えられていた。
今はなんとか戦えているが、次に知能犯が現れたら終わりだ。
そんな俺達の元に、最悪の報せが舞い込んだ。
「誘拐事件だと!?」
ピンクが叫び立ち上がる。その衝撃で安っぽいウィッグが落ちた。あいつは中途半端な女装が趣味の変態だった。
「俺達も探そう」
イエローはカレーを飲み干しそう言った。言うまでもなくあいつはデブだ。
「あ、俺は呼び出し入ったからパスで」
ブラックは社畜だった。
「よし、今日は三人で出撃だ!!」
そしてレッドはこの俺。無精髭の怪しいおっさんだ。趣味がバレて一家離散した。
「ロリコンハイエース!!」
ハンザイシャーのマシンはカスタムしたハイエース。これなら大の大人が五人でもゆったりと乗ることができる。追加戦士もウェルカムだ。
現場へ急行。手分けして探す。ピンクは大通りに張り込み逃走を阻止。俺とイエローは聞き込みだ。
「あんたが拐ったんじゃないのかい?」
住民の嫌疑が痛かった。
「おい、この被害者の女の子、ブルーの言ってた隣の子じゃないのか!?」
イエローが叫んだ。ブルーは隣に住む女の子を大層可愛がっていた。
「それに怪しい車が隣の市へ向かったらしい。ピンクを向かわせよう」
「ああ、そうしてくれ。イエローはピンクの手助けを」
「ロリー!(了解)」
嫌な予感がした。
俺は一度だけ訪ねたことのあるブルーの家へ向かう。行方を眩ませてから何度か訪問したが、いずれも留守だったのだ。
いや、しかし。
「電気メーターが動いている……」
陽動はブルーの最も得意とする作戦だった。
ノックをしてみる。反応はない。
「……入るぞ!」
俺は扉を壊しブルーの家に侵入した。そこに居たのは――
「んー! んー!!」
「……見つかっちまったようだな」
件の少女と……ブルーだった。
「どうしてこんなことをした」
「今から犯すためだ」
「共犯者は?」
「いない。あの車は流行りの自動運転だ」
それ以上追求しても、悪びれたりはしなかった。ブルーは本気で、真剣に、少女を犯すつもりのようだ。
「……お前、本当の犯罪者になっちまったんだな」
裏切られたのは初めてのことではなかった。ハンザイシャーは今までに五人の聖性犯罪者を排出している。
「俺達は……衝動に抗い、理性をもって戦っている」
幼女を助ける度に、幼女の笑顔を見る度に、この笑顔を守りたいという使命感と、この笑顔を独占したいというほの暗い感情が胸に渦巻く。
自分がいつまで理性的でいられるのか。それは誰にもわからない。ふとした拍子に魔が差して、犯行に及んでしまうかもしれない。
そうなれば、この場に居たのはブルーじゃなくて俺だ。
「……お前は俺の末路だ。なら、せめて苦しまないようにやってやる」
ハンザイシャー最強の必殺技、ストームロリコンヴブリンガー。俺が構えると、ブルーも同じように構えた。
「俺はここで終わるわけにはいかない。絶対にこの子を犯すんだ……!!」
「最低だよ、お前は……っ!!」
「黙れ!! 必殺……」
「ストーム……」
「ロリコン……」
「「ブリンガー!!!!!!!!」
※
「なあ、お前……手を抜いただろ」
倒れ伏すブルーに訊ねると、奴は知らないねとでも言いたげに首を横に振る。
「それに電気メーター。普段のお前なら絶対に止めてるはずだ」
「……先走っただけだ」
俺はブルーの言葉を無視して続けた。
「お前、本当は止めて欲しかったんじゃないのか?」
ブルーは掠れた声で絞り出すように言う。
「黙れよ」
俺は黙らない。
「俺が来るまで、あの子を傷つけないよう必死に自分を抑えてたんじゃないのか?」
そうであって欲しい。まだ理性を失ったわけではない。そう思いたいのは、俺自身だったのかもしれない。
強い意思があれば最後の一線で踏み留まることができる。そう信じたいのは、俺だったのかもしれない。
あいつは俺と同じなのだから。
吐き捨てるようにブルーは言った。
「黙れ。俺はハンザイシャー失格の、最低の、屑野郎だ」
ブルーはあくまで否定した。一度魔が差せばそれはもう犯罪者だ。ギリギリで踏み留まっていても、危害を与えた時点でもうおしまいなのだから。
「……そうだな。お前はもう戻れないよ」
それでも、これだけは伝えておきたかった。
「でも、お前が性犯罪者になる前に、止められて良かった」
「この子が犯される前に……の、間違いだろ」
「いや、いいんだ」
ブルーはなにかを察したように瞑目する。きっと彼はわかっているのだ。
「そうか……お前は、こうなるなよ」
「ああ」
それがブルーとの最後の会話だった。
※
俺達は小児性愛者。幼い少女に興奮する、犯罪者予備軍だ。
普段は理性で抑えている。しかし一度枷が外れれば、他の人間と同じように欲望のままに走ってしまう。
そうなれば、もうただの犯罪者だ。
人の理性はあまりに脆い。心が弱くなったとき、不安に苛まれたとき、誰にでもそれはやってくる。
俺達ハンザイシャーは、そんな欲に呑まれた性犯罪者と戦い続ける幼女の味方だ。自分の欲望と戦いながら、日々幼女の平和を守り続ける。
ロリコン変態ハンザイシャー
その戦いは、今日も続く。