愛沢さんは二次元ショタコン
「ゆーちゃんまじかわいぃいいいっ! もう、離さない! もきゅもきゅ!」
ショタコンの愛沢瑞香は、ゆーちゃん(抱き枕)を力強く抱きしめる。抱き枕にはゆーちゃんと思われる、小学生くらいの金髪少年のイラストが描かれている。
「んふぅうううっ! ハァハァ、ゆーちゃん、女の子の1番大事なモノあげるわ」
「「「…………」」」
休み時間、教室で荒い息遣いで抱き枕を見て欲情する美少女。
愛沢さん自身の顔やスタイルはいいのに、とんでもなく残念な構図だ。
ビリッ
案の定と言うべきか、抱き枕の顔の部分から綿が飛びだす。愛沢さんは華奢な見た目とは裏腹に怪力だけはそこらの運動部員を上回る。知り限りではこれまでに5つは抱き枕を破いている。
「ゆ、ゆーちゃん! 誰にやられたの!?」
お前にだよ!
「ゆーちゃんを殺した人は誰? 正直に名乗れば心臓ひとつで許すわよ?」
殺す気マンマンじゃん!
「答える者がいないってことは、全員が犯人ってことね! ここにいるみんなでゆーちゃんを殺したのね!」
なぜそうなる!?
「……殺す」
手を広げ腕を交差させると、裾からシャキーンと音を立ててカッターナイフが飛びだす。
「ゆーちゃんのいない世界なんて、滅ぼしてやるわアヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
愛沢さんは机によじ登ると、その場で回転しカッターナイフを教室全体にばら撒く。
「あぶねぇ!」「きゃぁあっ!」「竹岡ガード!」「ギモヂィイイッ!」
教科書を盾にしてカッターナイフを受け流す。
「おい、江崎」
「んあ?」
名前を呼ばれ、振り向くとクラスメートの滝山がクールな表情で立っていた。
「教科書で顔を守っている場合じゃないぞ」
この状況でガードなしでどうしろと!? 今でも滝山と俺の間をカッターナイフが通過しているし。
「愛沢を見ろ」
「見れるか!」
「回転してスカートがまくれている」
「だから何だよ!」
「つまり、あのスカートの奥に夢が広がっている。今しゃがんで覗きこめば、今夜のオカズが手に入る」
「今夜のオカズより今の命の方が大事だ!」
「はっ」
心底見下したような表情になる滝山。
「お前はその程度のもやしだったか。仕方ない、オレを見てい(グサッ)……げふっ」
滝山撃沈。
「けへへへへ!……くふっ」
やがて、ずっとまわり続けていた愛沢さんは眩暈を起こし頭から床に崩れ落ちる。
今日もなんとか、死なずに済みそうだ。
私立紺屯高等学校。
ここでは常に、常識を逸する出来事が絶えなく起こる。
ちなみに、愛沢さんは今回のことで3日ほど停学になった。
おかしくね? あれだけのことをして3日だよ?