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第11話 モフモフ村

「ロリア、ロリア起きて。着いたよ」


 アレクに身を任せて気を失ったロリアが目覚めると目の前にアレクの顔が有った。自分の状況を確かめると知らない部屋の中で椅子に座ったアレクの膝の上でお姫様抱っこされた状態だった。


「何をしているのですか!」

「何ってロリアがしてもいいよと言ってくれたからお姫様抱っこしていたのだけど」

「運ぶ時だけです。何で座っている時もしているのですか!」

「ロリアが可愛かったから」


 そう言われてロリアは押し黙った。アレクが自分が寝ている間にいやらしい事をする人では無い事は分かっている。可愛いと言われて嬉しい。だからと言ってずっと寝顔を間近で見られていたというのは恥ずかしい。


「アレクさまのバカ、ヘンタイ!」


 そう言うとロリアはアレクの膝の上から降りた。


「不意打ちではなく一緒に寝るようになったら眺めてください」


 それから小さくそう呟いた。


「それでおばあさまの村に着いたのですよね」

「ああ、テディさんが村長を務める『モフモフ村』に着いたよ」

「今何て言いました?」

「だからテディさんが村長を務める『モフモフ村』に着いたよって言ったんだよ」

「何ですかその『モフモフ村』って!」

「だってここは人化した『魔獣』、通称『獣人』が住む村だから」


 アレクはそう言った。


 ここで魔獣について説明しておこう。この世界の魔物、別名モンスターと魔獣は別物だ。魔物は肉体を魔力で構成されている。ゾンビやリビングアーマーなど死体や物に魔力が宿って活動する者もいるが基本生きた血肉を持っていない。死んだら魔力に還元され死体は残らない。


 それに対して魔獣は血肉を持った生き物が魔力の力で変化した存在だ。戦闘経験を重ねると変化しやすと言われ、子育ての為に多くの獲物を捕る物が変化しやすいと言われている。特に夫婦で子育てをせず雌だけが子育てをする肉食獣が最も多く確認されている。


 魔獣になると寿命が大幅に伸び、人並みの知性を備えるようになる。その反面体に宿った魔力のせいか同族から爪はじきにされやすく生活テリトリーから追い出される個体も少なくない。そう言った魔獣は人里近くに降りて来て人と争いになる。魔物と魔獣の区別がなかった昔は討伐対象になっていた。


 そして人の手から逃げ延び人を学んだ魔獣は人語を理解し、人化の術を手に入れる。人の姿になった魔獣を獣人と呼ぶ。獣人の体は人と『ほぼ』変わらず人との間に子供を作ることも出来る。ここまでくると獣人は人に紛れて暮らすようになる。


 しかし人間には尻尾が無い為ため尻尾だけは変化させる事が出来ない。そのせいで尻尾だけが残りそこが人と獣人を見分ける印になる。土地によっては人に化けた魔獣に食い殺されたという伝承もある為見つかった獣人は迫害の対象になっていた。


「そうした獣人たちを見つけてはこの『モフモフ村』に匿っているんだ。少し前まで勇者と共に大陸中を旅していたから多くの獣人がが集まったんだ」

「私のおばあさまは獣人さんたちの面倒を見ているのですね」

「ん?ああ、知らなくて当然か。テディさんも獣人だよ」

「ええぇ!!!!!」


 ロリアの叫びが部屋の中で反響した。


 ロリアの祖母テディは熊の獣人だ。若い頃獣人という物珍しさから人に捕まり魔法で逆らえない様にされて奴隷として売られとある公爵に買われた。それから公爵のペットとして飼われていたが先々代の王が無くなった時、残された王家の者が姫1人だけだったため王座を狙って姫を襲おうとした。しかし姫を守ろうとした当時のベルマン侯爵、アレクの祖父の手によって断罪され同じ事を画策した他の公爵共々断罪され公爵家は取り潰された。その混乱に乗じてテディは逃げ出し王都に潜伏した。お腹にロリアの父、後のブラウン伯爵を抱えて。


 その後成長したブラウン伯爵はロバートと出会いテディはベルマン家に引き取られた。この時獣人だと知られたのだがベルマン家の者はその事を気にせずテディを受け入れ居た。しかしベルマン家での生活を窮屈だと感じたテディは人気のない山奥に引っ込んだ。その事を知ったアレクは偶然知り合った行き場のない獣人の世話をテディに頼み預け。それが繰り返されるうちに村が出来たのだった。

 

「それで村の名前を考えてくれと言われたのでモフモフした尻尾の村『モフモフ村』と名付けたんだ」

「そうなんですか」

「と言っても獣人と知りながら夫婦になり一緒に住む場所を追われた人やその子供もいるから住人が全員獣人という訳では無いけどね」


 すっかり大きくなった村を思い浮かべてアレクはそう言った。


「あのアレクさま。私の祖母が獣人だと知って私を妻に迎えてくれたのですか」


 アレクの話を聞いて自分の生まれを知ったロリアはそう聞いた。


「別に獣人が駄目だとは言わないよ。旅に出る時父上は相手が獣人でも気に入ったのなら連れ帰ってきてもいいと言ってくれたし。そのうえで言うけどロリアは人間だよ。父親であるブラウン伯爵も『人食い熊』の異名を持っているけど人間なのだしロリアが気にする事じゃない」

「でも」

「私にとってロリア可愛い女の子だ。血筋は関係ない(むしろ問題なのは祖父の方だし)」


 抱き寄せてポンポンとロリアの背中を叩くアレクの体温を感じてロリアは安心した。


「じゃあテディさんの所に行こうか」


 アレクに手を引かれ 部屋の外に出るとそこはドラゴンのお腹の中の上層部だった。下の方では積み込んだ荷物を降ろしたり広げたりしている。


「あれは何をやっているのですか?」

「予約が有った必要物資を降ろしたり、露店の準備をしているんだ。ドラゴンは荷馬車では簡単に行けない辺境の村や島に荷物を運ぶのに使っている。必要な食料や衣類などを運ぶほかに嗜好品の類を販売しているんだ。儲けは少ないけど人気が有るからベルマン家がドラゴンを独占運用していても文句が出ない」


 荷馬車を使った行商では運べる荷物の量が少ないせいで必要物資も足りないことが多く儲けが出ない事もある。しかしドラゴンを使った場合燃料費がかからない上早くたくさんの量の荷物を運べる。儲けはドラゴンやドラゴンネストの維持費に使われてとんとんだが他の領地の辺境の村々も回っているので感謝されている。


 それもベルマン家がドラゴンを一括運用しているから出来る事で他の家がドラゴンを単体で運用しようとすれば維持費で赤字になる。恩と利益の力でベルマン家はドラドンを独占運用していた。


 露店の準備をしている商人たちの邪魔にならない様にドラゴンのお腹の外に出るとそこにはモフモフした尻尾がいっぱい有った。


 尻尾の有る魔獣が尻尾の無い人間に変化するため人化しても尻尾は残る。その尻尾は大抵は大きくて服の中に入れる事が出来無いので服の外に出したままだ。結果お尻に動物の尻尾を付けた村の住人がそこら中にいた。


「ほんとうにモフモフがいっぱいですね。でも気のせいか大人の女の人が多いような」

「魔獣が人化すると見た目の年齢は精神年齢によって決まる。ここの住人は子育てを終えた母親が多いから大人の女の獣人が多いんだ」


 獣人は美形だからハーレム目的で集めた訳では無い。


「そうなんですか。あ、でもあの人は若そうです」


 人間の男と一緒に歩いている10代後半から20代前半の女性を見てロリアは言った。


「彼女は丹頂鶴の獣人だからね。獣人の中でも珍しい恩返し系の獣人なんだ。罠に掛かっていた所を助けてくれた男に恋をして人の姿になって押しかけ女房になったんだ。彼女が織る織物はとても美しく彼女自身も美人だから男の住む土地の領主に狙われてね。私が助けてこの村に匿ったんだ」

「そうなんですか、いい話ですね」

「(いい話なんだけど鶴の恩返しだから絶対に裏で女神さまが手を引いていたんだよな。あの領主が暴走しなかったら絶対に正体バレして分かれていたはずだ)」


 鶴の夫婦はアレクを見つけると深々とお辞儀をして立ち去って行った。


「あとこの村で若い子と言えば狐の子がいるね。(何でヨーロッパの世界観なのにホンドキツネなのか分からないけど)もともとこことは別のベルマン領の狐山と言う所に住んでいたのだけど母親が密猟者に殺されてね。残された弟妹の世話を1人で見るうちに魔獣化して人里まで下りてくるようになったんだ。その討伐を私が担当したんだけど話が通じて分かり合えた結果人里を襲うのは止める様になった。その後弟妹が巣立ったと他のキツネから敬遠されて孤独になった所を私がテディさんに預けたんだ。今人間の見た目で16、7くらいの姿をしているはずだよ」

「それらしい人は見当たりませんけど」

「彼女はテディさんの所で小間使いとして働いているからテディさんの家で会えると思うよ。さあ、行こうか」


 そう言ってアレクは村の奥にある一番大きな家に向かって歩いて行った。

次回、田舎のおばあちゃん

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