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「巫女はオレの物だぁ!!」
あの者らが精霊殿と言っていたらしい所を出たところで始祖と呼ばれていた男の声がしてそちらを見る。
目を赤く充血させ大量の涙を流しながら手を拘束され騎士たちに引きずられるようにされていた。
「『巫女』って『ファデルの巫女姫』様のことか?」
からかうように引きずっている騎士が言う。
「他に誰がいる!」
男の言葉に周囲の騎士たちがどっと笑い声をあげた。
「巫女姫様は城にご滞在あそばされておるぞ」
馬鹿にするように騎士がふざけた様子で言う。
「そんな!そんなはずはない!」
「遠見ではあったがお姿をお見せくださり我々を見送ってくださっていた」
騎士の一人が思い出すように目を軽く伏せながら言う。
そう、私はここにいないことになっている。
私の容姿がそこまで固定化されていないので髪の黒いエディンに薄布を被ってもらいその姿をわざとディーが皆に見せたのだ。
ディーがそれを私だと言えば皆信じる。
エディンの隣にはミレイにいてもらい不自然さを隠し、身長差は靴で補正した。
エディンを西棟に戻してからミレイは単独で馬を駆ってここまで来た。
これで、巫女姫誘拐など言う事件は起きていないことになる。
今ここにいるのはディーに協力したヒューゴの親族のヴィ・ワルドなのだ。
「口ン中まずいぃ…」
ヒューゴがミレイに貰った水で口をゆすぎ吐き出しながら涙目で言う。
ちなみに私はミレイに言われてあの後取り急ぎヒューゴが上に来ていた服を着ていた。
「私が油断などしたからだ申し訳ない」
あれは想定外だった。
餌に相手が掛かったことで慢心していたのだ。
もう一つ考えるべきだった。
「きんちゃんのせいじゃないよ」
ヒューゴが私の方に体を向けた。
「きんちゃんを連れてこうなんて!…そんなん噛み殺す」
ヒューゴが後半の言葉に歯を見せた笑顔を浮かべ平然と言った。
「だが。そのようなことをしてヒューゴが嫌な思いをするのは気が進まない」
私が言うとヒューゴが首を傾げた。
「前に『証拠隠滅』の話をしたときヒューゴは悲しい顔をしたであろう?」
『「ヒューゴが食べるというのはダメなのか」
証拠隠滅と言うのであればそういう方向もあるのではないかとおもい言ってしまった。
「ぼくは火を通してない肉は食べないよ!美味しくないし!」』
出会った頃の会話を思い出してヒューゴを見た。
「あぁ…そんなこと言ったかも。でもね、きんちゃんのことは別なの」
「?」
私が首を傾げるとヒューゴがくすくすと笑いだした。
傷のせいで目が引きつっていて痛々しい。
「傷は痛くないか?」
私が手当されてたヒューゴの傷に手を当てるとその手の上にヒューゴが自分の手を乗せた。
「そんな顔しないで、こんなんすぐ治るから大丈夫」
ヒューゴが私の目を見ながら首を傾けた。
「あ、そうだ。きんちゃん僕の傷なめたでしょ?お口の中、気持ち悪くない?」
「大丈夫だが…嫌だったか?それならすまなかった」
とっさにしてしまったことだったのでヒューゴは嫌だったかもしれない。
「ううん、うれしかった。だから他の人にやっちゃダメ」
ヒューゴが私をじっと見ながら言う。
「どうしてだ?」
「僕がイヤだから」
そういうものなのだろうか。
「そうなのか?ヒューゴが嫌ならしないが」
今後そのような機会もないだろうし。
「ホント?!約束だからね!」
「承知した」
ヒューゴが嬉しそうに笑った。
幹と枝の間で緑の葉からこぼれる陽の光を見ながら考える。
あの後、髪の色が戻った頃を見計らって屋敷に戻ったのだが、事の顛末をコーガがエディンに言ってしまいものすごーぉーーく長いお説教を聞く羽目になった。
いつかコーガに報復をしようと誓った。
これは巫女としてではなく人として当然のことだと思う。
ほとぼりが冷めるまでとエディンから逃げるようにヒューゴのお誘いでお昼寝ついでに木の上で空を見ていた。
今回の騒ぎは宗教結社による子供の略取ということで落ち着いた。
琥珀の見た、壁のそばにいた琥珀曰く『おっさん』のうち一人は主様と呼ばれていたものだったのではないだろうか。
彼女のあとをつけている者がいるという時点で姿を隠したのだろう。
ディーに頼んであちらこちらの牢に収監されている者を一人一人見たが私を恫喝した男はいなかった。
あの琥珀曰く『おっさん』は自分だけどこかに逃れたのだ。
あの者は何をしようと、もしくは何をしたのだろう。
『「次はきちんとお迎えいたしますからね」』
とも言っていた。
私をまた拉致する気なのだろうか。
嫌な目の付けられ方である。
そしてあのネフィルの腕を傷つけ何かを強奪した少女については誰も知らなかった。
アルと呼ばれ、一緒に誘拐された者として皆思っていたのだそうだ。
ネフィルが盗られた物についてはネフィルが入院しているのでディーに許可をもらえたら聞きに行こうと思っている。
そもそも私は、グァンディル王の精霊石を探していたはずなのだが。
周囲は動いているのに私だけが何もわからない状態な気がする。
本当は今までも色々な思惑が私の周囲で動いていたのかもしれない。
ただ、宝石箱の中で何も見えていなかったのではないのだろうか。
それならば…。
「ぶぇっくしょん!」
木の上の方で何かを見つけて遊んでいた琥珀が盛大なくしゃみをした。
「さむ…」
風が吹いてヒューゴが身体を軽く震わせてすり寄ってくると私の首元に顔をうずめた。
ヒューゴが言うように目の横の傷は赤く筋が浮かぶ程度まで回復していた。
私はその傷の上に手を当てた。
「ヴィ様!!」
ドサッ!
エディンの声に木の上にいた全員がビクリと身体を震わせたので枝から大量の葉が下に降った。
「二人とも!また、そんなところにヴィ様を…」
エディンが葉にまみれながら陽の光にあたって光る青い目で夕飯までに終わるかどうかという説教を始めた。




