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第13話 愛玩動物娘

「人化したとは聞いていたけどこうして姿を見るのは初めてだな。随分と綺麗になった」


 思わず隠れてしまったロリアだったが気を取り直し『浮気者!』と飛び出そうとした。しかしアレクの話を聞いて踏みとどまった。そういえばあのキツネ娘はこの村に来てから人化したのであって獣人の姿ではアレクと会った事が無かったのだと。


「そう言ってもらえると嬉しいです」


 キツネ娘はブンブンと尻尾を振ってそう言った。その仕草は色気というよりも主人に甘えてのしかかる大型犬のように見える。


「サクヤは私の事を恨んでいると思っていたよ」

「それは弟の事でですか?それとも私をテディさまに預けた事ですか?」

「両方だ」


 アレクがそう答えるとキツネ娘…サクヤはアレクから離れて顔が見えるように向かい合った。


「アレクさまは私の故郷でキツネを狩る猟師の親玉です。アレクさまのお屋敷で毛皮になった弟を見た時取り乱して暴れた事は悪かったと思っています。でも弟が死んで悲しいという気持ちは今も変わりません」

「その事については私も悪かったと思っている。キツネ山で狩られたキツネの毛皮はベルマン家で買い取っている。ああなる可能性は十分にあったのに配慮が足りなかった。今も屋敷に残っているあの頃の使用人たちもサクヤに会ったらあの時の事は気にしていないと伝えて欲しいと言っていたぞ」


 かつてアレクは魔獣になり人里を荒らしたサクヤの討伐を担当したことが有る。その時アレクはサクヤが1人で弟妹の面倒をみている事を知った。そこで魔獣なら話が分かると思いサクヤを捕獲して話を付けた。そして害獣を駆除するのなら報酬を出すと約束して村の方にもお金を出して和解させた。


 そのおかげでその年は畑が獣に荒らされる事が少なくなり平和に事を収めた。そして時が流れサクヤの弟妹は無事に巣立ちを迎えたのだった。


 しかし、サクヤが番を求めて他のキツネの元に向うと魔獣であるサクヤを受け入れてくれるキツネは居なかった。誰から相手にされず孤独になった人里に降りてきて『クーン、クーン』と鳴いた。それを聞いた村人たちは尋常ではないサクヤの様子にアレクに連絡を入れ、サクヤが孤独になった事を知ってペットとしてベルマン家に迎え入れたのだった。


 以前アレクに助けて貰った事があったサクヤは簡単にアレクに懐いた。賢く愛嬌も有ったので屋敷の住人からは人気が有り可愛がられていた。


 しかしキツネ山での猟が解禁され成果として毛皮が届けられた時、送られた毛皮を見てサクヤは錯乱して暴れた。その毛皮がサクヤが育てた弟だったからだ。その事が原因でサクヤは屋敷に居られなくなりテディの元に預けられたという経緯がある。


「キツネとしてアレク様に飼われていた時の頃は今思い出しても幸せだったと言えます。だから悪い事をして捨てられてしまったのだと最初は思い悲しみました。いっそ殺して毛皮にされた方が幸せだったのだと思ったくらいに。でもアレクさまは私が嫌いになったからここに私を送った訳では無かったのですよね。この先もキツネの毛皮が送られてくる以上、その毛皮を見て私が悲しまない様にと考えての事だったのですよね」

「それとサクヤの事を殺せという声が全く無かった訳じゃない。あのまま屋敷に置いておく訳にはいかなかった」


 暴れたサクヤの後始末を穏便に済ませるように当時のアレクは苦労した。


「ここは自然が豊かでキツネがいない。テディさまも私の事を娘のように可愛がってくれました。自分も昔は魔獣だったから色々と苦労したと。それからアレクさまが獣人のお姉さん達を送り込んできてだんだんと賑やかになっていきました。そうしたら私も人の姿になりたいと思うようになりました。人の姿になってもっと皆さんと仲良くなりたいと。そうして人化したらキツネの時には出来なかったことが出来るようになり、分からなかった事が分かるようになりました」


 サクヤはアレクに今の自分の姿を見せるためにその場でクルリとまわった。


「今なら理解できます。猟師さんがキツネを狩るのは生きるために必要な事なのだと。そしてベルマン家がキツネの毛皮を買っているのは猟師さんが生きるためのお金を手に入れる為なのだと。だから子育ての期間中は禁猟期にして私たちが安心して子育てが出来るようにして、法を破る密猟者も取り締まっているのですよね」

「ああ、でもサクヤのお母さんは守れなかった」

「でもアレクさまは私を助けてくれましたよね?あの時密猟者を取り締まるために陣頭指揮を執っていたのはアレクさまでした」

「たまたま監査で居合わせただけだ。それにサクヤが魔獣になったのは私のせいかもしれない。母親を殺され自身も怪我をした若いキツネを助けるために使ったポーションの魔力がサクヤの魔獣化の原因の一端だったのは間違いない」


 あの時使ったのは愛人の錬金術師が作った高性能のポーションだったため尋常ではない魔力がそのポーションには含まれていた。


「魔獣になり獣人になった事を私は後悔していません。弟の死も、これからもキツネが狩られていくことも自然の節理だと割り切っています。家族が死んだら悲しいですけど。ここに来たことも捨てられた訳では無く愛情が有った事も今は分かっています。だからアレクさまの事を恨んだりはしていません」

「サクヤ…」

「だからお願いがあります。私はベルマン家のお屋敷に帰りたいです。もう一度アレクさまの元で暮らしたです。愛玩動物として」

「愛玩動物は無理」


 いい話だったのに最後でサクヤが可笑しな事を言い出したのでアレクは冷たい声で無理だと言った。


「どうしてですか?貴族という者は愛人を囲ったり性奴隷を買ったりしているのでしょ?だったら女の子の1人くらい愛玩動物として飼ってもいいじゃないですか!テディさまだって貴族に飼われていた次期が有ったそうじゃないですか!」

「その話はするな。とにかく、私に女の子をペットにする趣味は無い。テディさんから人間の常識は一通り教えたと聞いていたからその気が有れば使用人として呼び戻そうかと考えていたのに」

「じゃあ使用人を建前に愛玩動物にしてください」

「しないわ!どうして愛玩動物にこだわる!」


 陰で2人の会話を聞いていたロリアはこれなら大丈夫かと思い自分の部屋で休むことにしてこの場から立ち去った。心の奥でアレクとああも言い合えるサクヤの事を羨ましと思っていたことに気づかないまま。


 それからしばらくしてサクヤがロリアの世話をするためにやって来たのだったがアレクとの話し合いがどうなったのかは聞かないまま次の日を迎えるのだった。

サクヤの元になったホンドキツネのメスは生後1年では巣立ちをせず、翌年に母親が生んだ弟妹の世話をするヘルパーの仕事をするそうです。

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