小話4 クラウスは見た4 乙女な願い
「おまえ…隙見てきんちゃんになんかしようとしてんじゃないだろうな?」
ヒューゴが中庭にいる間中、というか気が付く限りきんちゃんにやたらめったら引っ付くので、心配になって思わず言葉が漏れてしまった。
「クラウスまでエディンみたいなこと言って!!僕をなんだとおもってんの?!」
ヒューゴが罠に使う縄を結びながらぷうっと可愛く頬を膨らませた。
「いや、お前がきんちゃんにべたべた引っ付くから…」
俺の言葉にヒューゴがさらに“むぅ”といいながら頬を膨らます。
相変わらず仕草があざとい。
「考えてないとは言わせないぞ」
俺がヒューゴに詰め寄るとヒューゴが“むぅぅ…”と唸りながら下を向いた。
「そりゃぁ、そういう事考えちゃうときもあるけど…急にそんなことしたら驚いちゃうし、僕だけが嬉しくてもきんちゃんはイヤかもしれないじゃない。
そんな風に驚かしたり、いやな思いさせんのってそんなんダメじゃん」
向こうにいる見えないきんちゃんを見るようにヒューゴが言う。
「とにかくそんなズルな事なんてしないもん。そういうのはきんちゃんが本当にそう思ったときじゃないとイヤ」
プルプルと小動物のような仕草で首を何度か横に振りながら言う。
一応、きんちゃんのこと考えているんだな。
猪突猛進な性格だと思っていたのでちょっと安心した。
「だからね、きんちゃんに僕の事、うーん、うーんと好きになってもらって…」
ヒューゴが両手を顔の前で組みながら空を見る。
ん?
ヒューゴからなんか妙な空気がながれてきたぞ。
そんなことよりその手を動かせ。
「そんで初めてん時はぁ…うんそうだ、お花がいっぱい咲いてるとこでね、手つないで一緒にたくさんお話してね~、あー、お星さまがきれいなとこでもいいなぁ~。
でもでも月に照らされた時のきんちゃんもきれいだったなぁ~」
おーい、今、お前どこにイってるんだ?!
なにかのどこかの中に突入してしまったらしいヒューゴはそのまま言葉を続ける。
「きんちゃんが白いふわふわした服で…あ、目とおんなし赤い服でもいいかぁ~、
赤い服ならふわふわしてないほうがいいかなぁ~
んでもきんちゃん可愛いから何でも似合うちゃうもんねぇ…悩んじゃうなぁ」
そこは否定しない…たしかにきんちゃんは美少女だしな。
性格が想定外なだけで。
ヒューゴが顔の前にあった両手を胸の前で組み直しながらうっとりした表情をする。
「そんでー、ふたりではなしてるでしょ、そしたら気持ちいい風が吹いてね、木の下でおはなししてる僕ときんちゃんのおはなしが止まるの」
“にゅふふふ…”変な擬音が入りつつヒューゴが妄想を語り続ける。
「僕がねきんちゃんの手をぎゅってするとね、きんちゃんもぎゅってしてくれて
僕がきんちゃんを見たらきんちゃんの大きな目も僕の目を見てね、にっこり笑うの。
それでね、それでね、きんちゃんの口を見るとね、ちょっとあいているの。
だから僕がそういうことしてもいい?って聞いちゃったら恥ずかしそうにうなずいてくれて僕もきんちゃんも一緒にドキドキしててぇ…僕がきんちゃんのほっぺに手、置くでしょ…そうしたらきんちゃんなんにも知らないから目を開けたままなの、きっと。
だからね、僕がね、目、とじってお願いするときんちゃんがちょっと笑ってから目をそっと閉じるの。そうしたら僕がきんちゃんのふわふわの髪に手を入れてそっと僕の方に…そんでね…。あ!クラウス、なに言わせてんの!!うわぁぁぁはずかしいぃぃぃ!」
ヒューゴが顔を真っ赤にさせて罠を作っている地面をバシバシと穴が開くほど叩きながら言う。
そこに穴掘ってどーする。
安心しろ。今、聞いてる俺の方が恥づいわ。
そして言わせたつもりはない。
お前はいったいどこの乙女なんだよ。
「あ、そうだその時のためにキレイなお花畑探しておかなきゃ…きんちゃん喜んでくれるといいなぁ」
探さなくてもお前の頭の中が十ニ分に『お花畑』だ。
「だ・か・ら、こんな感じにきんちゃんがうんと喜んでるときにそういうことしたいの」
どんな感じだ。
「クラウス。こちらの準備はできたぞ」
うっかり聞いてしまいうんざりした俺の耳に向こうからきんちゃんの弾んだ声が聞こえる。
『きんちゃんがうんと喜んでる時』…今じゃね?
俺が見る限りきんちゃんが一番喜んでる時って…たぶん罠作ってうまく作動した時だと思うけど。
いまのとこ。
「お話は伺っております」
エディンがそう言って、俺を客間に通した。
工房が使えるという事を書架にいたきんちゃんに話をすると喜んで、明日一緒に行くということになったので迎えにきたというわけだ。
エディンに通され客間でお茶を飲みながら待っていると、嬉しそうな雰囲気をまとったきんちゃんが中庭から来た。
「なんかいいことでもあったの?」
何かを探していたらしく髪の毛があちらこちらに跳ね服は泥で汚れていた。
「あぁ、クラウス。すごいぞ。先ほど庭で食用の茸を見つけたのだ。後程食べてみよう」
なるほど、茸が自生していたらしい。
「この様なところでも兵糧ができるということだ。ディーに提言してみよう」
「そうだね」
きんちゃんに返事をしながらふと横を見ると綺麗な花が飾ってあった。
多分、エディンが活けたものだろう。
「そこの花、綺麗だね」
先日、ヒューゴから聞いたお花畑発言を思い出しきんちゃんにちょっと聞いてみたくなった。
「そうだな」
きんちゃんはちらりと花に目を向けてすぐに俺の方を向いた。
「きんちゃんってどんな花好きなの?」
俺の質問にきんちゃんが目をぱちぱちとさせてから軽く首をひねった。
「食用ではない草花に興味がないので分からぬが、冬虫夏草などは興味をそそるな」
きんちゃん…『冬虫夏草』は花ですらないんだけど。
「ヴィ様!!」
お茶のお代わりを持ってきたらしいエディンが台所から出てきてきんちゃんに目を止めたとたん悲鳴に近い声を上げた。
「どうしたのだ?エディン」
きんちゃんは何故叫ばれたのか見当がつかないらしく不思議そうに首を傾げながらエディンを見る。
「どーしたもこーしたもありません!!どうして外出用の服で遊んでるんですか!!」
「遊んでいたのではないぞ、調査していたのだ」
なぜ怒られているのかわからない様子のきんちゃんがエディンに真面目に答える。
「それにその髪!?」
「何か問題あるのか?」
きんちゃんが自分の髪に手を当てながら不思議そうに首を傾げる。
「大ありです!!せっかく、先ほど整えたのに!何やってくださってるんですか!!調査でしょうが遊びでしょうがどちらでもいいんです!問題は着替えずに庭に行ってることなんです!!」
エディンがパンパンと音を鳴らして片足を床に打ち付けながらきんちゃんに言う。
「服は自分で洗うし、髪の毛と工房は何の関係もないぞ…」
エディンの勢いに押された様子できんちゃんの語尾が徐々に小さくなっていく。
「そういう問題ではありません!まったく、泥だらけの上、髪はぼさぼさ!その格好でお出かけなさるおつもりですか!!」
「いけないか?」
先ほどよりもかなり小声できんちゃんがエディンに言う。
「いいわけあったら言いません!!すぐに御着替え直しいたしますよ!」
エディンがきんちゃんの言葉を叩き潰す勢いの大音量できんちゃん言うときんちゃんの首がカクンと下がってそのままの姿勢で固まった。
「クラウス様申し訳ございませんもうしばらくお待ちください」
エディンがオレの方に振り向いて軽く会釈をするとキッっときんちゃんを睨んだ。
「…色々すまない…これを頼む」
きんちゃんはエディンに聞こえないように小声で言いながら俺に頭を下げてエディンに見えないようにそっと俺の手に茸を置き、肩を落としてとぼとぼとエディンの後ろについていった。
着替えている間中ずっとエディンに説教を食らうのは確定だ。
ふと、花畑の横で花に目もくれず冬虫夏草を探し、服を土にまみれにし髪に色々な草や細い枝が絡ませてすごくうれしそうに笑っているきんちゃんが脳裏に浮かんだ。
「ふわふわの髪に白い服、花畑…ねぇ…うーん」
先日のヒューゴの妄想をおさらいしてみて、ため息とともに一人呟いた。
「がんばれ、ヒューゴ」
俺は遠くに目をやりここにいないヒューゴに声援を送った。
いまのところのきんちゃんを見る限り、ヒューゴの乙女な願いが実現できるまでの道のりは…果てしなく遠そうであった。




