見えナい物
初めに一つ、『七つのしずく』は、夏ホラーには属していません。
――まず第一話。「あなたは見えない存在を信じますか?」もしも身近に見える人がいるとして、信じないあなたはその人のことを異常者だと思いますか? もしもそれが、親しい友人だったとしたらどうでしょう?
霊が見える人の気持ち?
そんなのわかるわけないじゃないか。
だって、そうだろう?
人って、誰しも本気で信じ合っているわけじゃないんだから。
『霊の存在を信じますか?』なんてのはバカげた質問だ。
人間の中には、見えないもの、理解できないものは徹底的に信じないやつもいる。
信じなければそれでいい。そういうやつには、何を言ってもムダなんだから。
――もしも見えない存在が、科学的に証明されれば、信じないほうが非科学的ってことになるよね。
――それって、なんだか悲しいね……。つまらないね……。
でも、『見える人』がいるのも事実だ。
僕の友達にもいるんだよ。見えるやつ。
僕はそいつのことを信じているよ。
そいつの話もさ……。
「――血塗られた女?」
そいつ―― コウスケは、僕によく、自分が見た霊の話をしてくれる。最近は決まって、公園でさ。二人だけで。
他のやつらは、そういう話を聞くと怖がるくせに、コウスケのことまで変な目で見るんだ。
『俺達は怖い話は好きだけど、霊なんて信じない。』なんてな。
「――服をね。真っ赤に染めた女の人なんだけど。あれは殺された人だな。たぶん、強い恨みを持って死んだんだ」
見える人の中には、体験談とか怪談を怖がらせる目的で話さない、っていう人もけっこういるらしい。なんか、そういう話の中に入ってると、自分だけ“感じる”らしいんだ。――よくわかんないけど……。
でも、コウスケは違う。
「強い恨みを持った霊には気をつけたほうがいいんだ。関係のない人間に危害を与えることがあるから」
そんなのを見つけたら、コウスケはすぐに逃げるんだって。
でも、霊のほうもコウスケの力に引き寄せられることがあるらしい。何かと大変なんだと。
僕とコウスケは、幼馴染みたいなもので、小学校に入る前から、ずっと一緒だった。
なんでも信じあえる親友さ。もう、中学一年生だけどね。
「この前、近くで車の事故があったらしいね。昨日たまたまそこを通るまで気付かなかったけど、男の人が死んでた。運転してた人の霊がいたんだ。でも、あれはいいほうだな。念が弱いから」
不意に死んだ人間の霊は、そうらしい。ようは死ぬ前に、どれほどの念を抱いて死んだか。ということらしい。
かれこれ半年くらい前かな? ここで、コウスケと話をするようになったのは。
変なやつだよコウスケは……。
「じゃあな。また明日ー」
いつも、五時を過ぎると、コウスケは帰る。
暗くなると、ヤバイらしい。
それなら、僕にこんな話しなくてもいいのに……。
――僕は霊が見える人の気持ちなんてわからない。
でも――
霊の気持ちならよくわかる。
ほんと、変なやつだよ、コウスケは……。
とっくに死んでいる僕にまで、こんな話をするんだから……。
僕は半年前、この公園で死んだ。中学に入る直前だった。
独りでブランコをこいでたらさ。足を滑らせて……。ちょうど、今くらいの時間帯で、誰もいなかった。
石に後頭部を思い切りぶつけた僕は、声も出せなくて、助けを呼べなくて……。
苦しんで、苦しんで、死んだ。
僕と話をしてくれるのは、見えるコウスケだけなんだ。
親友だから……。あいつは今も変わらず、話をしてくれる。
――信じているから。
霊になった僕でも、信じてくれる。僕が霊だとわかっていても……。
……でも、このことをコウスケはわかっているのかな?
『血塗られた女』も『この前の車の事故』も……。
全部、僕が殺ったんだってこと。
面白くないからさ。人間なんて。
――でも、僕という存在は、もっと面白くない。
あいつにも、見えない物ってあるんだよな……。ボクの心の中とかさ。
親友なのにな……。
僕は、無事に中学生になったコウスケのことも、許せないんだ……。
こんな感じです。
まあ今から見れば、まだまだ夏は長い。これからです。もう少し恐怖度を上げましょうか。
こういう話でもオーケーという方、先へお進みください。
(次話追加:7月26日予定)