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「そこ、がっかりするとこなの?」
下を向いた私にミレイが声を掛けた。
「私は民を守るのが仕事で守られるのが仕事ではないからな」
ミレイが額に人差し指を当てた。
「多分、守るってそういう意味じゃないと思うわよ」
「そういう意味だと巫女様みんなムキムキになっちまうだろうよ」
コーガがミレイの言葉に乗っかるように言ってくる。
そういわれればそうかもしれない。
確かに思い出す限り自分の姉妹はみな筋骨隆々ということはない。
ミレイの言葉に子供頃から言われている『民を守る』ということはどのような事か考えてしまった。
「きんちゃんは巫女姫様なのだから国の行く末を民に知らせるとかそういうことじゃないかしら」
「だが、神託は私一人ではできない」
本当にあれが民を守るということなのだろうか。
具体的にはどのようなことを指すのか聞ける機会があるのなら聞いてみようと思った。
「琥珀、明日も学舎なのですからもう寝なさい」
エディンが琥珀に声をかける。
夕食を早めてその後にお茶を飲みながら話していたとはいえだいぶ夜も更けてきた。
「わかった」
皆に案を却下された私を指さして笑っていた琥珀が、あくびをしながら席を立ち
「んじゃ、お休み」
というと、
「おやすみなさいでしょ」
エディンに注意をされて首を上に向けてからけだるそうに
「はーい、おやすみなさい」
と皆に言った。
「ぉお!ちゃんと学舎にいってんだな」
コーガの声に琥珀の口がゆがんだ。
「まぁな」
先日のことがあるからか歯切れ悪く琥珀が答えた。
「ちゃんと寝てしっかり勉強しろよ!」
「おう」
琥珀がそんな自分を鼓舞するように握った拳を上にあげた。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
皆の声を背中に受けながら琥珀が扉を出て言った。
私はその後ろ姿を見てからディー達の方に目を向けた。
「今は私の話より今まで起ったことが彼らの仕業なのかを検証するべきだな」
「ま、そうだな」
ディーが頷いた。
「そもそも、あの始祖と呼ばれた者はどのような素性の者なのだ?」
私は話を元に戻そうとディーに聞いた。
流石に彼も生まれたときからあの状態ではないだろう。
「本名は『タイレル・ウェントル』というそうだ」
「『ウェントル商会』って言えば昔は有名な店だったよな…話を聞かなくなったと思ったら代替わりしてたのか」
ディーの説明にコーガが言う。
「そのタイレルが始祖などと言い出したのはどうも二年ほど前かららしい」
確かに信徒と言っても大体50~60人程だったからそんなに長期間布教をしていたわけではないのだろう。
「あの主とかと呼ばれた者はいつからそのタイレルの側にいたのだ?」
「オレが聞いたヤツは教団の最初からいたって言っていたな」
「潜っていたものによると実質を担ってたのはどうも彼らしい」
「だが、ネフィル達には仕方なく使えていると言っていた…」
私の言葉に皆、首を傾げた。
彼はネフィル達に言っていたこととタイレルに言っていること、更に言えば信徒と言われる者たちに言っていることが皆違うのではないだろうか。
「そういえば、彼女、きんちゃんに会ったのにタイレルには会ってないって言っていたそうよ」
ミレイが思い出したように付け加えた。
「『ファデルの巫女姫様』にはお会いしたのに始祖ではなくてなぜ主に会うように進言されたのかしら」
ミレイが、ネフィルに聞くとネフィルが掛布を握りやや躊躇したように
「そこまでご存じでしたか…主様が『救いの巫女様』をお探しになっているようでしたのでお役に立てたらと思いまして」
そう言ってから失礼なことを行ってしまいました。と言葉をつづけた。
始祖よりも先に主と呼ばれたものと私を引き合わせたかったようだ。
「始祖には会ったことを言ったの?」
ミレイの言葉にネフィルが首を横に振った。
「いえ、主様がそういうと始祖様がさらに私達を酷使するだろうから会えなかったと言いなさいとおっしゃられましたので」
私は首を傾げた。
それでは何のためにガルドの王城に忍び込ませたのか。
始祖との会話での行きがかり上なのか、何か別の目的なのか。
「どうも、その『主』というものの真意がつかめぬな」
「そういえば箱に関してもそのようなところにはいっていないと言ってた」
『「んと…『「やはりまがいものではひらかぬか」』っておっさんの声がして…あとべつのおっさんの声もしたな」』
ミレイとネフェルが話しているときに私は琥珀の言葉を思い出してミレイの耳元で聞くようにお願いをした。
「『希望の箱』のことですか?私はその物についてはよく知らないのです。あの男に聞かれたら『開かなかった』という様に主様に言われておりましただけですので」
ネフィルは申し訳なさそうにミレイに言った。
「つまり、少なくともタイレルとネフィルはその箱の有無を含めてしらないということだよな」
コーガが言う。
「その主とか言われてるヤツのことをタイレルは鴉と呼んでいたらしい…飲み屋街であったそうだ」
ディーが言う。
「鴉?」
「本人がそう名乗っていたそうだ」
「つまりその男は通称で通していて誰もその男の本当の名前を知ら無いということか」
「胡散臭いわね…飲み屋街に良く出入りする人に聞いたら話が出てくるかしら」
「そうだな」
ミレイの提案にディーが片手で顎を撫でながら言う。
「そもそも、その『鴉』というものはこの辺りの国の者ではないのではないか?」
「確かに」
私の疑問にディーが頷く。
「そうね『救いの巫女』や『救国の巫女』なんて話、ここら辺では聞かないものね」
「ガルドの人間でないとすれば『アデルの箱』とは無関係ということになるな」
「なんでだ」
コーガが私の方を見て首を傾げた。
「あのときの『ウェンデルト』というものはガルドの者なのだろう?」
「そうだな」
ディーが私の言葉に頷く。
「そうであれば、『ウェンデルト』という者が他国の人間の為に働くとは思えぬのだが」
「確かに、あの男に政治的な思惑があるとは思えないな」
「『ウェンデルト』とはそんな者なのか?」
「僕も知ってる!イヤなヤツだ」
「地位のあるチンピラだな」
私の問いにヒューゴとコーガが追いかけるように言う。
「そういえば、あの時なぜその者がかかわっているとわかったのだ?あの場に本人もいたのか?」
「いや、来てなかったが」
フフフフフフフフ…
ディーがそう言うと今まで黙っていたミレイから息を小刻みに掃くような笑い声が聞こえた。
「ミ、ミレイ?」
私は今まで見たことのないミレイの声色と表情に驚いてミレイを見つめた。
「それはね私があいつとその取り巻きの顔を皆覚えているからなのよ」
「ミレイが?なぜ?」
ミレイは下を向いてた顔を上げにやりとした顔をした。
「えぇ、あいつらとその取り巻きの顔をずっと的にして矢を打つ訓練をしていたから…
まぁ!上達の早かったこと早かったこと!!
あの時きんちゃんが落としてくれてなかったら私が一人一人本当の的として撃っていたわ」
おほほほほほ…
と高笑いを上げながらミレイが言った。
そのようすを見てコーガが怯えたように肩を竦めた。
私もこのようなミレイを初めて見たのでいささか驚いたが残りの3人は平然としていた。ミレイにがここまで言うであれば何かあったのだろうがなんだかそれ以上聞いてはいけない気がした。
私は無意識に自分ののど元に手を置いた。
いつもつけている宝玉の感触に『鴉』と呼ばれた男の言っていたことを思い出した。
『「首に宝玉を付けていますから多分、本物でしょう」』
「そういえば、これが何かということを皆は知っているのか?」
私は首についている宝玉を指差しディー達に見せた。
「ファデルの宝玉だな」
「そうなのか?」
「やはりそうだったのね」
「そんな名前なんだ」
皆の言葉に、私は軽く頷いた。
やはりそうなのだ。
「その『鴉』と呼ばれていた者はこれが何かを知っていた」
「それは妙だな」
ディーも眉間に皺を寄せる。
「なんで?」
ヒューゴが私の方を見て聞いてきた。
「普段は今の様に首元が見えない服を着ていて儀礼の場や諸侯の会議の時だけ巫女姫であることを示すようにこれが見える服を着ていたのだから直接これを見る機会のあるものは少ないのだ」
「ふーん、そういえば僕もそっちのやつ、ちゃんと見たの初めてかも」
ヒューゴがじっと私の首の宝玉を見る。
「つまり、きんちゃん達の付けてる『宝玉』を直接見たかその者からどんなものかを聞いていたということだよな」
コーガも顎に手を当てて唸りながら言う。
「増々、『鴉』という男の素性が分からなくなったわ」
「んまぁ、少なくとも『箱』に関していえば二派以上の人間が動いているってことだな」
ディーが肩を竦めた。
「私がまた拉致される可能性もあるということだな」
『箱』と『精霊石』と『巫女』は探す側からすると一式の様に考えているようなので結果そうなる。
「きんちゃんは僕が守る!」
いつの間にかヒューゴが私の座っている後ろに立って後ろから覆いかぶさるように首に手を回してきた。
「まぁ、それはヒューゴに頑張ってもらうか」
ディーが笑いながら言う。
「ミレイ様、ご用意ができております」
エディンがヒューゴの腕を私から外しながらミレイの方を見て言った。
「あぁ、もうそんな時間ね…私も彼の素性をできる限り調べてみるわ」
ミレイが立ち上がるとコーガとディーも立ち上がった。
「今日、僕、こっちで寝よっかなぁ」
ヒューゴが言うと、
「今日は私も、ミレイ様もいらっしゃいますので大丈夫です」
とエディンがびしりと言った。
「今日のとこは帰るぞ、ヒューゴ」
ディーがそう言うと
「はいはい、帰りますよ」
コーガがそう言いながらヒューゴの首の後ろの服をつかむ。
「えー、えー!」
ヒューゴが抗議の声を上げながらコーガに服の首の後ろ辺りを引くようにもたれそのまま引きずられて屋敷の玄関に連れていかれた。




