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3-19

 「ほんとにあそこにいたのか?」

「しんじねぇのかよ」

コーガの問いに不機嫌な顔で琥珀が返す。

屋敷いえに戻り合流したディーとミレイを交えてコーガと琥珀、私とヒューゴのたがいに聞いたこと報告していた。

「出入りしてんのって男ばっかりって言ってたぞ」

コーガがそう言うと、

「なんならオレがもっかい忍び込んでやろうか?」

琥珀がコーガに挑むように言う。

それを聞いたコーガが慌てた様に手を小刻みに振った。

「女の子にそんな危ない事させられないぞ」

コーガの言葉に琥珀が横目で睨む。

「オレは女になんかになんねぇからいいんだよ」

琥珀は“フン!”と鼻息で言いながらプイっとコーガと反対の方向を向いた。

「性別が変幻する種族もいるのか?」

私は斜め前に座っているディーに聞いた。

「少なくとも俺は知らんな」

なぜかディーが笑いをこらえたように言う。

「とにかく琥珀ちゃんににそんな危ない事をさせるわけにはいかないわ」

ミレイの言葉に琥珀がまた正面を向く。

「私は信じているわよ」

ミレイが首を傾けてにっこりと笑って琥珀に言う。

「とうぜんだ」

琥珀がやや赤くなりながら両腕を組んだ。

「ただ、きんちゃんを連れて行くのは失敗したのよね…彼女の状況が心配だわ」

ミレイの言葉に琥珀がミレイと私を交互に何度か見て

「もしかしてヴィが『ミコ』とかいうやつなのか?!」

「ほかの人には内緒よ。琥珀ちゃんを信用しているわ」

琥珀の言葉にミレイが口に人差し指を当てながら言うと、

「あぁ、もちろんだ」

そう言って琥珀が胸を張った。

「んじゃ、ヴィがねーちゃんの代わりになればねーちゃんは出れるんじゃねぇのか?」

「琥珀…」

コーガが額に手を置いて下を向く。

「そんなことさせるわけないでしょ!」

ヒューゴが私の肩を自分の方に引き寄せながら琥珀を睨む。

「と、言うより琥珀が聞いた話では『「やはりまがいものではひらかぬか」』とその男たちは言っていたのだろう?」

ディーの言葉に琥珀が頷く。

「本物の『ミコ』なんか連れて言ったら『まがいもの』と言われていたらしい彼女は処分されてしまうのではないかな」

「処分?」

「悪ければ殺されるってことだよ」

ディーが淡々というと琥珀の顔が青くなった。

「そ、それは…」

「今のところは『ミコ』を連れて行くのが失敗したとはいえ利用価値があるなら生かされてはいると思うがね」

冷静に語るディーの言葉に琥珀がほっとしたように息をついた。

よく聞くとあまり良い兆候の言葉ではないと思うのだが琥珀が安心したようなので黙っておいた。

「んじゃ、どーすればねーちゃん助けられんだよ!」

椅子の上に胡坐をかいた琥珀がイライラした様子で爪を噛みながら言う。

「それを今から皆で考えようとしてるんだよ」

ディーが諭すように優しく琥珀に言った。

「彼女のあとを付けさせるといっていたのはどうなったのだ?」

私が聞くとディーが頭をかいた。

「それが撒かれてしまったそうだ」

「あちゃ~、どこでだ?」

ディーの言葉にコーガが軽く自分の頭を叩きながら言う。

「ファリチェットの辺りらしい」

ディーの言葉にコーガとヒューゴの頬がひくりと動いた。

「花街か?」

私の言葉に今度はディーとミレイがぎょっとした顔をした。

「大人の男性しかいないところなのによく撒くことができたな」

「そ、そうね」

ミレイがなぜかぎくしゃくとした返答をした。

「あ、そうだ。琥珀、お前が見たって言う指輪の話をしてくれないか?」

コーガが何か焦っている様子で琥珀に話を促した。

「うん、あぁ、オレもそこにいたんだけどなそこであの指輪と同じのをしたヤツを何人もみたことあんだよ」

なんだか言いにくそうに琥珀が言う。

「先ほども思ったのだが男性しかいないとこに琥珀はいたのか?」

ミレイが私と琥珀を交互に見る。

「店をやってるのは女ばっかだからな」

「ん?そうなのか?」

私が琥珀に詳細を尋ねようとすると、

「それはどんな指輪なの?」

ミレイが琥珀に覆いかぶさる勢いで言った。

「どんなって…」

私は立ち上がって先日クラウスとヒューゴが使っていた板石と白墨を持ってきた。

「形はこの様なものだったな」

私は板石に指輪の形を描いた。

「そうそう」

琥珀があからさまにほっとした顔をして言った。

「指輪自体は銀色で印台の形は丸型で彫金が施されていた」

「紋章指輪のようだな」

「こんな感じだったな」

私は印台のところに火の灯った燭台のようなものと女性の横顔と斜めの三日月のような模様を描いた。

「あと、ここにもかいてあったぞ」

琥珀が白墨で円の周囲に文字らしきものを描いて中の文様をぐるりと囲んだ。

私が自分の記憶の中から指輪に焦点を合わせて琥珀の文字を補完する。

「が・れ・づ・き・た・そ…か?」

「なにそれ?」

コーガがぐるりと囲んだ文字を一字づつ読むとヒューゴが首を傾げながら言った。

「れづきたそ…づきたそ…」

コーガが一文字づつずらして読んでいく。

「黄昏月じゃないかしら」

ミレイが先に言う。

「黄昏月?」

コーガが聞く。

「そうだとするとやっぱりこれは三日月ね」

ミレイが指輪の文様の三日月らしきところを指して言う。

ミレイの言葉に分からないとばかりにコーガが両掌を上にあげて軽く首と連動させて動かした。

「大まかにいうと黄昏月っていうのは夕方に見える三日月のことよ」

コーガがうんうんと小刻みに頷いた。

「そういう言う名前の団体ってことか?」

ディーが首を傾げた。

「それについてはディーとコーガが花街で確認すれば良いのではないか?」

「ま、それについては方法やりかたを考えておこう」

ディーが頷いた。

「私もグルードに聞いてみるわ」

「確かによく行ってそうだもんね、グルード」

ミレイの言葉にげんなりとした顔のヒューゴが言う。

「グルードって…あぁ、あの『研究棟の歩くせ…』」

コーガそこまで言って言葉を止めた。

「せ?」

私が続きを促すとコーガが自分の口を二度三度声を出さずにあけてから

「そ、それはそうとあの屋敷から馬車で何人も連れて行ったって話なんだが」

と、慌てた様子で言った。

「どこに連れて行ったとか分かったのか?」

ディーの言葉にコーガが頷く。

「馬車屋がいうには、なんだかハークの方に連れて行ったって言うんだよ」

「ハーク?」

「あのあたりには山しかないわ」

ミレイが上を見ながら思い出すように言う。

「村も少ないしな」

コーガが補足するように言う。

『ハーク』という地名に聞き覚えがあった。

しかも、割と最近だ。

私は目を閉じて自分の記憶をさかのぼった。


『「ハークの辺りに出たという話はいつ頃の話なのだ?」

老婦人は緩やかに両手の指を組みながら首を左右にゆっくりとふった。』


「その地名は始めてミレイたちに会った『ゲラルドの村』で老婦人が言っていたところだな」

私の言葉に全員が私の方を見た。

「そういえばきんちゃんあの時におばあさまのお話を聞いていたわよね」

「何を聞いたんだ?」

「闇男というものが氷の城に住んでいて子供たちをさらうという話なのだが、その闇男というものが今年の頭ごろにハークの山に出たというものだった」

ディーに聞かれたので聞いた話を要約して話した。

「連れて行ったりさらってたりって…なんか忙しいね」

ヒューゴが首を傾げながら言った。

ディーが下を向いて顎に手を当てて息を吐き出した。

「ハークの件は急ぎ調べて見よう」

ディーがそう言うと琥珀が顔を上げてディーを見た。

「ねーちゃんもそのハークってとこにいんのか?」

「その可能性もあるか…とにかく調べてみないとわからんな」

琥珀が両腕を組んで頬を膨らませる。

「なんだよ、話してもちっともねーちゃんをだせねぇじゃんか」

「すまないな、彼女を安全に助け出すためにもう少し我慢してくれ」

ディーが琥珀の頭に優しく手を乗せた。

「わかったよ…でも早くしてくれよな」

「約束するよ」

ディーの言葉に琥珀が黙って頷いた。

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