プロローグ 花嫁の事情
10人の神が生み出して7つの獣の形をした大陸を持つ7獣世界。翼を広げた鳳の形をした大陸、鳳凰大陸は西の翼、胴体、東の翼の3つに分割されそれぞれが違った文化を築いていた。西洋ファンタジーの世界観を持つ西の翼『西翼地方』は太陽と月の名を冠する2つの大国と星々に例えられる小国家群による3つの勢力が均衡を保っていた。
太陽の国『ソーラ』、この国の国境を月の国から守る辺境伯は12になる娘を嫁に出そうとしていた。
「ロリアよ、我が家は伯爵家に数えられてはいるが私の代で起こした新興の家だ。隣国との国境沿いに有った魔物の領域を解放して家を興し、隣国である月の国から国境を守るために辺境伯の身分を与えられてはいるが金も権力も無い弱小貴族だ」
平民から伯爵になった男、ブラウン伯爵は娘に家の事情を言い聞かせた。
「もともと平民だった私は町に遊びに出ていた貴族の子供であるロバート様にに気に入られ取り巻きに加えられた。そして文字の読み書きや計算の仕方を教えて貰い王都の教育期間である『学園』に入学する事が出来、卒業後はロバート様に仕えることになった。それからいろいろと有り私の有能性を認めてくださったロバート様は家を継いで侯爵なられると私に魔物の領域を解放して貴族にならないかと言ってくださり資金と人を用意してくださった。こうして私は貴族になった。そして貴族の付き合いで娘であるロリアをロバート侯爵様のの跡取りであるアレク伯爵の側室に差し出すことになった。この話は何度もしているから分かるはずだな」
父親の問いに娘であるロリアはうなずいた。
「ロリアも覚えているだろうが数年前、月の国が大軍で攻めてきた時アレク伯爵は山のように巨大なドラゴンに乗り月の国の群を薙ぎ払い我が領地を守ってくださった。ロバート侯爵様だけでは無く、その跡取りであるアレク伯爵にも恩が有り、この話は無かった事には出来ないと言う事も何度も話したな」
父親に聞かれてロリアは再びうなずいた。
「その後アレク伯爵は捕虜の中に女神によって異世界から呼び出された勇者がいると言い。魔王を倒す為に勇者を導くと言って東に旅立って行った。そして見事魔王を倒し勇者を異世界に送り返してソーラに凱旋した。帰国したアレク伯爵は今後侯爵家を継ぐための準備を始めるだろう。その為に結婚しなければならない。つまりは正妻、第一夫人。いずれ側室としてベルマン家に嫁ぐ予定のロリアにとっては上位に当たる相手になるはずだった」
そこまで言ってブラウン伯爵は悲しげに話をつづけた。話を聞くロリアも初めて聞く話になりそうなので緊張して話に耳を傾けた。
「しかしここに来て問題が生じた。アレク伯爵と結婚していいという貴族令嬢が見つからなかったのだ。何しろ目からビームを出して気に入らない相手をこんがりと焼く。7歳の時には平民を借金漬けにして女の子の奴隷を手に入れいる。10歳の時には綺麗なお姉さんを集めて娼婦の街『ヨシワラ』を作る。そこから数年の間は『学園』に通いながら家の発展の為の政策を考えてロバート侯爵様に進言したりして大人しかったが卒業後は巨大なドラゴンを手に入れて月まで行き夜空の星の1つをドラゴンに食べさせるという事をやらかして世界を混乱させる。(女神さまがフォローしたのでおとがめなし。後に夜空の星を個人が手に入れようとしてはいけないと全世界に信託が下ることになった)。勇者のお供をした時は一国の王女を雌豚にするという噂がながれる。無茶苦茶やり過ぎて誰もアレク伯爵と結婚しようとする者が現れなかったのだ。そこで…、そこで…」
ブラウン伯爵はつらそうにロリアにある決定事項を告げた。
「ロバート侯爵様から打診が有った。ロリアをアレク伯爵の正妻に迎えたいと。ただし逃げられない様に今すぐ嫁に迎えたい。侯爵家の正妻になる為の教育はベルマン家で行うと。さっきも言ったが我が家はベルマン家に恩が有り過ぎてこの話を断れない。侯爵家の側室から正妻にするというのは話だけならいい話だ。アレク伯爵の貴族としての能力は高いと評判だしベルマン家はこれからも発展し続けるだろう。国王陛下と王子様からの信任も厚いし『ヨシワラ』のおかげで男性貴族と金持ちからの評判もいい。建国当時からの貴族の血が流れているから見た目もいい。ただ女性関係だけ不安要素があるのだ」
現在ソーラには公爵家は存在しておらず、ベルマン家が筆頭侯爵に当たる。つまり王家の次に偉い家柄と言える。現在ソーラの王子の年齢が12歳な為、適齢期の貴族令嬢にとっては玉の輿になる。実際玉の輿を狙って親が無理やり娘を嫁がせようとした家も有った。しかし娘が嫌がって逃げたり他の男と既成事実を作ったりして醜聞になったのでアレク・ベルマンと娘を結婚させようと考える貴族はいなくなってしまったのだ。
「そんな男の所に嫁に行けというのは酷な話だ。だが私はブラウン家の当主として娘であるロリアに命じる。アレク伯爵の元に嫁に行けと」
父親であるブラウン伯爵に『命じられて』ロリアは素直にうなづくのだった。