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3-24


ヒヒーン!



「わぁ!!!」

馬が嘶き、御者が御者台から大げさな声を上げて落ちた。

コーガだから問題ないだろう。

「ひぃぃ!おたすけぇ!」

台詞がなんか嘘くさい。

そう言いながら街道横の草むらの中に逃げ込んだのかあの体で木の枝を折っている音がする。

男たちはコーガには目もくれずに私達の乗っている馬車の扉を壊れる勢いで開けた。


 夜が明けてすぐに西棟からディーの用意した馬車に乗りハルドに向かう。

名目は『地震があったハルドの復興を視察する』と内密の体でこの何日か喧伝していた。

静養中ということでお忍びでという形をとり人数も最小限だ。

御者と私と侍女一人。

少なすぎるのだが、皆それぞれの役割があるので今回は仕方がない。

これで釣れなければまた次の手を考えればいい事だ。

経路ルートとしては首都ランドガゼルを出て、ウォンデルに向かう。

ウォンデルまでは馬車で二日かかる。

ウォンデルに向かう道は大きな街道なので、野盗などに遭遇しにくい。

一日目は街道沿いの町に宿泊した。

少ない人数とはいえ、襲撃はないだろうと思いこの町と翌日に泊ったウォンデルでは三人とものんびりと過ごした。

彼らが来るとすればハークにほど近いウォンデルを出た後だと思っていたからだ。


 「巫女様はどっちだ!?」

何人かの声がする。

本当にウォンデルを出てから襲ってきた。

「…何者ですか?」

私が怯えたように言う。

「こっちがそうか!」

私の腕をつかんだ男の手が勢いよく腹部にあたりかすかに痛みがあったがたいしたことではなかった。

「あぁ…」

男の目が一瞬“え?”という目になったのだが私は薄目で気絶したふりをした。

侍女の目が鋭く私に手をかけた男を見た。

同じ轍は二度踏まない。

服の下に一応革できた腹を防御する板をを巻いておいた。

手を緩く組み合わせ掌の間に空間ができるように握り祈るような形を作る。

「巫女様をこちらに!」

「この女はどうする?!」

「一緒に連れていくよう始祖様がおっしゃられた!」

「こっちに移せ!」

材木を担ぐようにされ別の馬車に乗せられた。

乗せられたというか、侍女と共に投げ込まれた。

彼らは私を必要としているらしい割に扱いが雑だ。


 道が悪いのか馬車が揺れるたびに横に投げ込まれた身体が上下する。

侍女が腰に手を回し支えてくれてはいるが気絶しているふりも容易ではないほどだ。

その状態で半時ほどにももっと長くとも感じる中、ようやく馬車が止まり、扉が開かれる。

私は気絶したままの様子にしていた。

冷静に考えるとあれだけ揺れたら起きると思うが。

「『救いの巫女』様はどちらに」

声がして誰かが扉の中をのぞいている気配がする。

「こちらにおられるのが巫女様かと」

「私が始祖様の下にお連れします」

私はそう言っている男に抱き上げられた。

「本当におられるとは…次はきちんとお迎えいたしますからね」

気絶していると思っているのか私を抱き上げた男が他の者には聞こえないほどの小声で嬉しそうにそう言った。


 気絶したていでいると手首を縛られ椅子にもたれかかるように座らされていた。

「巫女が手に入ったというのは本当か?!」

どかどかと足音を立て部屋の中に別の男の声がした。

手に入ったとは…私は品物か。

「あっちの部屋にいた女は何だ?!」

「巫女姫様のお付きの者です」

先ほど私に妙なことを言った男が答える。

「巫女だけでいいだろう」

「保険ですよ」

足音の大きな男の方が“ふん”と鼻息で返事をした。

「で、巫女は寝てるのか?」

足音の大きな男の声が近づいてきた。

「まだ気絶されております」

「この娘は本当にファデルの巫女姫なのか?」

「首に宝玉を付けていますから多分、本物でしょう」

確かにわざと首元が見える服を着てみておいたがこの男は首の宝玉のことを知ってるらしい。

ただこれについては私たちの異称にも使われているので知っている者もいるだろう。

だが、それを知るのはファデルの者か、要人とされたものだけだと思うのだが。

違うのだろうか。

一度、どこまで知られているのかディー達で確認して見よう。

「目が覚めたら逃げようとするんじゃないか」

「そのためにあちらの部屋にお付きの者を拘束しているのですよ」

拘束しているのか。

無駄なことをするものだ。

「あぁ、そういうことか」

足音の大きい男の声がさらに近づく。

「なかなか見栄えのする娘じゃないか」

男の手が私の顔を触る。

男の顔が近いのか生暖かい息がかかる。

皮膚の下で虫が這いずるような嫌悪感と共に総毛立つのが分かった。

人に触れられてこのような反応が起こるのは初めてだったがそれはとても不愉快だった。

「始祖様。巫女姫様にお触れになる事はお控えください」

「なんでだ」

「巫女姫様の力の源泉が分からない以上不用意にお触れになられて始祖様に何かありましたらわたくし達の大いなる損失となります」

同じような事、前にも聞いた気がする。

そうだ、グレンにメーヴィがそのように言っていた。

つまり、この始祖と言われる男に関しては巫女の力がどういうものか把握していないようだ。

ただ今、そのように進言した男についてはどこまで把握しているのかはわからない。

「ん、ん、そうだな」

男が私から離れて安堵した。

「あなたが動けばあなたのお付きの者が」

男が始祖と呼ばれた男に聞こえ無いように小声で私の耳元で呟いた。

こやつさりげなく恫喝をしてきた。

「う……」

この男は私が起きていることに気づいているようなので仕方なく目を覚ますふりをした。

目を開き左右に視線を振ると私の横に髪の黒い男が長い外套を着こみ頭巾フードを外した状態で立っていた。

「巫女が起きたぞ?!大丈夫なのか!」

目の前に立っていた顎に髭を生やした男が先ほど言われたことが気になったのか私から後ずさり距離をとった。

「ここはどこです?貴方様は?」

やや怯えたように男たちを見る。

先ほど髭の男に触られた嫌悪感が残っていたので自分の顔が青ざめているのが分かる。

今の状況シュチュエーションでは丁度良い。

が、次、あの者に触られたら我慢できる自信がない。

「私はこれからおまえを使って新しい世界を創る男だ」

私から距離をとった状態で髭の男が胸を張る。

「世界を…?」

私は目を左右に動かし、

「供の、供の者は…無事なのですか?」

「今のところはご無事ですよ…意味は分かりますよね」

改めて恫喝してきた男の言葉に私は肩を竦めながら頷いた。

「巫女姫様は状況を把握されていないご様子」

「では、私の言うことなど聞かぬのではないか?」

髭の男がややうろたえた声で言った。

「この香を嗅げば始祖様に従順な巫女となりましょう」

外套に身を包んだ男が袋から乾燥した茸を出した。

この茸は書物で見たことがある。

東方が産地で乾燥させたものを焚くと意識が混濁すると言われている茸だ。

外套の男がそれに火をつけ白く甘い香りの匂いが立ち上ったものを私の顔の側に近づけた。

そういわれて吸うものはいない。

当然、私は息を止めた。

「これで本当に私の言うままになるのか?」

意識が混濁したふりをして半目にして朦朧とした顔を作る。

「今は少し意識が混濁されておりますが、しばらくすれば始祖様の従順な巫女様となるでしょう」


ジュッツ


水をかける音がして茸から白い煙が上がり香りが消えた。

水を掛けられ香りも立たなくなった茸を袋に入れながら、

「用は済んだので片付けないといけませんね」

小声で男が肩を竦めながら言った。

「巫女が使えるようになったら教えろ!私は着替えてくる!」

髭の男が扉に向かいながら言う。

「仰せのままに」

外套の男の両端の口角が上がった。

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