第3話 朝食
ブラウン領からロリアに唯一付いてきた侍女のルシアは悶々としながら用意されたロリアの部屋で主の帰りを待っていた。教会でロリアを連れ去られてからロリアの顔を見る事は許されなかったからだ。
ロリアがアレクの部屋に連れ込まれてから出入りしたのはドラゴンに変形した鎧のモンスターだけ。食事を運ぶ時も給仕を買って出たのだが断られてしまった。心配で様子をうかがっていると鎧とロバートの話を聞いてしまい、突撃しようとしたら取り押さえられロリアの部屋を用意したのでロリアが戻ってきたら出迎えれるように準備しろと言われた。今夜は初夜だからロリアはアレクの部屋で夜を過ごすことになるから帰りは朝だと言われて。
一度だけ鎧がロリアの寝間着を取りに来たが鎧は何も教えてはくれなかった。それから一睡もできないまま夜が明けて朝になるとロリアは戻ってきた。朝の食事はアレクと共に取る事を伝えると着替えの手伝いを言い渡されてルシアはロリアの着替えを手伝った。
「あの、ロリア様。体の調子はいかがですか?」
「大丈夫よ。ちゃんと休めたから」
着替え終わったロリアにルシアは体の具合を聞いた。
「聞いた話では白くてドロッとしたものを口にされたとか」
「ああ、(お米のお粥を食べるのは)初めてだったけど美味しかったわ」
「美味しかったのですか…」
ロリアの返事に困惑しているとロリアはルシアに今後の事を伝えた。
「ルシアの食事は後で持ってきてくれるそうだからこのままで部屋で待っていてね。それとルシアが私付きなのは変わらないけど、ベルマン家の使用人として働くための研修があるみたいだから頑張ってね」
ロリアはそう言うと部屋の外で待機していた鎧に案内されて『軽やか』な足取りでアレクの待つ食堂へ向かっていくのだった。
一方、アレクはと言うと目からビームを出してメイド達をこんがり焼いていた。こんがり焼くと言っても本当に焼いている訳ではない。命に別状はなく後遺症も残らない。ギャグマンガのように一時的に行動不能になるだけである。妖精族との間に生まれ特殊な魔法の才能に目覚めたベルマン家2代目侯爵が生み出したこの魔法は代々ベルマン家に伝えられ不殺の魔法として受け継がれてきた。主な使い方は罪人の捕縛、モンスターへの牽制、粗相をした使用人へのお仕置きだ。
食堂に向かって歩いていると、メイド達がアレクがロリアを部屋に連れ込んで淫行に及んだと噂をしていたのだ。下級の使用人が噂にかまけて主に姿を見られるだけでも失点なのにその噂の内容が仕えている家の者の物でしかも事実無根の噂だ。花嫁修業の為の行儀見習いのようなので首にはならないだろうが後で厳しいい指導が待っているだろう。
新婚という事で2人だけで朝食を済ませるとアレクはロリアを買い物に誘った。新婚なので3日間の休みを貰ったからだ。
「買い物ですか?」
「ああ、生活に必要な物は一通り揃っているから嗜好品を買いに行こうかと思っている」
「そんあ、贅沢は出来ません」
裕福ではない辺境の生まれであるロリアにとって贅沢は敵だった。
「実際に何かを買う必要はない。ロリアはベルマンに来たばかりで街の様子を知らないだろ。ベルマンはソーラの商業の中核を担う商業都市だ。ベルマンで手に入らないものは現地で手に入れるしかないと言われているほど物が集まっている。いずれ跡を継ぐ私の正妻になった以上この街の事をよく知る必要がある。それに今日から3日間は共に過ごさないといけないんだ。買い物に行かないのだら部屋で2人っきりになるけど構わないのか?」
そう言われると断る理由が思い浮かばなかった。
「ああそれと私『個人』の資産はロリアの実家のブラウン家の年間収入の100倍くらい有るから遠慮はしなくてもいいよ」
勇者と冒険して金を稼ぎ、各地を回って珍しい物を買い集め行商まがいの事を行った結果である。さらに巨大なドラゴンを使って空輸という誰にも真似が出来ない貿易も行っているのでアレクの収入はとんでもないことになっていた。(それでもドラゴンの維持費にかなりの額を使ってはいる)
「アレクさま、そんなにもお金持ちなのにどうして結婚相手が私しかいなかったのですか」
「額が大きすぎて誰も信じようとはしなかったからだよ」
それとお金目当て令嬢は弾かれていたからだろう。
「なら少しくらい実家に援助をして欲しいのですけど」
「他所の家に対してもそうだけど、頼まれたのならとにかくこちらからお金を貸すのは内政干渉になるから出来ないよ。それに貴族は金貸しではないのだし。それにブラウン伯爵は他の家の力を借りずに独自採算でやっていけるように頑張っているから災害でも起きない限りベルマン家は金銭面では手を貸さない事にしているんだ」
そのブラウン家の現在の収入源は国境経緯の為に派遣された国軍相手の商売と『元』魔物領域から採れるモンスター産業である。
ちなみにベルマン家の収入源は商人が払う税金がメインだが、最近はアレクが作った娼婦街『ヨシワラ』目当ての男たちが落とす金も馬鹿にならなくっててきている。
「結婚しても実家の為に働こうとするのか。エライ、エライ」
「子供扱いしないでください」
頭を撫でようとするアレク手から逃れてロリアはそう言った。
「でも、ロリアはもうベルマン家の人間なんだ。実家の事を考えるなとは言わないけどベルマン家の事を第一に考えないといけないよ」
「じゃあもしベルマン家とブラウン家が争う事になったらどうすればいいのですか?」
「そうならない様にするのが嫁いできたロリアの役目だろ」
アレクは少し怖い顔でそう言うのだった。