第15話 祭りの終わり
かぼちゃまんの正体を知ったロリアはしばらく呆然とした後、かぼちゃまんの正体を見なかったことにした。そしてコンテストで作られた料理を食べ回る事にした。
「もぐもぐ、やっぱりかぼちゃまんの料理が一番美味しいです。他は肉料理ばかりなのでくどくてたまりません」
「この村は肉食獣の村なので仕方が有りません。草食は居ませんし私のような雑食は少数派です」
「そうなんですか。ではサクヤはどの料理が一番なのですか?」
「私の好きな料理は置いていないですね。私は唐揚げが一番好きなんですけど油を使うのでこの村では食べた事は無いんです。アレクさまのお屋敷で飼われていた時はよく食べさせて貰いましたけど」
「ほお、唐揚げは太るから駄目だよと言っていたはずなのにどこで『よく』食べたのかな?」
「アレクさま」
料理を食べながらロリアとサクヤが話していると審査の役目を終えたアレクがロリアの所にやって来た。
「お疲れ様です。審査の方はどうなりましたか?」
「あまり大差が無かったから優勝者無しにしてきた。それで文句が出たから今度はハチミツ付けの肉料理を作って黙らせてきた」
「今度は?」
「あ、いや何でもない」
かんちゃまんの正体を知っているのに知らない振りをするためにロリアはあえて聞いた。
「まあ、祭りは普通に成功かな。今回の事を生かして来年はもっと美味しい料理を作って欲しいと思うよ」
そう言うとアレクはロリアがかぼちゃまんが作った料理を食べているのを見て感想を聞いてみた。
「料理の味はどうだ?」
「本当に野菜かと思えるほど甘くて美味しいです」
「ん、そうか」
自分の作った料理がおいしいと言われてアレクはまんざらではない顔をした。
「所で1つ気になる事が有るのですが」
そう言うとロリアは料理を美味しそうに食べている一人の獣人を指さした。
「あの人は本当にこの村の住人ですか?服装は村の人と変わりませんけどあまりにも汚れていなくて不自然です。それによく見ると何か違和感を感じます」
「あーあ」
ロリアの話を聞いてアレクは残念そうに声をあげた。
「大人しくしているのなら見て見ぬ振りをするつもりだったけど、知らない人にバレたのならここまでだな」
そう言うとアレクはロリアが指示した獣人の元へ行き声をかけた。そして何か話をすると首根っこをつかんでズルズルと人気のない所へ歩いて行った。
「私達も行きましょう」
「サクヤはあの人の事を知っているの?」
「ええ、愛玩動物時代に何度か。アレクさまは喪女神と呼んでいました」
この世界には10柱しか神はいない。しかしこの世界の外には多くの世界が有って多くの神達がいる。そのうちの一柱だろうかと考えてロリアはアレクの後を追いかけた。アレクの行動に対してロリア達以外誰も気にしていいない事に疑問を持たずに。
一方、謎の獣人を人目に付かない所まで連れ込んだアレクは謎の獣人と話をしていた。
「人がせっかく目立たずにお祭りを楽しんでいたのにどうして邪魔をするのよ」
「残念ながらロリアに気づかれました。バレたのなら引っ込む約束のはずです」
「あの子は特別よ」
「ロリアが?ロリアは転生者でもなければアバターでもない普通の女の子ですよ。一体あの子に何をしたのですか?」
「私は何もしていないわよ。私は」
長い付き合いからこうなると何も話そうとしない事は分かっているのでアレクは話題を変える事にした。
「それで、ただ祭りの料理を食べに来ただけですか?賢凰神さま」
「緊急の伝達事項が出来たからわざわざ私が伝えに来たのよ。いいニュースなのか悪いニュースなのか分からない話が一つと別件で提案が一つよ」
「ほお、それで」
この女神が受け取り方によっては良くも悪くもなる話を持ってくるのは珍しい事だ。いつもは厄介事とその後始末なのでアレクは気になった。
「実はユグドラシルの決定で300年間代理戦争に出禁になっちゃった」
「あんた何をしたんだ」
アレクは自らが住む大陸を治める神に対して冷ややかな目を向けた。これまで面倒事を起こしてきた女神に対して信用は全くなかった。
「アレくんが悪いのよ。スピリットアーマーを作ってドラゴン航空の運用何て始めるから『おもしろい進化をしているからしばらく様子を見よう。代理戦争は参加しなくていいから世界の発展に注力して』と言われたのよ」
「良かったじゃないですか。今までの努力が認められて」
世界が独自進化してしばらくその発展を見守ろうと言われたのだ普通は喜ぶべきだろう。
「私はアレクが生きているうちは優勝は望まないと言ったでしょう。代理戦争で優勝すればこの世界の実を新たな大地に芽吹かせる権利を得られる。でもこの世界はまだ若くまだ千年以上の熟成が必要だと。私がアレくんに望んだのは別の世界の優勝の為の強力よ」
「その事についてはごめんなさいとしか言えません」
「いいわ、その事については代案が有るから。もちろんアレくんにも協力してもらうわよ」
「ええ、それはもちろん」
そんな会話をしているアレク達をロリアは遠くから寂しそうに見ていた。
アレクが話している相手がこの大陸の神である賢凰神だというのはサクヤから聞いた。アレクが女神の意志を受け動く『使徒』と呼ばれる代行者である事も知っていた。そして貴族としての仕事よりも使徒としての使命の方が優先されるという事も。
そんな関係を抜きにしてもアレクと女神の関係はもっと仲のいいように見えた。アレクには結婚相手である自分よりも優先させるべき女性がいるという事実を身をもって知った瞬間だった。




