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昨晩の話では、何も結論が出ないのでとりあえずその者達より先に『精霊石』を見つければよいのではないかと考えと書庫に向かうことにした。
「ヴィ様!」
屋敷を出ようとすると後ろからエディンが声をかけてきた。
振り向くと、清書されたため紙にかかれた書類を持ったエディンがいた。
「ヴィ様、本当に申し訳ないのですがお出かけ先に行く前にミレイ様のところによっていただきこれをお渡しいただけないでしょうか」
エディンの口調はお願いだが実際は違う。
「承知した」
急ぎで行く用件でも無いので請け負った。
「遠回りになってしまうので、途中お食事などされるかもしれませんので…」
エディンから硬貨の入った袋を渡された。
「これは?」
「そうですね、俗に言う『お駄賃』というところですかね」
「私が使ってよいのか?」
「無駄遣いされないでくださいね」
語尾を強めて言われた。
町に出てもいつも周りの誰かが対価を出してくれる為、自分の裁量で使える硬貨を持ったのは初めてで気分が高揚した。
「承知した、行ってくる」
私はエディンからミレイに渡す書類を受け取り背嚢に入れた。
研究棟に行くと前に会った女性が受付にいた。
ミレイに会う旨を伝えると快く通してくれた。
ミレイの研究室に向かっていくと廊下に男女がいて男の人方が壁に手をついて女の人に顔を近づけ話をしていた。
そのせいでやや通り抜けにくくなっていたので
「失礼して後ろを通らさせてもらう」
と伝えたら男の人の方が私を振り向いた。
「あれ?この前ミレイのとこに来てた娘じゃない?」
誰であろうかと、頭巾の下から声をかけてきたものをよく見た。
短い黒髪に青い瞳でミレイと同じくらいの年齢の男…ミレイのところで会った『歩く女の人好き』と言われていた、
「グルード殿か?」
「あ、覚えててくれたの?!嬉しいね!」
私が名を呼ぶと壁に当てていた手を放してこちらを向いた。
「ミレイのとこに行くの?」
グルードが聞くので頷くと壁から離した手を私の肩に乗せ、
「この娘ミレイのとこまで送ってくるから」
とさっきまで話していた女性に向かい片手を上げる。
“もう…”
話していた女性が腕を胸の前で組んで鼻でため息をついた。
「ミレイのいる研究室ならわかるので話中であればそちらを優先していただいてかまわないのだが」
「ミレイが部屋にいなかったら探すの大変だろ?」
確かにそうではあるが戻るまで待てばいいだけの話なので問題ない。
「戻るまで待つので問題ない」
「まぁまぁ、そう言わないで」
グルードが私の肩に乗せた手を押すようにして廊下へと足を進めた。
「きんちゃん?!…グルード…」
ミレイの研究室に着くとミレイが私を呼んでから私の肩の上の手を見てその手から先を確認するようにグルードの顔を見て言った。
「エディンからこれをミレイに届けるように言われたので」
私が背嚢の肩紐に手を当てるとミレイがグルードの手首をつかんで私の肩から外した。
「ちょっかい出さないでっていったでしょ」
「綺麗なものに触れないなんて罪だろ」
グルードが外された手を軽く上にあげながらミレイに向かってそう言う。
私は背中から背嚢を外し中にあった書類の束をミレイに渡した。
「助かったわ!ありがとう、きんちゃん」
ミレイが書類を受け取りながらにっこりと私に向かって笑った。
「あ、そうだ『きんちゃん』って呼ばれてたんだよね、オレもそう呼んでいい?」
グルードが前と同じ質問をしてきた。
「ダメよ、この子にちょっかい出すとヒューゴに噛み付かれるわよ」
今度はミレイが却下した。
「そりゃ怖い」
グルードが肩を竦め軽く体を揺らしながら言った。
「大体、愛でる華はそこらここらにあるのでしょグルードの場合」
ミレイが口を軽くひねりながら言う。
「どこに咲く花も美しいからね…色々目移りしちゃうんだよ」
「そんな戯言はここじゃなくてそういうところで言ってちょうだい」
ミレイが私を自分の方に引き寄せた。
『そういうところ』…
『「それについてはディーとコーガが花街で確認すれば良いのではないか?」
「ま、それについては方法を考えておこう」
ディーが頷いた。
「私もグルードに聞いてみるわ」
「確かによく行ってそうだもんね、グルード」』
「グルード殿は『花街』と言われるところに精通しているようだが」
「グルードでいいよ。なんで急に」
ヒューゴとミレイの会話を思い出した私がグルードに聞くと唐突だったのかグルードが身体を軽く後ろにそらした。
「ならば『飲み屋街』というところにも精通しておられるのかと思い伺ったのだが」
「んまぁ、よく行くけど」
グルードがぱちぱちと何度か瞬きをする。
「『ウォーレン通り』のサクちゃんも可愛いし『ベルウー通り』のフェリンちゃんは蠱惑的だしね」
「その娘達のことじゃなくて、通りで『鴉』って名乗っていた男のこと知らない?」
ミレイが私の意図するとこにすぐ気付いたようでグルードにそう聞いた。
「え?男の事?…そういうもんは俺の目に入らないからなぁ」
そう言いながらグルードは上を向く。
「んー、そういえば『ワールン通り』に行ったときに鳥の名前を名乗っていた奴らがいるって聞いたな…レリインちゃんから」
「奴ら?一人じゃなくて?」
ミレイの問いかけにグルードがあごに手を当て親指と人差し指でその顎を撫でながら目を上に向けた。
「レリインちゃんがここらへんじゃ見かけない男に声掛されたときにその男を止めた男がそいつを鳥の名前で呼んでたから面白いと思って覚えてたみたいでさ…」
「どんな男たちだったとか言ってた?」
「うーん、あ、そうだ、そう言ってからなんだか知らない言葉で話し始めたからガルドの人じゃないんだなぁって思ったって言ってた」
「『ワールン通り』は貿易商 地域の近くね」
「そうだな、だからほかの国の人がいてもおかしくはないからな…俺のレリインちゃん、燃えるような赤い髪、滑らかな肌…万国の男を魅了できるなんてすばらしい娘だよな」
「その情報はいらないけど」
ミレイが半目でグルードを見る。
「そうだ、これから行っても少し細かく聞いてきてやるよ」
グルードが拳と開いた手を当てて“ポンッ”と音を鳴らしながら言う。
「え、はぁ、まぁ、それは助かるけど…いえ、でも…」
ミレイがグルードの提案に躊躇しながら答える。
「いいから、いいから。んじゃ、これは貸しな。そのうち返してくれよ!」
そう言いながら片手を上げてグルードがミレイの研究室を後にした。
「エライのに貸しを作ってしまったわ…」
ミレイが額に手を置きながら顔を天に向けた。
「聞きたいことも聞けたし、仕事の邪魔になるだろうから私はお暇する」
私は天を仰いでいるミレイに声をかけた。
ミレイがカクンと音が鳴るかのように首を下に向けて私を見た。
「もうすぐお昼でしょ、一緒にご飯食べに行きましょう。ちょっとだけ待っててね」
ミレイが手早く書類を机の引き出しに分類しながら入れ、閉じてから鍵をかけると私の方を向いた。
「さっ!行きましょう」
ミレイが私の両肩に手を置いて押し出すかのように部屋を出て後ろ手で鍵を掛けた。
「きんちゃんが大事な書類届けてくれたから、お礼に今日の昼ごはん代は私が出すわ」
「エディンから食事に用立てるように『お駄賃』なるものを渡されたので問題ないが」
ミレイの申し出に、私は衣嚢からエディンに渡された『お駄賃』というものを出してミレイに見せた。
「いいの、いいの、おごってあげるから。それは別の好きな物を買いなさい」
ミレイが頭巾の上から私の頭を撫でてから何かに気付いたように手を引いた。
「きんちゃん、触られても大丈夫になってない?」
引いた手を見ながらミレイが首を傾げた。
「ん?」
そういわれてみれば、以前の様に触られても体が緊張することがない。
「確かにそのようだ…それならとてもうれしい」
私の頭にさわるたびにその後でミレイやクラウスが申し訳なさそうな顔をするのが気になっていた。
私はミレイを見上げて笑いかけた。
するとミレイが改めて私の頭に手を置いて撫でた。
「それはそうと、その『お駄賃』で買いたいものとかあるの?」
ミレイが私が手に持った硬貨の入った袋を見ながら言う。
「ほしい物…」
ほしいものと言われても別に浮かばない。
暫く上を向いて考える。
「ほしい物、ある」
「あら、どんなもの?」
私の言葉にミレイが口角を上げながら楽しそうに聞いてきた。
「ミレイのところに来る途中、良いと思った物があった」
「私も見て見たいわ、先にそれを買いに行きましょう」
“後で行ってなくなっていたらがっかりしてしまうし”と付け加えながらミレイがその店に向かうように私を促した。
店頭にはたくさんの飾り紐が縦に並べてあった。
「これを」
店主にそのうちの1つを指さす。
「髪を縛る紐が欲しかったの?なら、こっちの飾りのついた物の方が良くなくて?」
ミレイの言葉に私は首を横に振った。
「そういう物は足りている。飾りもヒューゴがくれたもので良いし」
「じゃあ、この紐何に使うの?」
店主から紐を受け取り衣嚢に入れてからミレイを見上げた。
今、それをミレイに言うとエディンに筒抜けになる可能性が高い。
「試したいことがありそれに使用したい」
警戒してそれだけを言うことにした。
「そ、そうなの…?」
ミレイが首を軽く傾げたあと何回か頷いた。
ミレイががっかりしているようなので
「出来たらミレイにも見せる」
というとミレイの口角が上がった。
「それなら楽しみにしているわ…さ!食事に行きましょ!」
そのままミレイが私に笑いかけながら肩に手を置いて食事をとる店へと歩き始めた。




