第8話 初夜の約束
アレク・ベルマンは男としてはごくごく普通の性癖と言っていい。エッチな事は好きだし性欲もある。そしてそれをオープンにすると周りの人に不快感を与えるので謹んで表に出さないようにしているのも普通の男性と変わらない。
大金を持っているがゆえに派手に女遊びをした事も少なくないがあくまで対価を払って合意の上での事だ。政略結婚で本人の意思を無視して嫁いで来た幼い少女に対して無理やり行為に及ぼうなどとは微塵も考えていなかった。
だから今は行為を行わないよという意思表示の為にロリアの着替えは脱がしにくいしっかりとした服に着替えさせるように支度を手伝うメイドに命令した。決まりだから同じベッドで一緒に寝るつもりでロリアの部屋を訪れたアレクが見た物はボロボロ涙を流して泣きじゃくるロリアの姿だった。
「ロリア大丈夫か!何が有った?」
慌ててロリアの元へ駆け寄りロリアの顔を覗き込むと、アレクと目が合ったロリアはがくがくと震えだした。その様子を見てアレクはロリアが自分を恐れていることに気づいた。
「オウリュウマル緊急事態だ。ロリアの侍女をここに連れてこい」
『了解しました』
ロリアを安心させるためにこの屋敷で唯一ロリアが信用できる侍女をここに呼ぶことにした。
「ほら大丈夫扉は開けておくからいつでも逃げれるよ。何が有ったのか話してごらん」
そう言ってロリアに逃げ道を与えるために廊下とは反対側の窓側に立ったアレクは机の上に薄い本が何冊か積まれているのに気が付いた。それはロリアが性行為を学ぶために用意されたエロ同人だった。アレクはそれをパラパラと流し読みすると体をわなわなさせて怒りを露わにした。
一方ロリアはアレクの変化に戸惑っていた。薄い本には服を着たままという物が有ったのでそういう趣味だと思っていたからだ。それが泣いている自分を見て心配してくれて、自分がアレクに対して怯えている事に気づくと距離を取ってくれた。出会ってからずっと優しくしてくれたアレクのままである。
ひょっとしたら大丈夫かもしれないと落ち着きを取り戻し始めた時、アレクは自分が勉強の為に呼んだ薄い本の気づいた。そして本の中身をざっと目を通すと突然怒り出したのである。
「ロリア」
「はい!」
「この本は言いたい何?」
「初夜で何をするのか学ぶためにルシアが用意してくれたものです!」
今までアレクに怯えていたロリアはそれまでの恐怖を忘れ、アレクの怒りに怯えてそう答えた。
「そうか」
『アレクさま、ロリアの侍女を連れてきました』
「お嬢様が泣いていると聞きました。一体何が有ったのですか!」
間が好いのかか悪いのかアレクが何かを言おうとするとオウリュウマルがルシアを連れて戻ってきた。
「ベルマンビーム!」
「ぎゃあぁぁぁ!!!」
アレクはルシアの姿を見ると問答無用でこんがりと焼いた。
「このバカを地下の独房に入れておけ」
『分かりました。でもこの屋敷に独房なんて有ったのですね』
「場所はメイド長か執事長に聞け」
『はい、所でこいつが若奥様の事をお嬢様と呼ぶとペナルティが課されるそうですが今回の失言は加算されますか?』
「その判断はメイド長に任す」
「では、そのように」
アレクの奇行に慣れているオウリュウマルは当然のようにアレクの命令を遂行すべくルシアを抱えて部屋を出て行った。
「さて、」
オウリュウマルが部屋を出て行くとアレクは扉を閉めてロリアの方を向いた。初めてアレクのビームで人がこんがり焼かれる所を見たロリアは最初とは違った意味でアレクに恐怖して体をビクッと震わせた。
「触るけどいい?」
アレクに聞かれてロリアはコクコクと頷いた。するとアレクはハンカチを取り出してロリアの涙を優しくぬぐった。
「色々と怖い思いをさせてごめんね。こういった本が無造作に出回る用になってしまったのは私にも責任が有る」
活版印刷の進歩で安価で本が作れるようになり、絵の印刷も容易にできるようになったのは最近の話だ。活版印刷の技術革新はアレクの指示で行われ印刷機器やインクの製造販売でアレクは一儲けしている。
「本当ならこういった性的描写の内容が有る本は購入閲覧に年齢制限を設けたかったのだけど、なかなか上手くいかなくてね」
この世界においてエロ本の類は絵師が一枚一枚書いていたので非常に高価で簡単に子供が読める事は無かったのだ。アレクはロリアがエロ本を読んでショックを受け
心に傷を負ってしまったと思っていた。
「安心して、本に書いてあるようなことはしないから」
「…でも男の欲望は有るのでしょう?」
ロリアはアレクにディアナに言われた事を話した。
「母上…。こうなったらとりつく必要は無いから本音を言うけど、私も男だエロイ事は好きだ」
アレクがそう言ったのでロリアは距離を取ろうとした、しかしベッドに腰かけた状態で正面にアレクがいるので逃げ場が無かった。
「だからと言って自分の欲望で女の子を傷つけたりはしない。ロリアは私の子供を産むために嫁いで来たから例えロリアが望まなくても私はロリアを孕ませる。でもそれはロリアがもっと成長して覚悟が出来てからだ。ちかって自分の欲望でロリアを傷つけたりはしない」
それから最後に、ロリアが望んで受け入れてくれるようになったら嬉しいけどと付け加えた。
ここまで言われてロリアはアレクの事を信じてみようと思った。噂や他の人に聞かされた人物像ではなく目の前に居るちょっと好きになりかけていたアレクの事を。
「ああ、それと私はもう世間体とか気にする事を止めたから。周りがロリコンや少女趣味と言おうとも私はロリアと仲良くしたいと思ったからね。あのブローチはその意思表示だ」
「私もアレクさまと仲良くなれたら嬉しいです」
自分の汚い所まで見せて本音を言い誠意を見せてくれたアレクに対してロリアは心からそう思い答えたのだった。
これでようやく起承転結の起の部分が終了しました。