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8話

 食事の後、湯をもらって身体から汚れを落とした。

身体を見られる訳にはいかないので理由をつけ一人ではいり濡れた髪を外に出て風で乾かしているついでに周囲を伺う。

夜になったせいか昼間よりさらに奇妙な空気を感じる。

しいていうなら歪んだ、もしくは澱んだ空気だ。

その空気が霧のように薄く広がり周りの動植物をざわめかせる。

先程聞いたこの辺りの伝承も気になる。

老婦人の話では〔闇男〕と呼ばれる影のような男達が遅くまで起きていたり

夜に野外にいるものを山を越えた向こうにある〔氷の城〕というところに攫っていくという話だった。

[いまでも闇男達は凍てつく氷の城に住んでいて子供達をさらうんだよ]

老婦人は話をそのように締めくくった。

「そんなもん、いないよ」

少年が虚勢をはった。

「ハークの山の方で出たっていうよ」

「うそだい!出たってやっつけてやればいいんだろ!」」少年は勇ましく立ち上がり台所をあとにしようとした。

「お客様にご挨拶は」

老婦人に言われ少年は老婦人の方を降り向いてから私に向かい丁寧な挨拶をしてから踵を返しでていった。

「ハークの辺りに出たという話はいつ頃の話なのだ?」

老婦人は緩やかに両手の指を組みながら首を左右にゆっくりとふった。

「今年の頭にはそんな話を小耳にはさみましたね」

老婦人の目が思い出しているのか、眠いのか細まった。

「きんちゃん、遅くまでお邪魔しては駄目よ」

台所の入口からミレイが顔を出した。

「お時間をお取りして申し訳ない.

いろいろ、教えていただきありがとうございました」

私は老婦人にお礼をいい、ミレイの方へ向かった。


老婦人の話に思いを廻らせながら月を見上げていると、目の端に男3人が向こうから歩いてくるのが見えた。

多分、ディーとコーガとヒューゴだろう。

私に気がつくとディーとコーガは目を大きくし身体を強張らせたが、逆にヒューゴは目を細め軽く身体を屈めた。

「きんちゃん、一人でお外にでてちゃダメじゃない」

私は扉の後ろに目だけを向け

「いや、先程までミレイがいた」

といった。

ヒューゴはまぁ、ぼくが来たからいいけどとつぶいてから、

「きんちゃん、そういう髪型も似合うね!かわいい!」

と、目を細めてにっこりと笑う。

ヒューゴの方が小動物のようで愛らしく多分、これがそうなのかと思ったので、

「ヒューゴの方がかわいいと思うが」

というとヒューゴは口を曲げ腕を組むとそっぽを向いた。

「なにか、嫌な事を言ってしまったか?」

ヒューゴの機嫌を損ねたようなので聞いた。

「あのね、男はかわいいっていわれてもうれしくないの!」

成る程、男女によって誉め言葉が違うらしい。

「難しいな。また、間違えていたら教えて貰えるとうれしい」

と、率直に言うとヒューゴは顔に片手を当てた。

何かに緊張していたのかディーとコーガが肩の力を抜くように大きくため息をついてから笑い出した。

「ぼくがわかる事ならいくらでも教えてあげるから、もう部屋に入ろう」

ちらりとディーとコーガの方を見て口を尖らせたままヒューゴは私の手を引いて借り家の扉に向かった。


 「ご多幸を」

「精霊のご加護を」

ゲラルドの村長の一家が口々に別れの言葉をいいながら村の入口まで私達を見送ってくれた。

ミレイとコーガはディー達を待つ間、村の仕事を手伝っていたので親しくなったと言っていた。

「さっきの別れしなに、村長さんの奥さんがきんちゃんの事をかわいいかわいいってさかんに誉めてたわよ」

ミレイが自分が誉められたかのようにうれしそうに言った。

「『村長さんの奥さん』?」

どの人の事かわからずミレイに問い掛けた。

「昨夜、食事を出してくれた方よ」

私の疑問はそこではなかったのだが

ミレイは私が固有名詞がわからないものだと思ったらしく答えてくれた。

「…先程の人の中にいたのか?」

私の言葉にディーもコーガもミレイもヒューゴも歩き出した足をぴたりと止め振り向くと一斉に私を見た。

「きんちゃん?」

ヒューゴが何故か恐る恐る私の事を呼んだ。

私は強張った顔のミレイに自分の顔を向けた。

「私は髪型や服などを変えられると人の見分けがつかないようなのだ」

この事は推測するに通常、私は名前で呼ばれる事がほとんどなく私も相手の名前を呼ばなくても事が足りていたので

人を個別に認識する必要がなかったからだろうと思われる。

「問題があったのなら。すまなかった。しばらく同行する以上、改善する努力をする」

ミレイが眉をしかめ片目を上げるという変な顔をした。

コーガは口が大きくあいたまま間抜けな表情になっていた。

ディーは村の入口にあった朽ちて崩れかけた石柱に片手をあてため息をついた。

ヒューゴだけは小走りで私の横まできて

「きんちゃん、ぼくがわかる?!ねぇ、ぼくが誰かわかる?!」

と不安そうに言い募ってきた。

「ヒューゴは髪型変えていないし、服装もだいたい同じだから見分けはつく。動きが他の者とは違うし」

それに捕獲用の穴に落ちた人狼という強い印象もあるので忘れにくい。

ヒューゴがほっとした顔をした。

「きんちゃん、ぼくだけは見間違えちゃだめだからね!」

何故、ヒューゴだけなのかはわからないがヒューゴが満足そうに言っているのでよい事にしておいた。

「きんちゃん、いままで困らなかったの?」

ミレイが困惑した口調で聞いてきたので私は頷いてから

「情報としては覚えているからあまり困る事はなかった」

と答えた。

「情報って?」

コーガが2度ほど首を左右に振ってから私に問いた。

「名前を聞けばわかる」

「…例えば、『カズン』と言ったら?」

ディーの問いに柱の陰からの声がよみがえる。


『カルウェール様が王宮にいらっしゃったらしいわよ』『何の御用でいらっしゃったのかしら』『それは…』『あぁ、うふふ』


思い出した私はつい、私も困ってないことを証明しようと話し出してしまった。

「『カズン』とは、『カズン・カルウェール・アズ・ロンダギア』のことでよいのか?」

ディーに聞き返すと頷いたので続けた。

「ロンダギア王国の次男。21歳。王位継承権は第3位。茶髪、碧眼、身長は私より頭一つ半程高く、

趣味は狩猟。年上の女性を好む。』あっていたか?」

ディーが黙って頷く。

「相手の名前さえわかれば対外的には困らなかったのだが、問題があるのなら気をつける」

「きんちゃん…」

ミレイが疲れたように肩を落とし、コーガはさらに頭を振っり、ディーは口元をあげた。

ヒューゴだけは

「きんちゃんが困ったらぼくが教えてあげるね」

とニコニコと笑った。


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