3-11
「きんちゃぁーん!おかえり!」
西の別棟の前回も使った部屋に行くとヒューゴが抱き着いてきた。
「ん?武局はどうした」
ディーがヒューゴに言う。
ヒューゴが私に抱きついたまま首だけディーに向けた。
「『大祭』まで自由だといってもちゃんといかないと出席日数足りなくなるぞ」
ディーの話を聞いて私はやはりそうであったかと思った。
「今日はちゃんといったよ!んで、ちゃんと寮で着替えて着替えも持ってきたもん」
「ほんとかぁ?」
ディーの半目にヒューゴが“うん”と言いながら大きく頷く。
「着替え?」
「だってきんちゃんこっちに泊るでしょ!」
ヒューゴが私から体を離して私の両手を持つと楽しそうに上下に動かしながら言った。
「確かに泊まるが」
着替えと私の宿泊に何が関係するのだろう。
「だから僕もここに泊るの!僕がきんちゃんを守るって言ったでしょ」
「あぁそうか…ありがとうヒューゴ」
私が礼を言うとヒューゴがニコニコと笑いながら“うん、うん”と小さく頷いた。
「明日もちゃんと武局いけよ」
ディーがヒューゴに釘を刺した。
「はぁぁーい」
ヒューゴが口を尖らせてから間延びした返事を返した。
コンコン
扉を叩く音がしてディーが返答を返すと本館を出るときに合流したミレイとエディンが入ってきた。
部屋にすでにいたヒューゴを見てミレイが軽く噴き出した。
「武局から走ってきたの?」
「うん、すごーく急いできたんだ」
ヒューゴが胸を張ってミレイに言う。
「まったくこの『エ…』」
ミレイの後ろにいたエディンがそこまで言ったところで私以外の人がエディンを見たのでエディンがそこで言うのをやめた。
「エ?」
「きんちゃん、着替える?」
ミレイがなぜだかやや慌てたように私のところに来て言った。
「確かに着替えはしたいが…」
私は皆の一瞬あった変な沈黙が気になった。
「エディン、何か言いかけてなかったか?」
「何でもありません」
エディンがきっぱりというのでそのままミレイに手を引かれて部屋を出た。
着替えて部屋に戻るとコーガも来ていた。
「きんちゃん、ご飯食べよ!」
ヒューゴに食事の支度がされている部屋に向かって手を引かれた。
人払いを兼ねてなのか今回も給仕するものもない中の食事だったのだがエディンが給仕をしようとするのでミレイが席に着くように言っても躊躇している様子だった。
「エディン、私は巫女以外で人と食事することが無かったのだがここにきて初めて皆と食事することが楽しいと知った。だからエディンもその中に入ってくれないか?」
私はエディンが居住まいが悪そうなので思わず言ってしまった。
エディンの顔がやや赤くなった。
「ね!」
ミレイが一言でエディンを促した。
「はい」
エディンが静かに席に着いた。
食事も終わり、食後のお茶をミレイとエディンが用意して私とヒューゴが皆に配った。
コーガもディーも手伝おうとして“でかいから邪魔”とミレイに断られていた。
「…と、言う感じで『鷹』について分かったわけではないのだが…」
私はメリッダとエルミに聞いたことを話した。
「そんな伝承とかだけじゃわかんねぇな」
コーガが言う。
「あと、水のあるとこで変な人に会ったよ」
「あぁ、そうだった」
ヒューゴの言葉に思い出して泉での一件を話した。
「竜人族の人ががきんちゃんのことを『災厄の星』って言ったの?」
ミレイの言葉に私は頷いた。
「どういう意味なんだ?」
コーガの問いに私も首を傾げた。
「竜人族の間ではまた別の伝承があるのかもしれないわね」
ミレイの言葉に改めてその可能性を考えた。
「竜人の方々はガルドの族長会議には出ていなかったようだが」
私は族長会議の議事録を思い出してディーの方を向いて言うとディーも困った顔をした。
「あそこは昔からこちらも介入しない代わりにあちらも介入しないことになっているから詳しいことが分からないんだ」
ディーが頭をかいた。
「古来種は皆、そうでないものを警戒してますので」
エディンが声を上げたので皆驚いてエディンを見た。
皆の視線を受けてエディンが顔を赤くして下を向いた。
「どういう意味なのかわかるなら教えてくれない?」
ミレイが気遣うようにエディンの顔を覗き込む。
「…私達が襲われたのは子供の時だったので詳しいことはわかりかねますが…」
「ちょっと待て!襲われるって!」
コーガが焦ったように言った。
「私の出自はガルドではありません。売られてた私をミレイ様が救ってくださったのです」
「エディンを売る?」
驚いた私の言葉にエディンが皮肉めいた笑いをした。
「古来種は希少ですから。国によってはそういうこともあります。
ですので侵入者対して警戒するのは当然でしょう」
「そのようなことはガルドでは許されてはいない」
ディーが通る声で収めるように言った。
「はい、ですから私はここにいます」
エディンが真っ直ぐな目でディーを見た。
「この先もそのようなことはここでは行わせない」
エディンが瞼を閉じゆっくりと開いた。
ディーが深く頷くとエディンが息を吐いた。
「あと、先ほどの話のことなのですが」
エディンが何かを思い出したようだった。
「なにか知っているなら教えてくれないだろうか」
私は思わず立ち上がってエディンに声を掛けた。
エディンは顎に人差し指を当ててから一人頷いた。
「同じ『星』のことかわかりませんが、子供のころ『星は均衡を崩す』と大人がいっていたのを聞いたことがあります。それが何を指すのかはわかりませんが恐ろしいもののように言っていたのを覚えています。
そして私達が襲われる少し前に大人たちが慌てた様子で『星の欠片が奪われた』と言っていたのも聞きました」
星とは精霊石のことだろうか。
「『星は均衡を崩す』『星の欠片が奪われた』か」
ディーが腕を組んで上を向いた。
「お役に立てず申し訳ございません」
エディンが下を向いてそう言うとディーが組んでた腕を外して片手を軽く振った。
「そういう意味じゃないから…きんちゃんはどう思う?」
「星とは精霊石のことなのかとも思うが…星の欠片というなら前にヒューゴにも話したが『紡いだ時に砕けたかけらは地に落ちたという』方の星ということになるのだろうか」
「うーん」
全員で天井を見て考え込んでしまった。
「そうだ、ヒューゴ」
会話の流れを変えようとしたらしいディーが快活にヒューゴに声を掛けた。
「なに?」
急に呼ばれたヒューゴがディーの方を向く。
「お前、その格好の時のきんちゃんに付きまとうなよ」
ディーが軽く片目を閉じながら言う。
「なんで」
ヒューゴが頬を膨らました。
「お前、普段からきんちゃんのとこにちょろちょろしてるからお前がいるとせっかく変装してるきんちゃんのことがばれちまうだろ」
「ちょろちょろなんてしてないもん」
ヒューゴがディーを見てからぷいっと横を向いた。
「お前はきんちゃんを守るんだろ?」
「そうだけど」
「なら、わかるよな」
ヒューゴが頷いてディーを見た。
「何かに使おうとしないならそうする」
「今のところはそうだな」
ヒューゴの目が険しくなった。
「わかった」
承諾の意を持ちながらも険しい目のままヒューゴが答えた。
「大丈夫!僕が守るからね!」
急に私の方を向いてにっこりと笑いながらヒューゴが言うのでよくわからないまま頷いた。




