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9話

 次の目的地らしきネファル村に着くと、ディーの元に男が何人か集ってきた。

馬で先回りをしたらしい。

何人もが調査しているようだ。

馬をつなぐために厩に向かうディー達とは別にミレイについて動いていたが

立てかけてある農具が珍しくミレイ達を目の端で追ってから

農具に歩みよった。

農具は薄い木のような物を交互に編んだようなものや鉄が三股に分かれたものに柄がついているもの多様なものがあり興味深い。

編んでいるのは笹と言われている植物だろうか。

その場合、1年目の柔らかい物を使うと文献に載っていた。

農具を色々ながめていると誰かの影が見えた。

農夫と言うより商人のような姿の中年の男と黒髪に長身の男が話していた。

言葉の端に〔アデル〕や〔ランドガゼル〕という言葉が聞こえ商人たしき男が黒髪の男を敬称で呼んでいた。

〔ランドガゼル〕というのは今いる国の首都だ。

それはそうとして意図せずとはいえ立ち聞きというは慎みのない行為をしてしまった事を反省した。


 私はそこを離れ、そこにいたであろう黒髪の男である厩を出るディー声をかけた。

「ディー殿」

これで、彼がディーでなければ返答をしないであろう。

「ディーでいい」

そっけないが返答があったのでディーで間違いがないようだ。

どうも外はいちいち確認しなければならないので若干面倒だ。

私は、ディーを正面から見据えた。

「率直に伺いたいのだが」

ディーがこちらを見て目を細めた。

「どんな用だ」

目が面白そうにゆらいだ

「私に何をさせたいのだ」

私は単刀直入に言った。

ディーの片眉が釣り上がった。

「何の事だ」

「少なくともディーは私が何者かを知っている」

「だから?」

ディーが言葉を促した。

「私に用事がないなら見逃して欲しい」

「見逃すとは?」

面白がっているのを隠しもせずに聞いてくる。

私がどこまで気がついているのか探ろうとしているのだろうか。

「ここから私は一人で行きたい」

ディーはくすくすと意地の悪い笑い声をたてた。

「ヴィが俺達から離れると言ったら、ヒューゴがついて行ってしまうのでそれは困る」

ヒューゴは自国の用件をほったらかして行く程馬鹿ではない。

それは本当の理由ではないとわかっていたので、私はディーを見上げた。

「それに、アデルで起こっていることはヴィのせいかもしれないだろ」

軽く片目を閉じながら言う。

「私のせいにされるのは不本意だ。異変があったのは2ヶ月以上前のはずだ」

閉じていた片目を開いてディーが私をじっとみた。

「何故、そう思う?」

「コーガが前に『春先に来る北の商人がきていない』と言っていた。私が出たのはひと月程前の春精霊祭の後だ」

ディーは腕を組、厩の柱に寄り掛かった。

「私は出る為に2年間準備してきた。

それがたったこれだけの日数で瓦解するのは困る」

ディーは軽く口笛を鳴らした。

「ヴィは努力家で賢いんだね」

「茶化すのは止めてもらいたい。

他国とはいえ騎士と一緒にいるとなれば、事がすめば本国に送り帰されるという事だ」

「なんで騎士だと思う?」

私はディーを上目使いでみた。

「剣の構えが騎士の物だった」

ディーが低く唸った。

「良く見てるね…で、なんでなんかさせたいと考えているんだ」

「ディー達が私を捜していたようだからだ」

ディーの片眉がまた上がった。

「どうしてそう思う?」

「この前コーガが『ファデルの方はなにも異変はなかった。

がらくたも宝石も落ちていなかったしな』と言っていた。

宝石は私達の異称だ。

そのあと、ディーは『手土産を持ってきた』と言っていた。

あの時、袋ではなくヒューゴを見ていた。本当の手土産は私という事だ」

ディーは両手を軽く広げて大きくため息をついた。

「なかなかの推論だ。わかった。必要な事は話そう」


 ディーが宿の2階の部屋の椅子に座った。

コーガは扉に背を向け、ミレイは窓際に立った。

ヒューゴは私の座っている椅子の後ろに立っている。

成る程、警戒するような話しらしい。

「ではあらためてヴィの本当の名前を教えてもらっていいかな」

「ヌーヴィエム・ラルド・エデ・ファデル。ファデルの9番目だ。」

「つまりファデル国の巫女姫という事だな」

ディーが確認をとるように聞くので黙って頷いた。

印象イメージが大分違うから確証はなかったが、巫女姫ということならやはり、我々を手伝ってもらいたい」

印象イメージが違うとはどういう意味なのだろうか。

「出自がわかってしまった以上、私は外での話し方をしたほうがよいのか?」

「外での話し方ってどんなの?」

ヒューゴが首を傾げて聞いてきた。

「『わたくしの事を申し上げればよろしいのでしょうか』

というような話し方だ。

聞き取りやすい方に合わせる」

声色を変え睫を臥せるように話す。

「それ、きんちゃんじゃないみたいでイヤだ」

ヒューゴが唇を尖らす。

「きんちゃんの周りの人達は外での話し方で話してたのよね」

ミレイが頬に人差し指を軽くあてながら首を傾げた。

「そうだが」

「なんできんちゃんはその話し方になったの?」

ミレイは不思議そうに言った。

「無駄だから」

「無駄?」

言葉が足らなかったらしい。

ミレイが首を反対側に再度傾けた。

「あの話し方をすると結論までが長くかかる」

「あぁ!」

ミレイは驚いたような声を上げながら軽く手を合わせた。

「きんちゃんらしい理由ね」

ミレイはくすくすと笑いながら何度も頷いた。

「なんか、外見はともかく、想像イメージと違う」

コーガが扉口で呟くのが聞こえた。

「あー、話しやすい方でいい…と、いうか他の姫もそんな感じなのか?」

何故か疲れたようにディーが手を横に降る。

「他の者とは儀礼以外でほとんど会わないし、話しもしないのでよくわからない」

私は首を横に振りながら言った。

「姉妹だと聞いているが会わないのか?」

王には妾妃はないので、血縁はあるが全員が姉妹ではないだろうと思われる。

王の娘というほうが大義名分がいいのだろう。

そもそも、父である王にも母である王妃にも一年間に数度しか会わないので顔も朧げにしか覚えていない。

「皆、郊外に屋敷があるのであまり会わないのだ」

もっとも私の場合しかわからないがと付け加えた。

ディーは顎に手をあて何かを考えているようだった。

「と、いうか何故ファデルの姫が、城外にいるのかを教えてもらえないか?」

ディーの言葉になんと答えるべきなのか。

黙る私にディーが言葉をつなげた。

「さっき、話した時に、『2年間の』と言っていた。つまり自分から城を出たのか?」

「そうだ」

ディー以外の3人が驚いた顔で私を見た。

「ファデルの巫女姫が自分で城を出るなど聞いた事がないが」

それはそうだろう、私もあれだけ文献を読んだにもかかわらずそのような記載は一度も見なかった。

「何故、城から出ようなどと思ったんだ。そんなに辛い目にあったのか?」

ディーが咎めるように言う。

「いや、他国の事は知らないが、悪くはないと思う」

「では何故」

もし、自国に戻っても聞かれるだろう。

ここは嘘をつくべきなのだろうか。

「神託があったのだ」

「嘘だな」

「うそだ~」

ディーとヒューゴが同時に言った。

私は前と横の人物に速攻で否定され、言葉に詰まった。

「何故、嘘だと?」

「きんちゃんが嘘ついてもぼくはわかるよ」

「神託うんぬんというならさっきの『2年間』の説明がつかない」

ヒューゴとディーが口々に言う。

今、思いついた嘘なのだから、すぐにわかってしまうのは仕方がない。

国で話す用にもう少し考えておこうと頭の片隅においた。

「確かにそうだ」

だが、今は失敗してしまったのだから正直に言うべきなのだろう。

「どうしてなの?」

ヒューゴが座ってる私を覗き込みながら言った。

「ファデルの姫は13人いると言っていたろう?」

私はヒューゴの方に顔を向けて言った。

ファデルの巫女姫は13の宝石と言われる。

「うん」

顔を向けられたヒューゴがうなずいた。

私はなんとなくディーに向かっては言いづらく、ヒューゴの方を見ながら続けた。

「13人もいるから、一人ぐらい抜けてもわからないか…と思って」

「えっ!?」

「はぁ?!」

「………?」

「へ?」

驚きの表現も多様な変化形バリエーションがあるものだと感心する。

その様な声の後、部屋の中が静まりかえった。

「そんな理由…?」

ディーの言葉がこぼれ落ちる。

コーガは扉口で口を開いたまま私を見ている。

ミレイは窓辺に手を置いたままの姿で固まっていた。

ディーは言葉を発した後、目を見開いたまま首を前に突き出した姿で硬直している。

ヒューゴは私を大きな目で見ていたが軽く目を伏せてから口角をあげた。

「で、きんちゃんはそう思って出てきたの?」

「そうだ」

一番言いたくないところを済ましたので大分、気は楽になった。

「『2年間』って、準備なのか?城出の?」

ディーが金縛りからとけたように目をしばたきながら私に言う。

「準備ってどんな?」

ミレイの口ぶりは聞きたいというより衝撃の緩和の為に聞いたという感じだったが私は素直に返答した。

「外の事はよく知らないのでまずは城の蔵書を全部読み覚え、自衛の為に、教わっていた技を護衛の人から更に教わり毎日練習したりしていた」

「蔵書を全部覚えたの?!」

ミレイが声をあげた。

何故驚かれたのかはわからなかったが覚えたのは確かになので頷いた。

「外で何が必要になるかわからないので一通り読み覚えた」

書物というものは一度読めば記憶できるものなので何故ミレイが驚愕したのかはよくわからない。

ミレイの目が丸くなった。

「どうやって出たの?…いくらなんでもかりにも巫女姫様がそんな簡単に出入り出来ないでしょ?」

ミレイがため息をつきながら聞いてきた。

「春精霊祭の時に紛れて隠し通路から出てきた」

「隠し通路?」

大概の城には襲撃に備え、隠し通路がいくつかある。

上手くできたのだから口調も、やや自慢げになった。

「蔵書の中に城の普請図を見付けたから隠し通路を予想して城に行くつど調べて

幾つかの通路を確認しておいたので祭の夜にその一つを使ったのだ」

「隠し通路ってどんなの?どんなの?」

ヒューゴがワクワクとした様子で私を覗き込む。

「作られてから忘れられてそうなところだったから細くて余り整備されてなかった」

砂まみれになったけれど楽しかった。

準備していたとはいえあんなにも上手くいくとは思っていなかった。

あの時、隠し通路という穴を抜け、格子の板を開いた時、みなもに大きな月が映っていた。

窓枠に囲まれていない月を見たのはあれが初めてだった。


 そうだ、あの時、私はものすごく頑張ったのだ。

理由はともあれ。


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