3-12
「きんちゃん何してるの?!」
下からヒューゴの小声ながらも驚いた声がした。
「近道」
「危ないでしょ!僕がいたからいいけど!」
言いながら庇を伝って私のもとまで来ると私を片手で抱えて地面に向かって飛んだ。
「下まで行くのにこれが一番早いかと思って」
宿泊している棟の窓から外を見ていたら以外に月の光が明るいので外に出たくなった。
が、エディンが隣室にいたので窓から降りることにしたのだ。
「もう!それに一人じゃ危ないでしょ」
私を地面におろしながら耳元でヒューゴが小声で言った。
「つい、いろいろ見たくなってしまった」
「うん、ここならもっとできそうだもんね」
「そうだな」
ヒューゴも同じことを考えていたので横にいるヒューゴに笑いかけた。
ヒューゴが私に笑い返してすぐ緊張した顔になった。
「誰か来た」
ヒューゴが小声で言うとすっと音もたてずに茂みに身を潜めた。
「何者ですか」
巫女仕様での私の問いかけに正面右の庭園の木立から頭巾と外套に包まれた何者かが影のように現れた。
「巫女姫様とお見受けいたします」
この様な侵入者がいるのでは、先ほどヒューゴと話していたがここにも罠かけた方が良いのではないかと思った。
そしてこの者はヒューゴの気配に気づいていないようだ。
何者かはわからないが友好的な対面でないことはわかる。
この者が現れてから精霊石のある辺りが何かぬるい霞が焙られたような感触がする。
気持ちが悪い。
ただ、アデルの時などに比べるとその感覚があまりにも小さい。
精霊石関連の案件なのだろうか。
「ご内密に巫女姫様にお伝えしたいことがございますゆえ、ぶしつけながらまかり越しました」
いや、内密に来ているのなら用件だけを簡潔に言うべきだと思う。
「どのような事柄でございますか」
この姿からするとディーが言っていた私を襲撃するように襲撃犯を雇ったものだろうか。
声は高くもなく低くもなく平坦に話すので性別が判別しにくい。
「我等が主にお会いしていただきたくお願い申し上げに参りました」
「我等が主?」
例の主犯か。
「身元が明確ではない方のお申し出はお受けしかねます」
素性の分からない者に私が軽々についてくるとでも思ったのだろうか。
随分と軽く見られたものだ。
「救いの巫女様、主にお会いしていただき、
我等をお救いいただけますようお願い申し上げます」
影の者は膝をつき深く首を垂れる。
「『救いの巫女』?」
影の者は私の問いに顔を上げた。
「そうでございます。『救いの巫女様』」
勝手に知らない呼称が付いている。
しかもそう言った時の影の者が嬉しそうだったのがやや気持ち悪い。
「そのようにおっしゃられても身元が明確でない方からのお申し出はお受けしかねます」
影の者の気配が変わった。
「我等をお救いいただけないということですか」
落胆と怒りがないまぜになった声で影の者が言う。
救う救わない以前にそのような機能は私にはないのだが。
その上、見知らぬものに理由も分からず助けてくださいと言われてはい助けましょうと言える者はあまりいないと思う。
どんな空事をこの者に話しているのだ主犯は。
私はただ首を横に振った。
「それでは…申し訳ございません」
たぶん謝っているのではない台詞を言いながら影の者が私に向かってきた。
たぶんそう来るであろうとは思っていた。
本当に、何を考えているのだか。
その者が私に手をかける寸前に黒い塊が横から影の者を弾き飛ばし反対側の茂みにわざと大きな音を立て降りた。
「くっ!」
弾き飛ばされ地に手をついた影の者の頭巾が脱げて左右違う色の瞳が月の光の下で露わになった。
「何事だ?!」
夜警の兵士が音に気が付いてこちらに走ってくる音がする。
影の者は立ち上がると振り返ることなく闇の中に紛れ込んだ。
私はヒューゴの移動した元の茂みに向かい合流するとヒューゴの指示でやや位置を変えて身を潜めた。
「侵入者か?!」
「姿はないぞ!」
「探せ!」
私達がそこにいると話がややこしくなりそうなので夜警の兵士の声を背にしながら私とヒューゴは身をひそめながら少しずつ移動して自分にあてがわれた部屋のある棟に向かった。
兵士たちの声が遠くなるとヒューゴが人姿形になり服を手早く着た。
「ヒューゴ」
私が声を掛けるとヒューゴが振り向いた。
「ありがとう」
私が礼を言うとヒューゴが笑って私の背に乗りかかってきて首の前で腕を交差した。
「きんちゃんを守るっていったでしょ」
ヒューゴが耳元で言った。




