第2話 初夜?
その後、医者を呼んで見て貰った所ロリアの症状はただの貧血だった。このまま寝かせていればやがて目が覚めるという事なのでアレクはロリアが目を覚ますまでそばに付いていることにした。
結婚披露宴はすっぽかしである。しかし花嫁であるロリアが気を失っている以上宴には出れない。花嫁が気を失っていたという事がバレると結婚失敗という事になりかねないのでロバートが懸命に誤魔化しているのだろう。
それから静かに時間が過ぎていき、日が落ちる頃ロリアは目を覚ました。
「あれ、私は…」
「ようやく目が覚めたか」
ロリアは焦点の会わない目でアレクを見つめた後周りを見渡して自分の置かれた状況を考えた。
1つ目の前に知らないお兄さんがいる。
2つ豪華な部屋で豪華なベッドに寝かされていた。
3つ取り合えずこれを着てと男物のシャツを渡されて自分の姿を見てみれば自分は下着姿。
つまりは、
「人さらい?」
ぶかぶかのシャツを着た後ロリアそう結論付けた。
「教会で宣誓をせずに無理やり屋敷に連れ帰って結婚した事にしたのだがらある意味有ってはいるな」
教会での宣誓は女神に誓う物で誓う先の女神とはよく会う関係だ。花嫁を屋敷に連れ帰る事が出来ればそれで結婚成立になる。余談だがもし結婚に異議がある場合この花嫁を屋敷に連れ帰るの行程で妨害すればいい。貴族の結婚の場合護衛が付くので成功した例は『殆ど』無いが。
「じゃああなたはアレク・ベルマン様ですか?」
「そうだよ。私の花嫁さん。迎えに行ったら立ったまま気絶していたから驚いたけどね。ああ、心配しなくても誓いの宣誓とかすっ飛ばして無理やり君を連れ帰って結婚は成立させたから」
そう言われてロリアは自分が式の最中で気を失ってしまった事を思い出した。
ロリアはこの結婚が不安だった。結婚が決まってからアレクは一度も会いに来てくれなかった。それ以前から生まれた時からお嫁に行くことは決まっていたのに会いに来る事はおろか手紙1つ送ってはくれなかった。一度ブラウンを助ける為に来てくれた時も顔を会わせる事も無くドラゴンに乗って飛び去ってしまった。
『ベルマン家』からは高価な宝石や装飾品、ドレスを送ってくれたけれどもアレク個人からは何も送ってはくれなかった。
歓迎されていないと思っていた。結婚するのが怖かった。それでもベルマン家に対する負債を少しでも返すために結婚するしかなかった。
だから頑張ってベルマンまで来た。けれども参列者の視線に耐えられなくなった。周囲の視線は憐みの物だったからだ。お前はもう幸せには成れないのだと言われているような気がした。そして新郎の入場という声と共に教会の扉が開いた時自分は耐え消えずに気を失った。それでも倒れないように踏ん張って立ち続ける事が出来たのは覚悟の賜物だった。
「ごめんなさい、私は…」
「怒ってはいないから気にするな。教会での異様な雰囲気は私も感じた。その中でよく耐えて頑張った。えらいぞ」
謝ろうとするロリアを制してアレクはロリアの頭を撫でた。
思っていた人物像と違って優しそうなアレクの様子にロリアは思いきって聞いてみた。
「あの、私は不幸なんでしょうか」
「さあ、自分が幸せか不幸かは自分で決める事だろ。周りがどう思おうかは関係無い。私に言えることは君を不幸にするつもりは無いという事だけだ」
「幸せにするよとは言ってくれないのですね」
ロリアは寂しげにそう言った。
「さっきも言っただろ。幸せかどうかは自分で決めろと。私がロリアの為に何かをしても受け取るロリアが嬉しいと思わなければ幸せだとは言えないだろ」
そう言われてロリアはムッとした。言っている事は分かるけれども目の前の男は自分に何もしてはくれなかったではないか。
その事を言おうとするとアレクはロリアのそばを離れて戸棚に向かった。そしてアレクが持つには不釣り合いな可愛らしい人形を取り出すと戻ってきてロリアに渡した。
「父上からはロリアの事は妻として扱えと言われた。もちろんそうするつもりだけど私の目の前に居るのは12歳の女の子だ。だから12歳の女の子が喜びそうな贈り物を用意していた。本当は結婚前に送りたかったのだけれども子ども扱いするような物は送るなと止められてしまったものだ」
そう言われてロリアは渡された人形をまじまじと見た。無いなと思った。確かに自分は子供である。だからと言って人形は無いだろう。これはもうちょっと年下の女の子向けだ。自分は12でもうちょっと大人びた物が欲しかった。
同時にどうして目の前の男がモテないのかの理由の一端も分かったような気がした。酷いウワサで見知らぬ女性から敬遠されるのは仕方がないとして、実際に会って話した女性からもフラれるのはこのずれた感覚が原因なのだろう。
「アレク様、私は12歳です。もうちょっと大人びた物をください。私は人形を貰って喜ぶような子供ではありません」
「そうか、じゃあ香水とかが良かったかな」
「それは…、匂いの良し悪しが分からないです」
「そうか、じゃあ『今』ロリアが欲しい物を用意しよう」
「何だというのですか」
ロリアそう言い終わるのと同時にドアがノックされた。アレクが入室を促すと鎧が配膳台を押して入ってきた。
「ずっと寝ていてお腹が空いただろ食事を用意させた」
アレクがそう言うと同時にロリアのお腹がグーと鳴った。
「確かにお腹が空いたので何か食べる物が欲しかったですけど…。アレク様のバカ!」
『中が良さそうで何よりです』
ロリアの様子を見てオウリュウマルはそう言った。
「そうだな、いい夫婦になれるかはとにかく、仲良くやってはいけそうだよ」
アレクは笑いながらそう答えると、さじを手に取った。
「お腹に優しいお粥を用意させた。熱いからフーフーしようか?」
「子ども扱いしないでください」
「弱っている妻にお粥を食べさせるというのは夫婦らしくないか?」
そう言われるて言い返す言葉が思い浮かばなかったのでロリアは素直に食べさせてもらう事にした。
「変わったお粥ですね」
「東翼の国の主食の米を使っているからね。私のお気に入りなんだ」
「そうなんですか」
アレクはロリアいお粥を食べさせながらたわいのない話を始めた。
そんな2人に気を使ってオウリュウマルは静かに部屋を出ていくのだった。
*****
「オウリュウマル、2人の様子はどうだ」
部屋の外でオウリュウマルが待機しているとロバートはやってきてオウリュウマルに中の様子を聞いた。アレクの行動を誤魔化したり主賓抜きで披露宴を切り盛りしていたので顔に疲れが出ていた。
『今、アレク様が…、なんでしたっけ、白くて熱くてどろっとした物を恥ずかしがる若奥様の口に流し込んでいる所です』
「そ、そうか」
鎧で食べる事を必要としないせいで食べ物の名前に詳しくないオウリュウマルはそんな説明をロバートにした。
ロリアの事を心配して様子を見に来たロリアの侍女にこの話を聞かれた事にこの時2人は気づかなかった。アレクの評判がさらに落ちるまで残り数時間。
本日の連続投稿はここまでです。