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3-14

 「はなせよ!おっさん!」

「おっさんって…」

困惑した様子のコーガに首根っこをつかまれて動いている者が言った。

どこかで見た動きな気がすると思ったら先日エディンが捌いていた魚だと思い当たった。

コーガに宙につるされたままうねるように左右に体を跳ねさせている。

「はなせって言ってんだろ!“ミコ”とかいうのだ・せ・よ!」

いきのいい魚の者にそう言われて全員の動きが止まった。


月も高く上がる頃に西棟の中がにわかに騒がしくなった。

「この!すばしっこいな!」

「僕が行く!」


ガシャーン!


何かが倒れて割れる音がする。

ディーがわざと人払いをしたため、西棟には警備の兵はいない。

本館に比べればだいぶ小さいとは言え西棟のこの範囲エリアもそこそこ広い。

「そっちか?!」

ディーの声がする。

「そっちにいるわ!コーガ!」

ミレイの声が扉越しにする。

私の前には絶対に廊下に行かせまいとする決意のエディンが立ちはだかっていた。

「私も探した方が早くないか?」

エディンに言うとエディンが首だけを回して視線を私に向けた。

「ヴィ様」

その一言に万感のあれやこれやの気持ちが入っていたので私は黙って扉を見た。

「捕まえた!」

「やった!」

コーガの声に私はエディンを見てエディンもうなずいたので部屋から出た。


「はなせって言ってんだろ!」

「いてっ!」

手をかまれてコーガが一瞬怯んだすきに魚の者が体の反動を使ってコーガの手から逃げたのをヒューゴが足払いをかけて転ばせる。

「…ゥテ、てて」

魚の者が打ち付けた手をさすりながら起き上がり座って私たちを見上げ、

私たちにぐるりと囲まれているのが分かり諦めたのか大きくため息をついた。

「わかったよ。もう逃げねえよ…どこにでも連れてきゃいいだろ」

「くさい…」

エディンの言葉に皆無言でうなずく。

確かに放置した雑巾ウエスのような匂いがする。

「まずは風呂だな」

ディーの言葉にコーガがまた魚の者の首根っこをひょいとつまんでぶら下げながら浴室に向かった。

エディンがそこから静かに離れ戻ってきた時には手に着替えの服を持っていた。

「うゎぁぁ!」

浴室からコーガの驚いた声がしたので皆で急ぎ浴室に向かった。

「どうしたの?」

ミレイの声掛けにコーガが魚の者を指さしながら、

「この子!この子!女!」

「私が入れます」

動揺しているコーガを押しのけるようにしてどかせてからエディンが魚の者に“ザバッ”と頭からお湯をかけた。


「で、君はなんでここにきたんだい?」

ディーが子供ということでなのかやさしい声で聞いた。

「さっきも言ったろ。『ミコ』とかいうやつを探しに来たんだ」

体より大きな服を着た魚の者は客間の布張りの椅子の上で胡坐をかきながら不貞腐れたように答えた。

「お名前は?」

「ねえよ」

ミレイの問いにぶっきらぼうに答える。

「名前がない?」

「いっつも『あれ』とか『それ』っていわれてっから…オレもしらねぇんだ」

ミレイが眉をひそめた。

「もういいだろ。どこにでも連れてけよ」

魚の者がぷぃっと横を向いた。

「君をどこかに突き出すなんてことはしないから安心しなさい」

ディーが優しく言う。

「しんじられねーな。おとななんてうそばっかつくからな」

魚の者が横を向いたまま答える。

「嘘じゃないわ。信じて」

ミレイがほほ笑みながら言うと魚の者がやや赤くなりながらこちらを向いた。

「んで、ちび。なんで『ミコ』を探してるんだ?」

コーガの言葉に魚の者が瞬時に片膝を立てて飛び上がると向かい側に座っていたコーガの腹に頭突きをした。

「ちびじゃねぇ!」

魚の者が立ち上がりながら言う。

「コーガ、それはいくらなんでも失礼よ」

腹を押さえて悶絶しているコーガを平然とミレイがたしなめる。

「お名前がないとあなたを呼べないわ」

「んなこと言われてもねぇもんはねぇんだから…」

魚の者の言葉に腹をまだ抑えながらコーガが、

「じゃ、ちびでいいだろうよ」

というと魚の者が飛び上がってコーガの頭に頭突きした。

「グハッ!」

コーガが今度は頭を押さえて背中を丸める。

「では、『魚』か?」

私の言葉に全員の視線が私に注がれた。

「却下です」

エディンがきっぱりと言った。

「そうね…『琥珀』ちゃんなんてどうかしら」

ミレイが立ち上がって魚の者の方に歩みながら言う。

「こはく?」

ミレイは腰を屈めて魚の者の顔を見てからそっと頬に手を当てその手を滑らすように動かすと魚の者の前髪をかき上げた。

「あなたの目のように綺麗な宝石の名前よ」

魚の者が硬直した後ミレイの手から逃れるように体を後ろに下げた。

ミレイの手から離れると横を向いた。

「すきにしろ!」


グー


顔を赤くした魚の者もとい『琥珀』の腹の音が客間に響いた。

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