09-かあさんの思い。
今回は主人公のお母さん視点です。
こういう小話系もちょくちょく書いていきたいな、と。
私は今、とても幸せ。アルフォンスが無事に生まれてきたのだ。
この世で万能ともいえる魔法とて、いくつかできないことがある。
蘇生がそのいい例だ。次に上がるのは病気だろうか。
出産のときが一番死亡率が高く、だからこそこの子が無事生まれてこれるか心配だった。
もう、今はないあの人との子供だから。あの人とのつながりを表すものは、この家と、アルフォンスだけ。
貴族の兵士に追われ、逃げている最中に転んだときは気が気じゃなかった。もしこれが原因でお腹の子が生まれてこなかったらどうしよう。そんな思いでいっぱいだった。
だから、あの子が生まれてすぐ、「おぎゃぁ、おぎゃぁ」と泣く声を聞いて、心底ほっとした。
生まれてから少しの間、体調を崩して寝込んだけれど、しばらくたってからあの人のお墓にアルフォンスが生まれたことを報告しに行った。そして、すぐに帰るつもりだったのに、お墓を見ているうちに「なんでこの喜びを分かち合えないのだろう」とその場でうずくまって泣いてしまった。
アルフォンスが一人なのを思い出してあわてて帰ると、ベビーベットからこちらをにらんでた。
ごめんね、アルフォンス。
いままではそばにいないあの人を思って感傷に浸ってゆっくりとした日々を送っていたけれど、アルフォンスが生まれてからは一日一日がとても速く過ぎるようになっていった。
幸い、あの人との旅路で得たお金やアイテム、アーティファクトのおかげで生活は全然苦しくなかった。
だから、アルフォンスと過ごしているとまるであの人と過ごしていた時のように時間がすぐに経ってしまう。
アルフォンスは綺麗だからだろうか、それとも木漏れ日のような温かい魔力が好きなのか、魔石に興味があるようで、ベッドライトについているライトクリスタルをぺちぺちと叩いたり、ぎゅ~っと握ったりしている。かわいくてしょうがない。
もっと大きくなったら、お母さんが魔法を教えてあげるわ。
それはきっと、あなたの見る景色を変えてくれるでしょう。楽しみに待っててね。