天使リリエルは恋の勉強中
時間がないのに思いついたので衝動的に書いた。後悔はしていない。
「未花、私と付き合ってください」
「……は?」
私こと天野未花高校2年生は人生で初めての告白をされた。……目の前の同性である少女に。
「どうしました?もしかして聞こえてなかったですか?未花、私と付き合ってください」
私が答えに困り反応できないでいると、聞こえていなかったと勘違いをした目の前の少女が再度告白をしてくる。
「……えっと、買い物に?」
それでもやっぱり答えに困った私は、多分……というかほぼ確実に違うだろうなぁと思いつつも思っているのと別のことを口にする。
「いえ、ものに関しては今のところ特に困っていません。そうではなくて私と付き合って下さい、恋人的な意味で」
「ええっと……一応聞くけど、いったい何がどうなってそういう結論に至ったのかなリリエル?」
やっぱりというか、昨今のラブコメにありがちな「付き合ってください!(買い物に)」ではなかったらしい。残念ながら。
「何がどうなってですか?それは説明が面倒なのでできれば省きたいです」
「いやいやいや、そこ省かれたら返せる答えも返せないから!」
「……面倒ですね。では私の方からも先に一つ質問します。未花は私のこと好きですか?嫌いですか?ちなみに私は未花のこと好きですよ」
「……別に嫌いではないけどさ」
「つまり好きということですね」
「まぁ好きか嫌いかで言えば好きだけど」
「なら付き合っても問題ないですね!」
「いや、だからどうしてそうなる!」
「?私は未花のことが好き。未花も私のことが好き。何の問題もないじゃないですか?」
「……私の好きは友愛まではいっても恋愛まではいってないんだけど」
「でも好きなんですよね?」
「同じ好きでも友愛と恋愛じゃ大違いだよ……。それにねリリエル、恋っていうのはこの違いが大切なんだよ」
「うーん……?人間の恋って面倒ですね」
リリエルはしばしの間考えたようだが結局答えは出なかったらしい。まぁそんな簡単に答えは導き出せないだろう。そもそもそれが最初からわかっているのなら、リリエルはここにいなかっただろうから。
「でもその面倒なことを学びに来たんでしょ、リリエルは?」
「まぁそうなんですけどね。天使な私をここまで悩ませるとは……本当に面倒な問題です」
そう言うリリエルは「はぁ」とため息をつきつつ本当に面倒そうな顔をする。実際面倒なのだろうが本人いわく「やらないといけない理由」というのがあるとのこと。
そもそもの話である。このリリエルという少女、人間ではない(らしい)。いわく「天使である」、さらにいわく「愛や恋を司るものの眷属である」……らしい。
正直その辺の話は半信半疑といったところである。……本当なら半信半疑ではなく無信全疑としたいところであるがリリエルという存在そのものがそれを許さない。おそらくリリエル以外が「天使である」などと言っても、「この人大丈夫?」と精神状態や頭の状態を疑っただろう。もしくは「この歳になってまだそんなことを……」と残念なものを見るような目で見ていたことだろう。
しかしリリエルは違う。
具体的に何が違うのかを余すことなく表現するのは私ではできそうにない私ではあるが、たった一つこれだけはいえる。
―きれいすぎる。
全体的に色素の薄い肌。それを彩るのは長いまつげに縁どられた碧の瞳に小ぶりで形のいい唇。しかし何より目を引くのがその透き通るような銀色の長い髪である。初めて会ったときは夕暮れといっていい時間帯であったがその銀色の髪は夕焼けの中でもきらきらと輝き、その存在をしっかりと主張していた。
現在、初めて会ったときからしばらく時間がたっているが邂逅から変わることのないものが私の心の中にある。
きれいすぎること。
同じ人間と思えないこと。
そして……天使だと言われて納得している自分がいるということ。
「天使か……」
「ん?どうしました未花?」
気が付くと私のすぐ目の前にリリエルの顔があった。どうやら考え事をしていたせいでリリエルの接近に気付かなかったらしい。それにしても相変わらずきれいだなと思う。
別に未花自身の容姿はそれほど悪くない。むしろかなりいい部類に入るだろう。肩に届くかどうかという黒髪は艶があり、健康そうな肌に整った顔立ち。10人に聞けば9人は彼女のことをきれいだと評すだろう。
「何でもないよ。それで、話は戻すけどいったい何がどうなってさっきの『付き合って』発言になったの?」
「あぁ、そのことですか。正直面倒ですが説明しますと、以前言った通り私の目的は人間の恋を知ることです」
「そうだね」
そう、この自称天使が何をしたいのかというと人間の恋を知りたいのだとか。
「私は愛を司る者の眷属でありながら、恋というものがさっぱりわかりません」
しかしこの自称天使、愛とりわけ恋愛やそれに付随する感情というものが全くわからないのだという。
「正直このままでは私の役割的にまずいわけで……簡単に言うと仕事にならないわけです。そこで私は色々と人間たちの恋というものを見てきたわけですが……やっぱりわからなかったわけです」
「うん、そこまでは前にも聞いたね」
「はい。そこで私は考えました。見てわからなければ自分で体験してみればいいのではないかと」
「……なんとなく結末が予想ついたけど続きをどうぞ」
「そこで私は今現在私の中で一番好感度の高い人間と付き合ってみようと思いました。そうした理由から私はさっきの告白へと至ったわけです。そんなわけで未花、私と付き合ってください」
「……普通恋愛って男女でやるものじゃない?一般的に」
「そこは私が一番好きだったのが未花なので仕方がないのです」
「好きって……。いや、あのね、そう言ってくれるのはうれしいんだけどね……」
「まぁそもそも人間の知り合いって、私未花以外にいないんですけどね。なのでどうあっても未花の好感度は私の中で1位です」
「……それはいらない情報だったよ」
あれ?なんで今私にとっていらない情報だって思ったんだろ?リリエルにとって残念な情報ではあるけど。
「それでどうします?付き合います?付き合いません?」
「ちなみにここで付き合わないを選んだ場合はどうするの?」
「?どうもなにも今まで通り人間観察に戻るだけですよ」
「新しく恋人になってくれそうな人を探すって選択肢は?」
「なんでそんな面倒なことをしなくちゃいけないんですか?私の知り合いは未花だけで十分です。むしろいりません」
「そ、そっか。……でも天使としてそれでいいの?」
「別に急いでるわけじゃないから。それで……結局どうする?」
「……」
どうするか。常識的に考えれば答えは否だ。別に私には女の子を好きになるような趣味はないし、そもそもこんなわけのわからない理由で付き合うのも何か違う気がする。……でも……でも。
「……」
「……」
「……やっぱりいいや。さっきの話はなしで」
「……へ?」
「なんとなくね、今答えを聞いても違うと思うの」
「どういうこと?」
「わかんない。なんとなくそう思うだけだから」
「……変なの」
「そうかも。それでね、私もう少し人間の恋について勉強することにしようと思う。それで恋を知れたら……」
「知れたら?」
「……どうしよう?」
「おい!」
なんだか少ししまらない感じになってしまったけど……まぁいいか。
恋を知らない天使とただの人間である私。そんな奇妙な二人の関係はこれからもまだまだ続きそうである。